日医ニュース
日医ニュース目次 第1219号(平成24年6月20日)

第1回日本医療小説大賞 贈呈式
帚木蓬生氏の「『蠅の帝国 軍医たちの黙示録』 『蛍の航跡 軍医たちの黙示録』」が受賞

第1回日本医療小説大賞 贈呈式/帚木蓬生氏の「『蠅の帝国 軍医たちの黙示録』『蛍の航跡 軍医たちの黙示録』」が受賞(写真) 第一回日本医療小説大賞(日医主催,厚生労働省後援,新潮社協力)の贈呈式が五月二十四日,都内で開催され,日医からは,横倉義武会長始め,今村聡副会長,葉梨之紀・石川広己・道永麻里各常任理事が出席した.
 本文学賞は,国民の医療や医療制度に対する興味を喚起する小説を顕彰することで,医療関係者と国民とのより良い信頼関係の構築を図り,日本の医療に対する国民の理解と共感を得るとともに,わが国の活字文化の推進に寄与することを目的として,昨年度新たに創設したものであり,今回が第一回の贈呈式となる.
 対象は,医療をテーマにした小説,あるいは医療を素材として扱っている小説(ノンフィクションは除く)で,平成二十三年一月一日から十二月三十一日までに書籍化されたものとし,本年三月二十三日に三名の選考委員(渡辺淳一氏,久間十義氏,篠田節子氏)により行われた選考会で受賞作品を決定した.
 今回の受賞作品である帚木蓬生氏の「『蠅の帝国─軍医たちの黙示録』『蛍の航跡─軍医たちの黙示録』(二編一作品)」は,帚木氏が軍医の手記等の資料を二十年ほどかけて集め,第一線の軍人とは異なった軍医という視点から,戦場の過酷な状況を描いた短編集で,二〇〇八年に急性骨髄性白血病に罹(かか)った帚木氏が,半年間の入院中,闘病しながら書き続けた作品である.
 贈呈式では,まず,主催者を代表して横倉会長(今村副会長代読)のあいさつが行われ,医療の本質は医師と患者の協働作業であり,その作業に当たって最も大切なものは,医師と患者の信頼関係であるとした上で,「本文学賞が広く世間に認知され,受賞作品が一人でも多くの国民に親しまれる中で,より良い医師と患者との関係の構築につながって欲しい」と本文学賞の今後の発展に期待を寄せた.
 続いて,選考委員を代表して渡辺淳一氏が,本受賞作品について,「若き軍医の記録を繙(ひもと)き,医師からの視点で戦場を緻密(ちみつ)に興味深くえぐり出した貴重な作品であり,満場一致で授賞が決定した」と講評.その上で,医療には医師だけでなく,国民誰もが患者やその家族として関わりを持つものであり,その意味では誰もが医療小説の参加者であるとして,医療小説という新しいジャンルが更に広がりを持って国民に浸透していくことに期待感を示した.
 引き続き賞の贈呈に移り,今村副会長より帚木氏に賞状並びに副賞の授与が行われた.
 受賞者のあいさつで帚木氏は,医師が軍医として戦争に駆り出され亡くなっている事実を,われわれ若い医師は忘れてはならないと強調した上で,「本受賞作品は,戦争で亡くなった方々への良い供養になればとの思いから執筆したものであるが,更に本賞まで頂くことが出来,感無量である」と,受賞の喜びを語った.
 公務終了後駆け付けた横倉会長は,記念撮影後,受賞者の帚木氏に対し祝辞を述べた.その中で,同会長は自身が,昭和二十年に敵機による奇襲攻撃を受け,偶然居合わせた医学生に助けてもらった乳児期の話を紹介.「本文学賞をきっかけとして,国民に医療をより身近に感じてもらえればありがたい」と述べるとともに,受賞者並びに参会者に対し,本文学賞への更なる協力を求め,贈呈式は終了となった.

帚木 蓬生 氏
(ははきぎ ほうせい)

 小説家,精神科医.1947年生まれ.福岡県出身.東京大学文学部仏文科卒業後,TBS入社.退職後,九州大学医学部を経て精神科医に.診療の傍ら,執筆活動に励む.代表作として,「白い夏の墓標」(1979年直木賞候補),「三たびの海峡」(吉川英治文学新人賞),「閉鎖病棟」(山本周五郎賞),「逃亡」(柴田錬三郎賞),「水神」(新田次郎文学賞)等,多数の著作あり.現在,福岡県にて心療内科を開業.

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