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第1287号(平成27年4月20日) |
「地域医療構想」「医療事故調」等医療を取り巻く課題に理事者が回答
当日は,横倉会長のあいさつ(別記事参照)の後,「平成27年度日本医師会事業計画」について中川俊男副会長が,「平成27年度日本医師会予算」について今村聡副会長がそれぞれ説明.橋本省財務委員会委員長からは,財務委員会(1月16日開催)での検討結果が報告された.
「第1号議案 平成26年度日本医師会会費減免申請の件」に関する審議では,今村副会長が,(1)会費減免申請は合計11,829名で,減免申請金額は477,375千円となっている(2)東日本大震災による被災会員に対する減免は平成27年度も継続したいと考えている─こと等を説明.採決に移り,議案は賛成多数で承認された.
引き続き行われた代表質問並びに個人質問に対する回答の要旨は以下のとおりである.
代表質問1 医療崩壊を招かないために
日医に対して,医療崩壊を招かぬよう,実効を伴う反対行動を求める塩見俊次代議員(近畿ブロック)からの質問には,横倉会長が回答した.
同会長は,「高齢化に伴う社会保障費の増加が予想される中,今後も規制改革や成長戦略の名の下に,公的医療保険給付の範囲を狭める圧力が続いていくものと思われるが,医療における規制の多くは生命と健康を守るための規制であり,岩盤と言われようともその規制を守り抜く」と強調.その一方で,政府の提言に対しては,闇雲に敵対するのではなく,各審議会等の議論の場に参加して積極的に提言を行う等,中から変えていく姿勢も重要になるとした.
その上で,今後については,引き続き「国民の安全な医療に資する政策か」「公的医療保険による国民皆保険は堅持できる政策か」という2つの政策判断基準の下に政府の施策に厳しく対峙していくとし,理解と協力を求めた.
代表質問2 地域医療連携推進法人制度に対する日医のスタンス
牧角寛郎代議員(九州ブロック)からの地域医療連携推進法人制度に対する日医の考え及び病床過剰地域であっても参加法人間の病床の融通を認める特例に関する質問には,今村副会長が回答した.
地域医療連携推進法人制度については,日医として,「非常に大きな警戒心を持って対応してきた」とした上で,厚生労働省の「医療法人の事業展開等に関する検討会」で「統括医療法人(仮称)制度」を提案したことを説明.その結果,「地域の関係者によるチェック機能として,地域医師会の代表者が理事に就任すること」「地域医療連携推進評議会を設置すること」など,制度に日医の考えが盛り込まれたとした.
また,特例の問題については,新型法人のグループ内部で整合性が保たれていれば良いというものではなく,地域医療関係者が連携推進評議会を通じてチェックできる仕組みになっていることを説明し,理解を求めた.
代表質問3 地域医療連携推進法人(仮称)とヘルスケアリートが地域医療構想に及ぼす影響について
松本吉郎代議員(関東甲信越ブロック)からの(1)地域医療連携推進法人(仮称)並びに(2)ヘルスケアリートが地域医療構想に及ぼす影響についての質問には,松原謙二副会長が回答した.
(1)については,代表質問(2)の今村副会長からの答弁のとおりであるとし,法令及び運用通知に至るまで,今後も注意深く見守っていくとした.
(2)では,ガイドラインの策定に当たって,資産運用会社が取引を行うために整備するべき事項や,医療機関との信頼関係を構築するために留意すべき事項について,医療の非営利性や,地域医療提供体制の確保並びに,医療機関への経営の不介入について担保できるような制度となるよう要望していることを説明した.
その上で,ガイドラインについては,「前述の3つの制度的担保が盛り込まれるよう引き続き要請していく」と述べた.
代表質問4 災害時の情報システムについて
木下成三代議員(中国四国ブロック)からの災害時の情報システムに関する質問には,石井正三常任理事が,まず,「南海トラフ大震災を想定した衛星利用実証実験」(防災訓練)で利用している衛星「きずな」の今後の使用に対する懸念について,運用期間を既に延長しており,次の衛星の打ち上げ,運用開始までに使用できなくなる恐れがあることを説明.「政府に対しては,汎用性の高い次世代衛星を早期に打ち上げるよう,毎年,予算要望している」とした.
その上で,同常任理事は,「日医と被災地の医師会,JMATを派遣する被災地以外の医師会との間で情報共有と円滑な協議を行うためには,複数の通信手段を確保する必要がある」とし,インターネット衛星,衛星携帯電話など,複数の手段を活用する方策等についても引き続き検討していく考えを示した.
代表質問5 首都圏における地域医療構想策定に関する日医の見解について
東京を始めとした首都圏においては,二次医療圏にこだわらず,地域医療構想を策定すべきとの猪口正孝代議員(東京ブロック)からの提案には,中川副会長が,「代議員の提唱は,日医が主張してきた,それぞれの地域の実情に応じた医療提供体制を構築するという考え方と全く同じである」と指摘.「既に5疾病・5事業については,兵庫県のように,二次医療圏と異なる区域を設定しているところもあることから,地域の実情を熟知している地域医師会のイニシアチブによって,地域医療にとってあるべき構想区域を設定して欲しい」とした.
