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第1272号(平成26年9月5日) |
第10回男女共同参画フォーラム
「医療界における男女共同参画のさらなる推進に向けて〜10年で医療界における男女共同参画は進んだのか〜」をテーマに
第10回男女共同参画フォーラムが7月26日,日医会館大講堂で開催された.
開始から10周年という節目の年となった今回は,横倉義武会長による基調講演,「医療界における男女共同参画の推進に向けて」をテーマとした座談会やシンポジウムなどが行われた他,これまでの成果を基に更に活動を進化させていく決意を示した「日本医師会第10回男女共同参画フォーラム宣言」が満場一致で採択された.
笠井夫常任理事が開会を宣言.続いてあいさつに立った横倉会長は,今回は,十周年という記念すべき節目の年に当たるとして,企画・運営に当たった前期の日医男女共同参画委員会委員等の尽力に謝意を表した.その上で,男女共にそれぞれの境遇の中で,働き方,生き方の選択が出来,その多様性が尊重され公正に評価される社会の実現こそが重要であり,その実現のために,今後とも本フォーラムの果たす役割は大きいとして期待感を示した.
基調講演
基調講演「日本医師会の男女共同参画の十年の歩み」では,横倉会長が,(一)日本における女性医師数の推移と日医の組織強化,(二)この十年を振り返っての男女共同参画の取り組み─を中心に講演した.
(一)では,全医師数に占める女性医師の割合は二割弱だが,今後急速に増えてくるとの見通しを示しつつ,現在,全女性医師の四二%が日医会員で,医師会員中一五%弱である女性医師会員の比率を上げていきたいとした他,年齢階級別の日医会員比率から若い世代が少ない状況と,医師資格証や会員情報システムの再構築などの組織強化に向けた方策についても説明した.
(二)では,新医師臨床研修制度がスタートした平成十六年,日医では,「女性会員懇談会」を十月に設置,同懇談会の発案で翌十七年七月に第一回男女共同参画フォーラムが開催され,同年十二月には二〇二〇年までに指導的地位に女性の占める割合が三〇%になるよう言及した第二次男女共同参画基本計画が閣議決定されたこと,また,同懇談会は,十八年度より「男女共同参画委員会」と改組名称変更され,同年度に開始した「厚生労働省委託事業医師再就業支援事業(現女性医師支援センター事業)」と共にさまざまな活動を展開していること等を報告.
特に,二十一年三月に報告書がまとめられた「女性医師の勤務環境の現況に関する調査」の結果から,労働環境の改善のための法律の整備や意識改革が必要であるとされ,その実現に向けて国等へ各種要望書を提出したこと,日医女性医師バンクによる就業継続・再研修支援の推進,若手医師医学生への啓発,「二〇二〇.三〇」推進懇話会などの活動等が紹介された.
最後に,横倉会長は,この十年を振り返り,「医療界の男女共同参画が一層実行出来るような日医に変わっていかなければならないという思いを強くしている」と結んだ.
報告
報告では,まず,長柄光子前日医男女共同参画委員会副委員長が,同委員会の活動報告と平成二十四・二十五年度委員会答申「男女共同参画のさらなる推進のために」に示した今後に向けた三つの課題,「男女共同参画の視点に立った意識改革」「雇用に関する男女の機会均等と待遇の確保」「方針決定過程における女性医師の参画拡大」について概説した.
秋葉則子前日医女性医師支援委員会委員長は,女性医師バンクを始めとする日医女性医師支援センター事業の運営状況を報告.昨年度は新たに,「大学医学部女性医師支援担当者連絡会」の開催や「女性医師支援に関するアンケート調査」を行った他,いったん休止していた女性医師の「勤務環境の整備に関する病院長,病院開設者・管理者等への講習会」を再開したこと等を紹介した.
座談会
引き続き,座談会「医療界における男女共同参画の推進に向けて」(座長:保坂シゲリ元日医男女共同参画委員会委員長,笠井常任理事)が,黒川清東京大学名誉教授・政策研究大学院大学教授,永井良三自治医科大学長,津田喬子前日医男女共同参画委員会委員のそれぞれがテーマについての考えをプレゼンテーションした後,座長の問いに答える形で行われた.
津田氏は,指導的立場に占める女性の割合が三〇%程度になるよう期待するとした政策は一つの通過点として,次のステップは五〇%であるべきであり,これからは,職場は言うまでもなく家庭においても男女“平等”参画の意識が必要であると主張した.
永井氏は,自身の所属する大学・学会を例に取りながら,男女共同参画への取り組みについて,この二〜三年の変化は大きいとした.特に,上田真喜子前日医男女共同参画委員会委員が,日本循環器学会理事であり,大阪府医師会理事を兼ねていたことが大きな要因となり,同学会での一般演題の女性座長の割合は約三%だったものが,学会の男女共同参画委員会からの働き掛けで昨年は八%に,今年は一〇・八%に増えたこと等を紹介し,医師会とアカデミアの連携の重要性を指摘した.
