日医ニュース
日医ニュース目次 第1251号(平成25年10月20日)

日医定例記者会見

9月25日
『国家戦略特区』をめぐる問題点を指摘

日医定例記者会見/9月25日/『国家戦略特区』をめぐる問題点を指摘(写真) 横倉義武会長は,国家戦略特区で進める規制緩和の検討項目案が示されたことを受けて,医療分野に関する,(一)医療本体に関わる事項,(二)外国人医師による診療,(三)保険外併用療養,(四)医学部新設─について,その問題点を指摘した.
 (一)では,医療への株式会社の参入について触れ,株式会社は株主への配当が必要であることから,無理な利益追求に走り,医療費が高騰するリスクが高くなる他,不採算な診療科や地域から撤退するなど,利益の最大化を目的として地域の医療提供体制をゆがめてしまう可能性があると指摘.
 (二)については,次期医療法改正で外国人医師等の臨床修練制度の見直し等が行われる見通しであることを挙げ,既に決まっている見直しも含め,現行制度で対応すべきとの考えを示すとともに,「外国人医師を受け入れた場合,教育水準の違いから,日本の医療水準が低下する恐れもあり,国民の健康を守るためにも,高い医療水準が確保されている日本の国家資格である医師免許の下で提供されるべきである」と述べた.
 (三)に関しては,TPP交渉における日米二国間協議において,米国は「混合診療」の全面解禁を求めないとされているが,今後,米国からの要求と国内の規制改革の動きと相まって,保険外併用療養の拡大,混合診療の全面解禁への動きがより加速する懸念があると指摘.その上で,混合診療が全面解禁された場合の問題点として,「全額自己負担部分が高額であるため,高所得者しか新しい治療を受けられなくなること」等を挙げ,その導入に断固反対していくとするとともに,現在,厚生労働省で進められている保険外併用療養の下で,より迅速に評価する仕組みの構築への支援を行っていく考えを示した.
 (四)では,まず,「日医が医学部新設に同意した」との話があることについて,日医は医学部新設に断固反対であるとの考えに変わりはないことを強調.二〇〇八年から始まった医学部定員増によって増えた学生たちが,医療現場に出るまであと数年かかることから,医師の過不足についてはこの結果を踏まえて議論すべきであるとした.
 その上で,横倉会長は,安倍晋三総理が進める規制緩和政策について,その全てに反対しているわけではなく,医療本体の規制緩和に反対していると強調.「国民は『国家戦略特区』において,国民の命と健康を犠牲にしてまで,国の経済発展を望んではおらず,政府には,国民の命と健康を最重点に考えていってもらいたい」と述べるとともに,「社会から支えられる側」であった高齢者が「社会を支える側」になる社会の実現を目指すことによって,今後,本格的な高齢社会を迎える先進国のモデルとなるよう,努力していく姿勢を示した.

医学部を新設する必要はない

日医定例記者会見/9月25日/『国家戦略特区』をめぐる問題点を指摘(写真) 医学部新設の問題に関しては,中川俊男副会長が日医の考えを詳細に説明した.
 同副会長は,まず,医学部新設の問題点として,(一)教員確保のため,医療現場から約三百人の教員(医師)を引き上げざるを得ず,地域医療の崩壊を加速させる,(二)教員が分散し,医学教育の水準,ひいては,医療の質の低下を招く,(三)人口減少など社会の変化に対応した医師養成数の柔軟な見直しを行いにくくなる─等があると指摘.更には,「東日本大震災被災地の医療現場からも,医学部新設により,医師不足が加速する懸念が強く寄せられていること」「これまでに医師養成数の増加が進められてきており,医師の確保に一定の目途がついていること」等にも触れ,被災地であっても特区であっても,医学部の新設を行う必要はないことを改めて強調した.
 その上で,同副会長は,医師養成には長期間かかるにもかかわらず,緊急的に対応すべき東日本大震災の被災地を始めとする東北地方などの医師確保,医師偏在の解消対策が,医学部新設への期待が先行することで,依然として進んでいないことに遺憾の意を表明.政府に対しては,東日本大震災被災地を始めとする地域での医師確保対策の強力な推進を要請した.
 具体的な施策としては,医学部入学定員を増員してきた被災三県の医学部が取り組もうとしている医師の教育・派遣を通じた地域医療支援等に対する強力な支援と共に,地域医療支援センターの機能強化を挙げた他,財政的な支援だけでは,医師の確保は難しいとして,(一)政治主導によって,被災地の医学部に医療復興講座を設置するなどにより,大学医学部における役職・身分を保障し,キャリアアップにつなげること,(二)国が通常の概数で運営費交付金(私学助成金)を全額措置すること,(三)国がその講座の医師の採用を全面的に支援すること─を強く要求.加えて,地域医療再生基金についても,民間医療機関が使いにくいとして,その柔軟な運用(十割補助,条件軽減等)と更なる積み増しを求めた.
 最後に,同副会長は,医学部新設推進派に対して,「当初掲げていた医師不足解消の目的は消え,われわれの考えに対する明確な反論は一度もない」と批判.「日本の医療の将来を考えるならば,われわれの主張に正面から向き合うべきだ」と述べた.

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