その上で,同副会長は,都道府県・郡市区等医師会に対して,改めて各地域での地域医療構想策定における積極的な関与を求めた.
代表質問6 介護報酬改定について
平成27年度介護報酬改定に関する藤原秀俊代議員(北海道ブロック)からの質問には,松原副会長が,まず,マイナス2.27%という厳しい改定になったことに遺憾の意を示した.
その上で,大幅なマイナス改定であっても,利益優先の側面から不適切なサービス提供や質の低下等につながらないよう,公平性・中立性の視点を持った運営が必要だと指摘.厳しい状況の中ではあるが,それぞれの施設やサービス事業所においては,引き続き存在意義を発揮し,活動して欲しいとするとともに,地域包括ケアシステムの構築に向けて,日医としても介護関係団体とも積極的に交流を図っていく考えを示した.
また,国に対しては,2025年に向けたわが国の社会保障施策に関する多くの課題について,中・長期的な観点で検討することを要望.日医としても万全の努力をしていくとして,理解と協力を求めた.
代表質問7 「地域医療構想」における「慢性期」病床必要量の算出等に関する日医の考え方について
「慢性期病床」に対する日医の考えを問う池端幸彦代議員(中部ブロック)からの質問には,中川副会長がまず,地域医療構想策定ガイドラインに示された「慢性期機能と在宅医療等を一体の医療需要として考える」の意味について,「ある構想区域では療養病床を主体に,逆に,ある構想区域では在宅医療等を主体に地域医療構想を策定しても良いという意味であり,決して在宅医療ありきではない」と説明.
その上で,同副会長は,「日医は,急性期から慢性期,在宅まで切れ目のない医療を提供することを目指すべきと一貫して主張してきており,どれも極めて重要な機能であると考えている」と説明するとともに,「地域医療構想は,地域医療を熟知する医師自らが,地域の医療提供体制を再構築し守っていく仕組みであり,決してひるむことなく,共に攻めの姿勢で進んでいこう」と呼び掛けた.
代表質問8 産業医等が実施予定のストレスチェック制度について
板橋三代議員(東北ブロック)からの産業医等が実施予定のストレスチェック制度に関する3つの質問((1)実施者が事業者の命令下に置かれることにならないか(2)今後の細部決定はどこで行われるか(3)本制度実施に向けての予算措置)には,今村副会長が回答した.
(1)については,ストレスチェックの実施責任は事業者にあり,実務上は事業者から産業医に依頼がなされるものであると説明.(2)については,省令案,指針案,マニュアル案は,現在,行政において作成されているとした上で,その内容については,随時,厚労省から説明を受けており,日医としても必要に応じて意見を述べていくとした.
また,(3)については,「小規模事業場への費用助成制度として,平成27年度に約4,000万円が計上されていること」などを説明.今後も地域産業保健センターが小規模事業場のニーズに十分応えられるよう,労働安全衛生法改正の際に参議院厚生労働委員会において行われた付帯決議等をよりどころとして,厚労省に対して予算措置を求めていく考えを示した.
個人質問1 後発医薬品(ジェネリック)使用は本当に医療費削減効果があるのか?
原晶代議員(長崎県)からの質問「後発医薬品(ジェネリック)使用は本当に医療費削減効果があるのか?」については,羽鳥裕常任理事が,「後発品の使用は進んでいるが,高価な生物学的製剤などの使用や,より新しい同種同効薬へ処方がシフトする傾向がある他,高齢化の進展とともに使用薬剤数が増えていること等により,年々薬剤にかかる金額,数量共に増えていることから,ジェネリックへの変更が医療費の削減につながっているかは分からず,その確認が重要と考えている」と回答.
その上で,同常任理事は,「後発品使用による医療費削減効果の実数の確認は,個別処方を確認するという膨大な作業が発生する等の理由から,非常に困難な問題ではあるが,後発医薬品の使用は医療現場における医療費削減のための努力の賜でもあり,より実際の削減効果に沿った数値を公表させるべく厚労省に働き掛けていく」とし,理解を求めた.
個人質問2 産業保健における労働者への「ストレスチェック」の問題点
産業保健における労働者への「ストレスチェック」の問題点に関する藤森次勝代議員(大阪府)からの質問には,道永麻里常任理事が回答した.
対象を「高ストレス労働者の10%」としていることについては,あくまでも目安であり,それぞれの事業場の実情に応じて,各事業場で決めることになると説明.「職場環境改善の取り組みは努力義務となっており,高ストレスの労働者の対応に終わってしまうのではないか」との懸念に対しては,「ストレスチェック制度の実施支援プログラムの開発」「小規模事業場に対する費用助成制度の導入」など,職場環境の改善に向けた国の事業を説明し,理解を求めた.
更に,情報の管理やプライバシーの確保の問題については,情報管理が適切に行われるよう厳しい規制が課されていることを説明.今後も制度の趣旨が正しく理解され,正しい運用がなされるよう,国に対して意見を伝えていくとした.