黒川氏は,国連開発計画(UNDP)が導入したジェンダー・エンパワーメント指数(女性の政治参加や経済界における活躍,意思決定に参加出来るかどうかを表す指数)が日本は相当下であり,女性の能力開発はしているのにそれを社会に取り入れていないと指摘.日本社会で女性進出を妨げている理由として,(1)歴史的にも男性優位で男尊女卑(2)雇用体系の問題─を挙げ,小手先だけでなく根本的な“岩盤規制”を直す必要性を強調した.
シンポジウム
午後からのシンポジウム(座長:川上順子・藤井美穂前日医男女共同参画委員会両委員)では,五名のシンポジストがそれぞれの立場で講演を行った後,フロアから寄せられた質問を基に活発な総合討論が行われた.
佐村知子前内閣府男女共同参画局長は,「女性が輝く社会に向けて」と題して,「日本再興戦略」推進のための政府の取り組みと成果を紹介.
更に,本年六月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂二〇一四─未来への挑戦─」を踏まえ,育児・家事支援環境の拡充や企業等における女性の登用を促進するための環境整備など,具体的施策に取り組んでいる現状を報告した.
板東久美子前文部科学省文部科学審議官は,「大学医学部における十年間の歩みと今後に向けた課題」と題し,医学生に対するキャリア教育の充実,大学全体の意識改革・両立環境整備・女性登用促進など,女性医師の活躍に関する大学・文科省の取り組みについて説明した.
國光文乃前厚労省医政局医事課医師臨床研修専門官・山口県健康福祉部健康増進課長は,「臨床研修医におけるキャリアパスと出産・育児等のライフイベントとの両立について〜臨床研修制度の見直しを踏まえて」と題して,平成二十七年度より適用予定の医師臨床研修制度の見直しの方向として,一層のキャリア形成支援や,中断及び再開への柔軟な制度設計の必要性などを挙げた.
小森貴常任理事は,「男女共同参画の視点からみた専門医制度改革」について,新しい専門医制度における“男女を問わないキャリア形成支援”の理念と,そのプログラム作成時の地域医師会の主体的な関与の重要性を強調.今後の制度設計に当たっては,日本専門医機構での議論を通して,その理念の実現に努めていきたいとした.
小笠原真澄前日医男女共同参画委員会委員長は,「十年で医療界における男女共同参画は進んだのか〜病院管理部門における女性医師数の変遷から見えるもの〜」と題して講演.
男女共同参画についての男性医師の意識調査等によれば,日本の社会一般の調査結果と同様の数字であるものの他国と比べれば非常に低いとし,今後に向けては,働き方の多様性の実現とその評価方法の確立が必要であると強調,「各方面に働き掛け,個々の職場に合ったものをつくって欲しい」と述べた.
宣言の採択
その後,前日医男女共同参画委員会の田中昌宏・福下公子両委員が,この十年間の男女共同参画の活動で得た成果を基盤として,更なる活動は男女共同参画の範疇(はんちゅう)を超えて,男女平等参画の下,国家レベルで,国民の医療に大きく貢献出来る段階へと進化させていくことを宣言した「日本医師会第十回男女共同参画フォーラム宣言(案)」を読み上げ,満場一致で採択された(別掲参照).
その後,笠井常任理事が閉会を宣言し,フォーラムは終了となった.参加者は二百三十九名.なお,次回は,平成二十七年七月二十五日に徳島市内で開催される予定.
宣言
日本医師会男女共同参画フォーラムは,平成17年に開催されてから,今回で10回目を迎えた.開催当初から「医師としての社会的使命を継続するためのワークライフバランスの実現」を掲げ,「すべての医師の勤務環境の整備および社会全体の意識改革」を提唱し続けてきた.
その成果は「育児支援の整備,勤務形態の多様化,復職支援」など目に見える形で一歩一歩,具現化されてきた.一方,意思決定の中枢部への女性医師の参画は,その目標達成には未だほど遠い現実がある.
我々は,2025年問題に象徴され急速に膨大する少子高齢社会の深刻な難問解決のために,男性医師と平等の立場で女性医師が意思決定に参加することができる社会環境の醸成に向け,なお一層の努力が求められる.「多様性」が生み出す社会的価値の重要性,仕事に対する量的従事から質的評価をも考慮に入れた勤務形態も新たに視野に入れていかなければならない.
この10年間の男女共同参画の活動で得た成果を基盤として,さらなる活動は男女共同参画の範疇を超えて,男女平等参画のもと国家レベルで国民の医療に大きく貢献できる段階へと進化させていくことを決意し,ここに宣言する.
平成26年7月26日
日本医師会第10回男女共同参画フォーラム
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