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第1248号(平成25年9月5日) |
日医・四病協
「医療提供体制のあり方─日本医師会・四病院団体協議会合同提言─」まとめる
日医と四病院団体協議会は,このほど,「医療提供体制のあり方─日本医師会・四病院団体協議会合同提言─」を取りまとめ,8月19日に横倉義武会長らが厚生労働省を訪れ,直接,田村憲久厚労大臣に本提言を提出し,その実現に向けた協力を要請した.
本提言は,日医と四病協との間でワーキンググループを設けて検討した結果を踏まえ,各団体のトップ同士が真摯(しんし)な議論を行った末に取りまとめたものであり,その内容は,(一)基本方針,(二)かかりつけ医,(三)医療・介護の再編─で構成されている.
提供体制構築に向けた三つの提言
(一)では,医療提供体制構築に向けての基本方針として,
(1)目前の超高齢社会にあっても,世界最高水準の健康水準を守り,国民の生活の安心を支えるため,国民とビジョンを共有しながら,新たな時代にふさわしい体制構築に向けて,国民と共に取り組む.
(2)このため,発症からリハビリテーション,在宅復帰支援までどのような病期にあっても,患者の病態に合わせて,最善の医療を切れ目なく提供する体制を構築する.
(3)患者の命を守る質の高い医療を目指すとともに,生活の質を重視し,患者を支える医療を実践する.このため,地域の医療・介護・福祉との連携の下,地域包括ケアシステムの実現に向けて,在宅医療を含めた地域特性に合わせた柔軟な医療提供体制を構築する.
─の三点を明示.その上で,この改革を進めていくためには,医療提供者,国民,行政の三者が将来の姿のビジョンを共有しながら一体となって取り組むことが必要だとするとともに,「中長期的なビジョンと医療法をはじめとする制度的枠組みの整備」「枠組みに沿った医療機関の自主的な改革努力と機能強化等に対する公的支援」「必要な体制構築に取り組む全ての医療機関の経営努力を公平に支える適切な診療報酬体系の実現,及びこれらのための財源措置」を強く求めている.
(二)では,「かかりつけ医」について,「なんでも相談出来る上,最新の医療情報を熟知して,必要な時には専門医,専門医療機関を紹介でき,身近で頼りになる地域医療,保健,福祉を担う総合的な能力を有する医師」という定義を理解し,「かかりつけ医機能」の向上に努めている医師であり,病院の医師か,診療所の医師か,あるいはどの診療科かを問うものではないと指摘.
その上で,超高齢社会においては,「かかりつけ医」の役割,機能がますます重要になるとして,各団体が「かかりつけ医」の養成,「かかりつけ医機能」の充実に努めていく意向を表明.更に,在宅医療を推進していくためには,「かかりつけ医」がより主体的に在宅医療に取り組んでいく必要があるとし,率先して,「かかりつけ医」をはじめとする在宅医療に携わる医師及び医療関係職種の養成,研修を支援していくとしている.
提供体制のあり方に関する大きな方向性
(三)では,まず,医療提供体制のあり方に関する大きな方向性として,
(1)地域の人口等に応じて一定数確保すべき病床は,医療計画に適切に組み込んでいく.
(2)急性期病床は地域における医療ニーズの実態と客観的な将来見込みを踏まえて再編を行う.病期としての急性期には,病態として重症・中等症・軽症が含まれる.このうち,救命救急センター,集中治療室等,専門医が常時配置されている病床は高度急性期病床として独立させる.高度急性期を担う病院はより急性期に集中出来るように,人員・設備を充実する必要がある.また,軽症ほど早期に回復期に移行出来る.一方,超高齢社会においては医療ニーズも変化し,さまざまな病期に適時・適切に対応する必要が高まることから,急性期,回復期,慢性期を担う医療機関が適切に役割分担と連携をすることも必要である.なお,ここでいう回復期には,ポストアキュート(急性期を脱したいわゆる亜急性期の入院医療)及び回復期のリハビリテーションが含まれる.医療の効率化や集約化は,各地域の実情に合わせた提供体制構築の結果として進むものである.
