日医ニュース
日医ニュース目次 第1248号(平成25年9月5日)

視点

がん登録法制化の意義と課題

 地域がん登録については,長年にわたり疫学研究者を中心にその全国展開の必要性が指摘されてきた.
 わが国の地域がん登録は,昭和二十六年に東北大学の瀬木三雄教授が宮城県を対象として,県医師会の協力を得て実施し,その先鞭(せんべん)をつけたと言われている.それから約六十年の期間を経て,昨年ようやく四十七都道府県で地域がん登録を実施する環境が整った.
 一方,現状の地域がん登録は登録精度に問題があると言われており,昨年三月には,日本医学会,日本癌学会,日本癌治療学会,日本臨床腫瘍学会の連名により,このような課題の解消を含め,がん登録の法制化を求める要望書が厚生労働大臣宛てに提出された.
 これを受け,がん患者と超党派の国会議員による「国会がん患者と家族の会」が中心となって,議員立法によるがん登録の法制化が進められ,先般「がん登録等の推進に関する法律案要綱(案)」が公表されたところである.
 日医としては,これまでにも公衆衛生委員会,がん対策推進委員会が取りまとめた答申の中で,がん登録の推進・充実の必要性が指摘されており,がん登録が推進されることによって,正確な罹患率や受療動向の把握,疫学研究への応用,がん治療成績の向上などが期待されることから,法制化自体に異論はない.
 しかし,要綱案では,全ての病院並びに手を挙げた診療所に対して,全国がん登録(現行の地域がん登録)の実行を義務づけているが,現行の地域がん登録は,厚労省医政局長通知「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」によって,患者の同意がなくても可能とされているため,法制化に当たっては,改めて個人情報保護法の適用除外規定を法律上明記する必要があると考えている.
 また,全国がん登録として記録する情報内容については,現行の地域がん登録情報との連続性を考慮する一方,登録者側に過度な負担とならないような配慮も必要となろう.
 更に,要綱案においては,登録に要する費用の負担について,全く触れられていないが,国策としてがん登録を推進する以上,財政的裏付けを明らかにすることは当然の対応と思われる.
 そして,何よりも,さまざまな課題が発生した際に,速やかに対処出来る柔軟性を持った運用を可能とする制度設計が必要であり,今後も関係各位に対して働き掛けを行っていきたいと考えている.

(常任理事・道永麻里)

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