日医ニュース
日医ニュース目次 第1247号(平成25年8月20日)

第1回日本医師会在宅医リーダー研修会
在宅医療の中心に医師が立ち多職種協働を主導する存在に

 第一回日本医師会在宅医リーダー研修会が,七月二十八日,日医会館大講堂で開催された.本研修会は,超高齢社会を迎えるに当たり,在宅でも医療が十分に受けられる体制を構築するために都道府県医師会や地域医師会で核になるリーダーの育成を目的として,今回初めて開催されたものである.当日は,四十七都道府県医師会から,四百四十七名が参加した.
 鈴木邦彦常任理事の司会で開会.あいさつに立った横倉義武会長は,「在宅医療という観点から,地域ケアの在り方を見直す時が来ている.地域でかかりつけ医を中心とした地域医療を向上させるには,各医師会で中心となり尽力するリーダーが必要である.本日参集された方々にその役目を担って頂きたい」と期待を込めた.

第一部「かかりつけ医の在宅医療」

第1回日本医師会在宅医リーダー研修会/在宅医療の中心に医師が立ち多職種協働を主導する存在に(写真) 第一部の午前は高杉敬久常任理事が座長となり,八名の講師が講演を行った(写真)
 「かかりつけ医機能と基本理念」鈴木常任理事は,超高齢社会に対応した日本型医療システムを説明し,在宅医療は医師単独ではなく多職種協働で行い,そのチームでは,医師が主導する存在にならなくてはならないとした.
 「かかりつけ医に求められる在宅医療」新田國夫医療法人社団つくし会理事長は,かかりつけ医の重要な役割は,治療のためだけではなく生活を支えることとし,QOL(生活の質:quality of life)の改善と生命予後を良くすることだとした.
 「在宅医療と地域包括ケアシステム」三浦久幸国立長寿医療研究センター在宅連携医療部長は,各地域で展開される地域包括ケアシステムの具体例を紹介しつつ,地域医療にスタンダードはなく,各地域の資源を生かすことが重要であるとした.
 「かかりつけ医と多職種協働」篠原彰篠原医院長は,在宅医療は多職種協働で行うことで,おのおのの負担が減ると解説.更に,他の職種がかかりつけ医に求めていることを示し,それを行うことが患者の幸せにつながるとした.
 続く,「高齢者の在宅医療」では,在宅医療で見られる症状について講演が行われた.
 (1)「脳卒中とリハビリ」堀田富士子東京都リハビリテーション病院医療福祉連携室地域リハビリテーション科長は,脳卒中等のリハビリとして,座位の重要性を示し,座る姿勢を取ることでADL(日常生活動作:activities of daily living)の拡大が期待出来るとした.
 (2)「肺炎 COPD」中島一光医療法人社団パリアンクリニック川越副院長は,患者胸部の聴診のポイントを解説し,用いる薬品などの投与量,タイミングなどについて説明した.
 (3)「認知症」大澤誠医療法人あづま会大井戸診療所理事長・院長は,認知症を生活障害と捉えて,認知症患者の生活のしやすさを改善するために支えることが重要とした.
 (4)「緩和ケア」太田秀樹医療法人アスムス理事長は,病気の治療以外(終末期ケア,遺族ケアなど)の全てが緩和ケアであるとし,疼痛緩和やコミュニケーションのとり方を示し,患者や関係職種の信頼を得るためにも顔の見える関係を作ることが重要であるとした.

