日医ニュース
日医ニュース目次 第1241号(平成25年5月20日)

小森常任理事に聞く
「かかりつけ医」機能を強化するため生涯教育制度を更に充実させる

 厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」の報告書が,このほど取りまとめられ,公表された.そこで,今号では,検討会に委員として出席していた小森貴常任理事に,報告書の内容等について説明してもらった.

小森常任理事に聞く/「かかりつけ医」機能を強化するため生涯教育制度を更に充実させる(写真)Q.報告書がまとまるまでの経緯について,教えて下さい.

 現在の専門医制度は,平成十四年の厚労省告示以来,学会が乱立するなどの問題を抱えており,国民に分かりやすい専門医制度に改革する必要があるという機運が医療界全体に広がっていました.その流れの中でこの議論が始められたのですが,専門医制度の改革は,長年,手を付けられてこなかった部分でもありますし,将来の医療制度の在り方とも密接に関わるものですので,日医執行部としては相当の緊張感をもって,この問題に対応してきました.
 検討会は,平成二十三年十月に設置され,平成二十五年三月まで十七回にわたって開催され,これからの専門医制度について検討を行いました.
 久史麿日本医学会長の座長の下,当初は,三上裕司常任理事と高杉敬久常任理事が本検討会に出席し,日医からのヒアリングも行われました.平成二十四年度からは,高杉常任理事と私が出席し,十七名の委員の方々と意見の集約を図って参ったところです.
 検討会で日医の考え方を示す上では,会員や地域医師会からのご意見を頂きながら執行部内で繰り返し議論を行い,報告書の文言を一言一句まで吟味してきましたが,報告書には相当程度,日医の意見を盛り込むことが出来たと思っています.

Q.報告書の内容に関して,どのような見解をお持ちですか?

 この報告書には,いくつかのキーワードがありますが,プロフェッショナルオートノミー(専門家による自律性)という概念が最も重要です.
 これは,新たな専門医制度について国家が関与してはならず,専門医の認定・配置についても国家が管理してはならないことを確認したものです.
 わが国の医療提供体制の根幹であるフリーアクセスは堅持されるべきですし,「かかりつけ医」が中心となって地域医療を担っている,日本の優れた医療提供体制が揺らぐことは絶対にあってはならないので,この理念を書き込ませました.
 報告書の中では,専門医の位置付けについて,「新たな専門医の仕組みは,プロフェッショナルオートノミー(専門家による自律性)を基盤として,設計されるべきである」と謳(うた)われており,この理念は,報告書全般を通じて貫かれている重要な考え方です.
 専門医の新たな制度は,医師によって自律的に運用されることが明記され,ここに,国家が関与しないということが明確になっています.

Q.報告書には専門医制度に対する医師会の役割についても記載されていますね.

 報告書には,「専門医の認定・更新にあたっては,日本医師会生涯教育制度などを活用」と日医生涯教育制度の役割が強調され,地域医師会の役割についても,「専門医の養成プログラムを作成するにあたっては,地域の医師会等の関係者と十分に連携を図る」「専門医資格取得後も,都道府県や大学,地域の医師会等と研修施設等の関係者が連携し,キャリア形成支援を進める」と書き込まれています.
 国の審議会の報告書に,「医師会」という文言が六カ所に記載され,医師会の役割がはっきりと盛り込まれたのですから,この点については評価出来るのではないでしょうか.
 日医としましては,専門医制度に関して国家が関与することにより,医療制度が歪(ゆが)められることのないよう,医療者自らが制度運営を主導出来るように腐心してきました.それだけ,日医,地域医師会の役割が重みを増すことになりますし,果たさなければならない責任も大きくなると言えます.
 日医では,地域医師会のご協力を賜りながら,生涯教育制度を昭和六十二年から二十七年間にわたり実施してきております.全ての医師が参加可能で,全国展開し,運営されている制度は他にはありませんので,専門医制度においても,これを活用すべきであると考えています.
 第VII次生涯教育推進委員会への会長諮問も「日医生涯教育制度の普及と専門医制度について」ということで,生涯教育制度を専門医制度で生かす方策について,倉本秋委員長(高知医療再生機構理事長)始め,全国から十二名の先生方に委員としてご参集頂き,真摯(しんし)な議論を行って頂いているところです.

Q.報告書に記載されている「総合診療医」については,いかがですか.

