日医ニュース
日医ニュース目次 第1249号(平成25年9月20日)

プリズム

医学と医療のグローバル化

 日本に黒船のように来襲するTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)問題の本質は,自由貿易を隠れ蓑(みの)にした米国の価値観のグローバル化と言えるだろう.資本主義経済が生き残るために市場のグローバル化は世界中で当然のことのように受け入れられているが,医学教育,医学の診断や治療の分野においてもグローバル化はもはや常識となっている.極論するならば,最高水準の医学・医療とは米国が主導となって国際的に決めたガイドラインに基づいた教育・研究・臨床をマニュアルどおりに行うことと同義のようなものである.EBM(evidence-based medicine)が治療価値を判断する最高の基準となり,医学の規範は全世界的に統一されつつある.
 グローバル化による世界の医学水準の底上げ,均一化はよいのだが,同時に各地域,民族,文化に残る独自の疾患概念,治療法がグローバル化によって駆逐されている.その現実を見ていると,果たしてグローバル化が世界にとって望ましいことなのか疑問に思う.実際,欧米スタイルの価値観,生活様式の浸透によって生活習慣病や免疫疾患の発症の増大,がんの種類や精神疾患の構造が変化しつつある.
 グローバル化の進む医学・医療の領域だけでなくTPP問題の決着いかんによっては,医療制度,医療経営の面においても米国の価値観が席巻し,日本の皆保険制度のように地域に根付き,独自の文化に成り立つ医療が危うくなるのは遅くはない.さまざまな分野のグローバル化は,人々に繁栄と富,そして医学・医療の進歩による恩恵をもたらしているようにみえるが,一方で人々の地域に根差した今までの生活を破壊し格差を作り,存在した多様性は失われかねない.そして多彩な文化,多様な価値観は一度失うと,再び取り戻せないことを肝に銘じなければならない.

(文)

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