超高齢社会に対応した地域医療の再興

第1回日本医師会在宅医リーダー研修会/在宅医療の中心に医師が立ち多職種協働を主導する存在に(写真) 第一部の午後は,鈴木常任理事が座長となり,五名の講師が講演を行った(写真)
 「介護保険制度の活用」土橋正彦土橋医院長は,ケアマネジャーなどとの連携の大切さを説明し,在宅医療・ケアの実践のために,医師が介護保険制度や介護サービスの内容を把握しておくことが重要とした.
 「退院支援・調整」池端幸彦医療法人池慶会池端病院理事長・院長は,医師が退院支援カンファレンスへ参加することの重要性を示し,退院時カンファレンス参加時の在宅主治医心得十か条などを示した.
 「かかりつけ医と後方支援」梶原優医療法人弘仁会理事長は,後方支援として,信頼関係を築いた上で,看取りについて家族や関係職種に説明し,連携体制を作ることが重要とした.
 「在宅医療の過去・現在・未来」太田氏は,今後の超高齢社会・多死社会に求められることは,急性期医療による治す医療から,終末期医療による支える医療へのパラダイムシフト(価値観の転換)であるとした.
 「まとめ」高杉常任理事は,「超高齢社会・多死社会を迎えるに当たり,医療も変わる必要がある.在宅医療のために医師が立ち上がり,行政と医師会がタッグを組みながら,地域の再興に乗り出さなければならない」とした.

研修会DVD放映

第1回日本医師会在宅医リーダー研修会/在宅医療の中心に医師が立ち多職種協働を主導する存在に(写真) 講演に続いて,研修会に向けて作成されたDVD「かかりつけ医の在宅医療 超高齢社会―私たちのミッション」(写真)が放映された.本DVDは,診療所の医師が,患者の要望を受けて在宅医療を始めることになり,ケアマネジャーや訪問看護,病院などの多職種と関わりながら患者や患者家族と接する姿をドラマ仕立てに映像化したもので,在宅医療を行うポイントなどを解説している.

第二部「多職種協働の実践」

 第二部では,「多職種協働」をテーマに関係職種から五名のシンポジストが講演を行い,その後,総合討論が行われた.
 「在宅医療における歯科医療の関わり」花形哲夫日本歯科医師会地域保健委員は,在宅歯科医療の有用性を示し,歯科においても今後の在宅歯科医療を担う歯科医師・歯科衛生士の養成が急務であるとした.
 「かかりつけ薬局における薬剤師会の活動」桂正俊日本薬剤師会地域・在宅医療委員会副委員長は,日本薬剤師会や北海道薬剤師会での活動を示しつつ,在宅医療では,患者が未使用の残薬の管理も注意が必要であるとした.
 「多職種協働の実践─訪問看護の立場から」齋藤訓子日本看護協会常任理事は,平成二十四年度診療報酬・介護報酬の同時改定において,退院前後の訪問看護に対して評価が拡大されたことなどを説明した.
 「地域包括ケアにおける多職種協働の意義」土屋幸己富士宮市福祉総合相談課参事・地域包括支援センター長は,多職種協働による地域ケア会議の意義を示しつつ,地域包括ケアは生まれてから人生を閉じるまで一生を通じた地域での包括的・継続的な支援であると説明した.
 「多職種協働によるケアマネジメントの課題」水上直彦日本介護支援専門員協会副会長は,ケアマネジメントの課題と目標は,利用者とケアマネジャーが信頼関係を築きつつ,利用者が望む生活に近付けることだとした.

シンポジストによる討論

 全体討論には,第一部で講演した新田氏も加わり,各職種間の連携や病診間での連携,地域との連携の方法などについて議論が交わされた.更に,地域ケア会議への医師の出席について,「基本的な知識があれば,地域ケア会議に参加して十分に能力を発揮することが出来,会議自体の質も良くなる」として,地域ケア会議に医師が参加し,会議をリードする立場になることが求められた.
 最後に,中川俊男副会長が,「かかりつけ医機能の充実の一環として,これからも在宅医療を推進する」と総括し,閉会となった.
 日医では,本研修会のテキストとDVDを都道府県・郡市区医師会に配付し,各都道府県医師会での在宅医療に関する研修会の開催を依頼.その際には,日医からも講師派遣等の支援を行うとしており,かかりつけ医が在宅医療に取り組める体制づくりを進めている.

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