 検討会においては,「総合診療医」を基本領域の専門医の一つとして評価することが適当とされました.その名称については,検討当初は「総合医」「家庭医」「総合診療医」などまちまちであり,その定義があいまいであったため,議論が錯綜(さくそう)しました.
 日医としては,この問題を極めて重要な課題であると考え,第VI次生涯教育推進委員会の答申を基に,基本領域の一つに新たに加えられる専門医の名称は,「総合医」ではなく,「総合診療医」であると繰り返し主張して参りました.
 前述の答申には,「総合医」とは,「日常行っている診療の他に,学校保健,産業保健,在宅医療,地域の医療行政と連携した活動などを行い,更には介護・福祉などを含むさまざまな保健医療活動に従事する医師を指す」とされており,「総合医」が持つ機能は,「かかりつけ医」機能そのものであることから,これを専門医の名称として使用し,医療制度上に位置付けることは,容認しがたいものでした.
 一方,「総合診療医」は,「大学病院,地域の中核病院の総合診療部の医師に見る如く,主として一般内科を中核として,精神科,皮膚科,小外科,眼科,耳鼻科,整形外科など周辺領域について広い領域にわたって基本的レベルの診療を行う医師を指す」とされています.
 検討会の「中間とりまとめ」の段階においては,「総合医」「総合診療医」という言葉が並列して使われていましたが,最終的には日医の主張が受け入れられて,「総合診療医」とされました.
 また,その定義につきましては,今後の高齢化や疾病構造の変化を踏まえ,主に大学病院の総合診療部門で研鑽,勤務し,日常的に頻度の高い疾病に対して,主に初期対応を中心に診療に当たる医師を指し,その専門性を評価するものとしました.総合診療医を指向する若い医師も存在しますので,そうした医師に対するキャリアパスを準備したと考えています.
 なお,「総合診療医」は,専門医の一つとして,医師のプロフェショナルオートノミーの理念に基づいて認定されることは当然でありますので,養成プログラムや研修については医師会も協力して参りたいと考えています.

Q.「かかりつけ医」の役割について,もう一度,確認させて下さい.

 「かかりつけ医」の特性は,「深い専門性を有していること」,すなわち,自分の専門分野については,大学病院,中核病院の専門科に在籍する医師と同等以上の専門知識と経験を持ちながら,多様な疾患を抱える患者に幅広く対応し,地域を診る視点で診療に当たって,住民のさまざまな要望に応えていることだと考えられます.
 この「かかりつけ医」は,日本で独自に発達してきた素晴らしい社会的機能の担い手であり,今後ますます重要となる地域包括ケアを充実させるキーワードとなります.「かかりつけ医」こそが,地域医療のレベルを高質に保っているのであり,これによって,日本の医療は国際的に高い評価を受け,国民皆保険も堅持されているのです.
 わが国においては,世界でもまれにみる高齢社会でありながら,国民は比較的安価で高質な医療を享受出来ています.これは,ひとえに,最前線で地域医療を支えておられる「かかりつけ医」の診療レベルが非常に高く,初期の段階で正確な診断の基に,適切な医療が提供されているためです.
 日医としましては,「かかりつけ医」機能を更に強化するため,生涯教育制度を充実させていきたいと考えております.また,「かかりつけ医」の役割は,過去も,現在も,そして未来においても,わが国の医療の中核であり,その役割があってこそ,地域医療の再興が図られていくと確信しておりますので,会員の先生方には引き続きのご協力をお願いいたします.

Q.報告書には,専門医の認定機関についても触れられていますね.

 報告書では,「中立的な第三者機関は,医療の質の保証を目的として,プロフェショナルオートノミーに基づき医師養成の仕組みをコントロールすることを使命とし,医療を受ける患者の視点に立って新たな専門医の仕組みを運用すべきである」と記述されています.
 専門医の認定に当たっては,中立的な第三者機関が設置されることが,医療界の中で合意されています.中立的な第三者機関は,国の関与を排除し,あくまでプロフェッショナルオートノミーの理念を基盤として構築され,医療者によって運営されるため,日医も中核として参画していく所存です.

Q.第三者機関の役割は何ですか?

 専門医の認定と養成プログラムの評価・認定の二つの機能を担うことになります.
 その際,専門医の認定・更新基準や養成プログラム・研修施設の基準の作成も統一的に行われることになる予定です.
 第三者機関については,今後,準備委員会が設置され,日医,日本医学会,日本専門医制評価・認定機構を中心に議論が深められていくことになります.

Q.新しい専門医制度が地域の医師偏在を悪化させるとの懸念がありますが.

 地域の医療が強固であることが,住民の安心な生活のために不可欠であることは言うまでもありません.新しい制度が医師の地域偏在を悪化することがあっては絶対にいけません.このため,報告書では,専門医の養成プログラムやキャリア形成に地域医師会の関与を明記しています.
 地域医師会におかれましては,これらに強くコミットして頂き,未来に向かっての地域医療の再興にこれまで以上にご尽力頂きたいと思います.

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