日医ニュース
日医ニュース目次 第1236号(平成25年3月5日)

小森常任理事に聞く
新型インフルエンザ等対策特別措置法の適切な運用に向けて─新型インフルエンザ等対策有識者会議「中間とりまとめ」を受けて─

小森常任理事に聞く/新型インフルエンザ等対策特別措置法の適切な運用に向けて─新型インフルエンザ等対策有識者会議「中間とりまとめ」を受けて─(写真)新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に至る経緯

 二〇〇九年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)では,日本でも二千万人以上の方が感染したと推計されています.
 その中で日本は,国民の公衆衛生に対する理解,国民皆保険の下での医療へのアクセスの良さに加えて,地域医療連携の下,全国の医療関係者の真摯な努力により,人口十万対死亡者数〇・一六と,国民の健康被害を諸外国の中で最小に抑え,世界から賞賛を浴びました.
 一方,医療現場においては,「症例定義」の度重なる変更,接種体制(個別接種)と供給バイアル容量(十ミリリットル)の不整合,接種回数の変更,情報の錯綜などで,混乱を余儀なくされました.
 日医は,二〇〇九年の経験を踏まえて,現場重視の観点から,地域医療提供体制の充実,医療関係者への補償や,予防接種の枠組みづくりなどについて,より適切な医療体制や法律的な整備を数次にわたり政府に要望して参りました.
 前述の医療関係者の自律的な努力とその成果は,政府・国会も認めるところであり,二〇一二年四月に制定された新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下,特措法という)では,その実施体制について,医療現場からの声が十二分に反映されたものとなりました.

新型インフルエンザ等対策有識者会議の設置

 特措法の成立を受け,同年八月からは,日医や病院団体,関連学会を始め,法律の専門家,メディア,経済団体,労働団体,地方公共団体など,内閣総理大臣の任命による広範な有識者により「新型インフルエンザ等対策有識者会議」(以下,有識者会議という)が設置され,特措法の基本的な運用のあり方について精力的に議論が進められてきました.日医からは私が参画し,地域医療の現場が適切に機能するよう,種々の問題点を施策に反映させるべく努めて参りました.
 今回は,今後の新型インフルエンザ等に対する地域医療提供体制の構築に向けた議論の参考にして頂くためにも,特措法の仕組みや関連する有識者会議での議論を中心にご説明したいと思います.

特措法は万が一のための備え

 特措法は,その定義からも明らかなように,新型インフルエンザH5N1だけを対象にしているわけではありません.有識者会議でも,他の亜型のインフルエンザや再興型,新興感染症も対象とすることや,H5N1であっても病原性が高いとは限らないことに留意すべきと強く指摘されました.
 被害想定についても,欧米諸国と同じ「スペイン風邪並み」とされましたが,被害は大きい場合も小さい場合もある中で,あくまでも「一つの想定」であり,冷静かつ柔軟に状況に対処すべきことも強調されました.特措法は,あくまでも万が一に備えるためのものとご理解頂ければと思います.

医療関係者の主体的な協力が何より重要

 特措法は,診療体制や治療方法等について,医療関係者の裁量や医療現場の自律的対応を縛るものでは決してなく,患者を治療する医療関係者を支えることを主眼としています.
(一)医療関係者への補償
 地域住民の健康を守るために真摯に対応する医療関係者は,例え感染防御の努力をしても,新型インフルエンザ等の患者からの感染・発症の可能性があります.医療関係者が感染により健康被害を受けた際には,その努力に報いるためにも,制度的にその損害を補償すべきと日医は主張して参りました.
 その結果,特措法では,都道府県知事から新型インフルエンザ等患者の医療に従事するよう要請された医療関係者に対して,その損害を補償する仕組みが設けられました.
 医療従事の「要請・指示」に違和感を持つ声を耳にします.有識者会議の中では,私も「要請・指示」は謙抑的に行うべきと指摘しましたが,あらかじめ都道府県の行動計画などを検討する際に,行政と地域の医師会等が普段からよく相談し,医療関係者が十分納得の上で「要請」がなされることが必要であり,「指示」に至ることがない状態が望ましいとの議論がなされました.
 また,仮に指示に従わなかったとしても罰則はありません.「要請・指示」は「補償」のための手続きと考えて頂ければと思います.
(二)医療関係者への予防接種の優先実施
 二〇〇九年の新型インフルエンザの際,医療関係者は優先的に予防接種が受けられましたが,法的な仕組みがなく,混乱も見られました.
 そこで,特措法では,医療提供体制の安定を確保するため,医療関係者に対し,国が予防接種を優先的に実施(特定接種)することとされました.
 特定接種の対象者は,医薬品関係,電気やガスなど国民生活・経済の安定に必要な事業も含まれますが,有識者会議でも,医療関係者は国民の生命を救うものとして,何を置いても優先的に接種すべき職種とされました.
 特に,新型インフルエンザ等を診療する医療機関では,窓口職員も含めてチーム医療の観点から幅広く対象とするべきとの議論がなされました.
 なお,特措法では,抗インフルエンザウイルス薬等の備蓄も義務付けています.現在,国と都道府県が備蓄している抗インフルエンザウイルス薬は国民の四五%以上をカバーする量に相当し,市場流通分を含めると六五%以上に相当します.
 発生時には,医療機関に速やかに流通するよう,最大限の努力をして参ります.
(三)政府対策本部への助言機関の設置
 新型インフルエンザ等対策の決定には,専門家の意見を反映させることが重要です.特措法では,発生時の状況に応じて,基本的対処方針等諮問委員会(政府対策本部に対し,医学・公衆衛生学的専門事項に関する助言を行う機関)の評価を聴いた上で,政府対策本部が諸種の対策を最終決定することとなりました.
 同委員会には,私も参加することになっており,全国の医療現場の情報がスムーズに政府中枢に伝わり,医療現場が真に動きやすい対策が講じられるよう努める所存です.
(四)日本医師会が指定公共機関に
 新型インフルエンザ等対策では,全国的な対応が必ず必要になるであろうことを踏まえ,今回,初めて日医として,内閣総理大臣から指定公共機関としての指定を受けることとしました.日医としては,都道府県医師会,郡市区医師会と連携して,全国各地域の医療提供体制の確保に尽力していきたいと考えています.

医師会に求められるもの

 有識者会議では,時に侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論が行われましたが,この議論を通じて,特措法の目指すところが,より一層深められたのではないかと思っています.
 今後,各都道府県や市区町村で,行動計画や運用上の諸問題について検討が進められることとなりますが,その際には,新型インフルエンザ等対策の中心である医療を担う地域の医師会が中心となって頂きたいと思います.
 日医も真に国民に求められる医療提供体制の実現に向けて努力して参りますので,引き続き,ご協力のほどお願いいたします.

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