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第1273号(平成26年9月20日) |
中川副会長に聞く
「地域医療構想(ビジョン)」の策定のため病床機能報告制度に協力を
十月一日から病床機能報告制度が開始されるに当たって,今号では中川俊男副会長に,制度創設までの経緯や仕組み等について説明してもらった.
Q 制度の目的は何ですか?
A 二〇二五年には,全ての団塊世代の方々が七十五歳以上となり,これまで以上に,医療機能の分化・連携等を進めることが重要となります.
その一環として,地域医師会も参加し,それぞれの地域にふさわしいバランスのとれた医療機能の分化と連携を適切に推進するための「地域医療構想(ビジョン)」を策定することになりました.そのために,まずは自地域の現状をきちんと把握・分析することが前提となるということで,病床機能報告制度が創設されることになったのです.
Q 制度ができるまでの経緯を教えて下さい
A 厚生労働省は,病床の機能分化策として,二〇一一年十一月に「急性期病床群(仮称)」制度(認定制,その後登録制)を社会保障審議会医療部会に提案しました.しかし,制度導入による影響等への懸念が示され,作業部会を設けて検討を進めることになりました.そして,厚労省の提案は取り下げられ,二〇一二年六月に「各医療機関が,その有する病床において担っている医療機能を自主的に選択し,その医療機能について,都道府県に報告する仕組みを設けること」,更に,これにより地域の現状を把握した上で,「今後のその地域にふさわしいバランスのとれた医療機能の分化と連携を適切に推進するための『地域医療のビジョン』を地域ごとに策定すること」で決着し,「病床機能報告制度」の導入が決まりました.
この議論の中で,日本医師会は,「急性期病床群(仮称)」制度は,要件を満たせない医療機関が急性期医療から撤退せざるを得ず,特に地方では医療確保が難しくなるとして強く反対し,対案を示しました.結果として,病床機能報告制度は,この対案を大幅に取り込む形で制度化されることになったのです.
なお,このような検討経緯から,病床機能報告制度はあくまでも自主的な報告制度にとどめるべきと考えており,今後も認定制度,登録制度に変容しないよう注視していく方針です.
Q 制度はどのような仕組みなのですか?
A 病院は病棟単位(一部,病院単位の項目あり)で,有床診療所は施設単位で,一般病床及び療養病床については表に掲げる四区分のいずれかを選択し,その担っている機能の「現状」と「今後の方向」を都道府県に報告することになります(この四区分は,二〇一三年八月の日医と四病院団体協議会との合同提言「医療提供体制のあり方」での提案に基づくものです).
なお,例えば「『急性期機能』の病棟の入院患者は,全て急性期でなければならないのか?」と不安に思われるかも知れませんが,そのようなことはありません.実際にはさまざまな病期の患者さんが入院しているのは当然であり,その病棟の患者さんが全て急性期である必要はありません.これは,厚労省も認めています.
表
医療機能の名称 |
医療機能の内容 |
高度急性期機能 |
◎急性期の患者に対し,状態の早期安定化に向けて,診療密度が特に高い医療を提供する機能 |
急性期機能 |
◎急性期の患者に対し,状態の早期安定化に向けて,医療を提供する機能 |
回復期機能 |
◎急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能
◎特に,急性期を経過した脳血管疾患や大腿骨頸部骨折等の患者に対し,ADLの向上や在宅復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に提供する機能(回復期リハビリテーション機能) |
慢性期機能 |
◎長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能
◎長期にわたり療養が必要な重度の障害者(重度の意識障害者を含む),筋ジストロフィー患者または難病患者等を入院させる機能 |
出典:病床機能情報の報告・提供の具体的なあり方に関する検討会「議論の整理」(平成26年7月24日)資料より
Q 具体的には何を報告すればよいのですか?
A 報告するのは,大きく分けて,「構造設備・人員配置等に関する項目」と「具体的な医療の内容に関する項目」です.厚労省「病床機能情報の報告・提供の具体的なあり方に関する検討会」での検討により,前者は,病床数,医療従事者数,主とする診療科,算定する入院基本料・特定入院料,高額医療機器の保有状況,退院調整部門の設置・勤務人数,入院患者数や入棟前・退棟先の場所別患者数等になりました.
また,特に有床診療所は,小規模かつ多様な役割を担っているため,報告必須項目を病院よりも少なくする一方で,日医が提唱した有床診療所の五つの機能を選択できる項目を設けています.
後者の「具体的な医療の内容に関する項目」は,手術件数,がん・脳卒中・心筋梗塞等への治療の実施状況,重症患者への対応,救急医療の実施,急性期後・在宅復帰の支援,全身管理,リハビリテーション,長期療養患者・重度障害者等の受け入れ等になります.〔報告項目は,厚労省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055891.html)に掲載〕
報告は,七月一日現在の状況を十月一日から十一月十四日(本年度のみ.次年度以降は十月末日)までに行うことになります.
Q 報告事項の「今後の方向」とは何ですか?
A 病院・有床診療所は,病床機能の「今後の方向」についても四区分のいずれかを選択することになります.これにより,都道府県は各医療機関の機能転換の予定を把握でき,また地域医療ビジョンの推進のための「協議の場」においても,地域医師会や医療機関等の参加者が共通認識を持って協議を行うことができるようになります.
「今後の方向」は「六年先」の時点の機能を指します.もちろん,「今後の方向」は診療報酬改定や制度改正等によっても影響されますので,翌年や二年後といった短期の変更予定がある場合も報告事項(任意)となりますし,二〇二五年度時点についても,参考情報として任意で報告することができます.
また,毎年報告するのですから,その時点で六年後の方向が変更されるのは不自然なことではありません.
Q どうやって報告するのですか?
A 先ほど,医療機関から都道府県に報告すると述べましたが,実際には,「構造設備・人員配置等に関する項目」では,医療機関から直接全国共通サーバに送付して頂き(厚労省ホームページ上の専用ページやCD─R等により報告する方法の場合),そこで整理を行い,都道府県にデータを提供する仕組みになっています.
また,「具体的な医療の内容に関する項目」の報告では,病院・有床診療所の経済的・人的負担を軽減しつつ,病棟単位で医療の内容を把握できるよう既存の電子レセプトによる診療報酬請求の仕組みを活用します(図参照).
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