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第1280号(平成27年1月5日) |
日本医師会・日本医学会合同シンポジウム
「子宮頸がんワクチンについて考える」をテーマに
日本医師会・日本医学会合同シンポジウム「子宮頸がんワクチンについて考える」が昨年十二月十日,日医会館大講堂で開催された.
小森貴常任理事の総合司会で開会.冒頭,あいさつに立った横倉義武会長は,「ワクチン接種後の症状に苦しんでおられる方々には,深く心を痛めている」と述べた上で,日医として,厚生労働省と継続的に対応を協議するとともに,多様な症状を呈する患者への診療支援と救済等,積極的な対応を要請してきたことを説明.本シンポジウムにおける科学的なエビデンスに基づく議論に期待を寄せた.
久史麿日本医学会長は,「専門家の先生方からさまざまな意見を伺い,日医と協力して今後の子宮頸がんワクチン接種への対応を考えたい」とあいさつした.
講 演
引き続き,講演六題並びに指定発言二題が行われ,久日本医学会長が座長を務めた.
(1)子宮頸がん発症を予防する時代─HPVワクチンの有効性Update
小西郁生日本産科婦人科学会理事長/京都大学婦人科学産科学教授は,ワクチン接種により,若い女性のHPV(ヒトパピローマウイルス)感染率や前がん病変(CIN)発症が減少している外国のデータやWHOがワクチン接種を推奨していることを示した上で,副反応対策をきちんとして,わが国でもワクチン接種を推進していくべきとした.
(2)子宮頸がん予防(HPV)ワクチンの安全性について:副反応検討部会等における検討状況
倉根一郎国立感染症研究所副所長は,副反応検討部会において,副反応の症例について,(1)神経学的疾患(2)中毒(3)免疫反応(4)機能性身体症状─を検討した結果,(4)の可能性が考えられるとの結論に至った経緯を解説した.
(3)HPVワクチン関連神経免疫症候群(HANS)の病態と発症要因の解明について
西岡久寿樹東京医科大学医学総合研究所長は,ワクチン接種後の一連の症状をHANS症候群という新たな病態であるとした上で,症例を報告し,ワクチン接種のリスクとベネフィットを科学的に解明すべきだと指摘した.
指定発言「多発するHPVワクチン副反応例の臨床的解析」
横田俊平国際医療福祉大学熱海病院長/小児科教授は,HANS症候群を新たな病態として,「接種者を対象にした全国調査」「治験・研究センターの設置」「第三者による予防接種全般の副反応調査・解析機構の設置」を提案した.
(4)治療に関する一つの考え方
宮本信也筑波大学人間系長は,「原因不明で長期化する身体症状」への対応が治療の基本的な考え方とし,治療に際しては,患者・家族の複雑な心境への理解や,治療の最初の段階における,患者側・医療者側の解釈モデルのすり合わせが重要であることを指摘した.
指定発言「子宮頸がんワクチン後の痛みの診療」
奥山伸彦JR東京総合病院副院長/小児科部長は,ワクチン接種後に特発性筋骨格疼痛症候群等を発症した症例について解説した.
(5)子宮頸がんワクチン接種後の女児にみられる脳神経症状
池田修一信州大学医学部長/第三内科教授は,ワクチン接種後の症状について,自律神経障害や関節炎,高次脳機能障害など多様な病態が明らかになったとして,症例を示し解説.今後の展望として,診療ガイドラインの作成,関連学会への周知徹底,副反応を呈している患者の長期予後の解析などが重要だとした.
(6)慢性痛における機能性や器質性の病態
牛田享宏愛知医科大学学際的痛みセンター教授は,ワクチン接種後の慢性疼痛等の症例を報告した上で,原因にかかわらず,成長期の子ども達に対しては,体づくりを行いつつ,心理的な教育指導サポートによりQOL,ADLの改善を目標とすることが現実的だとした.
総合討論
その後,小森常任理事を司会として総合討論が行われ,参加者からの質問に講師が回答を行った.
最後に久座長が,「専門家の意見も分かれるところであるが,厚労省においては引き続きHPVワクチン接種のあり方について科学的根拠に基づいた検証を行って,速やかに結論を得るように努められたい」と取りまとめを行い,シンポジウムは終了となった.
実地医家のためのマニュアル作成へ─日医
シンポジウム終了後,横倉会長は久日本医学会長,小森常任理事と共に日医会館で記者会見を行った.
横倉会長は,まず,HPVワクチン接種後にさまざまな症状で苦しんでいる人々並びにその家族に対して,お見舞いの意を示すとともに,田村憲久前厚生労働大臣が打ち出したHPVワクチンに係る新たな対策に全面的に協力していく姿勢を表明.その上で,「引き続き,エビデンスに基づく真に科学的な議論が行われること」「さまざまな症状で苦しんでいる人々に対するサポート体制の充実が可及的速やかに実行されること」に期待感を示した.
久日本医学会長は当日のシンポジウムの座長取りまとめの内容を説明した上で,接種後に発生した症状とワクチンの因果関係の究明と同時に接種を進めていくことと,症状が起きた人々への支援体制の強化が必要だと指摘.国に対しては,早期にHPVワクチン接種に対する結論を出すよう求めた.
一方,小森常任理事は,シンポジウムの開催までの経緯等を振り返った上で,日本医学会,各学会,医会と共にHPVワクチン接種後のさまざまな症状に対する実地医家のためのマニュアルを作成する考えを明らかにした.
HPVシンポジウムを終えての座長取りまとめ
- HPVワクチン接種後に発生した症状とワクチンとの因果関係の有無及び病態については,本日のシンポジウムでも示されたように,専門家の間でもいくつかの異なる見解がある.今後も専門家による究明の努力が重要であると考える.
- これらの症状を呈した被接種者に対しては,HPVワクチン接種との因果関係の有無や病態にかかわらず,その回復に向けて,日本医師会・日本医学会が行政と共に,治療・支援体制を強化することが大切である.
- ワクチンには接種をすることによるリスク(副反応)と,しないことによるリスク(疾病予防機会の喪失)の両面があることを踏まえ,国においては,引き続きワクチン接種のあり方について,現時点で得られている科学的根拠に基づいた検証を行い,結論を得るべく努められたい.
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