(3)慢性期病床は地域の高齢化の実情と客観的な将来予測等を踏まえて他の提供体制と合わせて適切に構築されていくべきものであり,介護療養病床の廃止は見直していく必要がある.
(4)今後の超高齢社会では,これまで以上に在宅医療の充実が必要である.かかりつけ医による在宅医療を推進するとともに,身近なところにいつでも入院出来る病院等を用意して,自宅や居住系施設,介護施設など,どこにいても医療が適切に確保出来るように,地域ごとに医師会や医療機関が行政や住民と協力しながら,介護などと連携した地域包括ケアシステムを確立していく.
─の四つを提言.
病床の区分については,病期に応じて,別表のように,「高度急性期病床」「急性期病床」「回復期病床」「慢性期病床」の四つに整理する必要があるとするとともに,この区分を用いて,病床機能情報の報告・提供制度で報告を行っていくことを提案している.
病院と病床機能との関係については,地域ごとの将来ニーズを踏まえ,それぞれの病院が効率よく機能を発揮し,地域の連携体制が働き,かつ病院の経営が安定するような体制構築が求められると指摘.また,こうした体制の構築に向けては,医療法を始めとする制度的枠組みの整備,医療機関に対する公的支援に加え,どのような機能を選択しても地域や患者ニーズに応えている限り経営が安定して成り立つよう,体制構築に取り組む全ての医療機関を公平に支える,それぞれの機能のコストを適切に反映した診療報酬体系の実現が極めて重要であるとしている.
更に,有床診療所の意義についても触れ,有床診療所は地域の「かかりつけ医」として外来診療,在宅医療,そして在宅介護への受け渡し機能を担っていると指摘して,その意義を強調.今後は地域密着多機能型の入院施設としての有床診療所,専門医療を中心に提供する有床診療所がそれぞれ地域で必要な役割を果たしていけるように,それぞれを適切に評価していくことを求めている.
表 報告する病床の区分(案) |
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日本の医療を守るため,一丸となって取り組む─横倉会長
記者会見を行う横倉会長(中央) |
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本提言が取りまとめられたことを受けて,八月八日には記者会見が行われた.記者会見には,日医から横倉会長の他,中川俊男副会長,石川広己常任理事,四病協から堺常雄日本病院会長,西澤寛俊全日本病院協会長,山崎學日本精神科病院協会長,小森直之日本医療法人協会副会長がそれぞれ出席し,その内容を説明した.
冒頭あいさつした横倉会長は,まず,今回の提言を取りまとめるに至った背景について,社会保障制度改革国民会議の報告書がまとまるなど,医療・介護の新たな構築が実行段階に入ってきたことがあったと指摘.また,今回の取りまとめを「提言」としたことに関しては,「提言に記した内容は医療提供サイドだけで実行出来るものではなく,国民と協力し合い,そしてそれを国や地方等の方々に支援してもらって実現出来るものであるからだ」とした.
横倉会長は,更に,今回の提言のポイントとして,(1)日医と病院団体が共同で行った提案であること(2)初めて,かかりつけ医の定義を明らかとし,それを病院団体と共に宣言したこと(3)医療提供体制の改革,特に病院病床の改革に具体的な姿を初めて示したこと(4)改革を行っていくための手段,手順について,具体的にどうあるべきかということも併せて提言していること─の四つがあると説明.その上で,「われわれ医療提供者は,日本の医療を守っていくために,自ら改革しなければならないことには,臆することなく,一丸となって取り組んでいく」とするとともに,「私たちが求めているのは変わらないための投資ではなく,変わるための投資であり,このことをぜひ皆さんに理解して欲しい」と述べた.
今回の提言で病床区分の中に,「亜急性期」が含まれていないことについては,中川副会長が,「厚労省は,亜急性期病棟をつくり,高齢者が急病になっても軽症急性期に分類したいようだが,診断してみなければ,軽症急性期かどうかは分からない.高齢者が急病になった時に,急性期ではなく,亜急性期病棟に入るようでは差別につながると考え,亜急性期はあえて消している」と説明した.
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