個人質問3 医療事故調査制度について
個人質問4 医療事故調査制度において設置される「支援団体」について
山田和毅代議員(和歌山県),清水信義代議員(岡山県)からの医療事故調査制度に関する質問には,今村定臣常任理事が回答した.
同常任理事は,山田代議員からの,「院内調査に外部からの調査委員を交えることを義務づけるべき」との提案について,各地域の支援団体として機能する都道府県医師会に事故の一報が入った時点で,院内調査を含むさまざまな支援,医師会としての総合的な支援と連動して,必然的に医師会から派遣される委員が院内調査に加わる仕組みなどが考えられるとした.
また,同制度に関するシンポジウム等のブロック単位での開催については,開催経費の一部助成なども検討しているとして,各都道府県医師会において,制度実施に先立って周知に尽力するよう要請した.
続いて,清水代議員からの「医療事故調査等支援団体」に関する質問に対し,同常任理事は,各都道府県医師会に「支援団体」となるための準備を進めるよう求めた.
その上で,各地域においては,医師会が中心となって,さまざまな「支援団体」が定期的に協議をし,医療事故が発生し調査への支援などが必要となった場合に,各「支援団体」がどのように対応するかなど,日頃から十分に打ち合わせをしておくことが極めて重要との考えを示した.
更に,医師会の支援団体としての運営経費については,日医として,相応の財政援助を国に対して求めていく意向を示すとともに,院内事故調査にかかる費用等,本来医療機関が負担すべきとされる出費に関しても,各医療機関の経済的な負担を軽減する仕組みを用意すべく損保会社と協議を進めていることを明らかにした.
個人質問5 看護大学新設増加による既存看護学校の臨地実習施設確保の実態と要望
津田哲哉代議員(北海道)の,「看護大学新設増加による既存看護学校の臨地実習施設確保の実態と要望」には,釜萢敏常任理事が,看護系大学卒業生の県内の就業状況は3割台の所もあることを示し,「実習施設関係者に,医師会立看護師・准看護師養成所の実習を引き受けることが地域の看護職員の確保につながることを説明し,理解を得ることが重要だ」と指摘.日医としても,厚労省に対して,臨地実習施設の要件緩和等の対策を取るよう,改めて強く要請するとした.
また,各会員に対して,会員診療所における実習の協力を求めるとともに,実習受け入れ施設に対する補助や実習受け入れのための設備整備の補助に地域医療介護総合確保基金を活用することを提案.4月24日開催の医療関係者担当理事連絡協議会においては,厚労省担当課に直接現場の声を伝えて欲しいとした.
個人質問6 急増するリハビリテーション料の査定と医療現場が抱える問題点について
平田泰彦代議員(福岡県)は,急増するリハビリテーション料の査定問題に対する日医の対応について質問した.
鈴木邦彦常任理事は,中医協での議論において,「一定期間の集中的なリハビリは必要だが,高齢化により対象患者の重度化も進んでいるため,回復期リハビリテーション病棟の対象となる患者像を明確化する必要がある」と主張していると説明.医療費抑制を理由に,必要かつ適切なリハビリの提供が阻害されることがあってはならないが,医療機関も,一律に上限単位まで実施するのではなく,患者の状態に応じたリハビリを心掛け,丁寧に説明する取り組みも必要との考えを示した.
一方,審査支払機関に対しては,査定するにしても一律ではなく,患者の状態によって行うことを引き続き求めていくとするとともに,今後は広く関係者の意見を聞きながら,次回診療報酬改定に向けた中医協の議論に臨んでいくとして,理解を求めた.
個人質問7 より信頼される医師会を目指して
山本楯代議員(愛知県)からの「より信頼される医師会を目指して」についての質問には,小森貴常任理事が回答した.
同常任理事は,「より信頼される医師会を目指すべき」との思いは,執行部一同,全く同じ思いであり,平成25年6月の第129回定例代議員会では,その旗印として,『日本医師会綱領』を採択したと説明.
また,医の倫理の更なる高揚に向けて,今期の「会員の倫理・資質向上委員会」では『医師の職業倫理指針』の改定作業を進めている他,ピアレビューの一環として,平成25年8月からは,医師賠償責任保険における「指導・改善委員会」を新たに起ち上げ,都道府県医師会の協力の下,医療事故を繰り返す医師に対する指導と再教育に当たっているとした.
その上で,同常任理事は,「こうした取り組みを進め,広く社会に発信していくことで,国民や全ての医師からの更なる信頼を集め,国民視点に立った医療の実現に努める」として,理解と協力を求めた.
個人質問8 日本医師会の「組織を強くする」ために─まずは研修医の入会を─
金沢和俊代議員(埼玉県)からの「組織強化に関する研修医への対応」についての質問には,笠井夫常任理事が回答した.
同常任理事は,横倉会長の「組織を強くする」との方針により,昨年,会内に「医師会組織強化検討委員会」を起ち上げ,3回にわたる議論の結果,「研修医会員の日本医師会費無料化の実施」等を内容とする提言がまとめられたことを報告.日医が研修医会員の会費無料化を実施した場合,「明日のわが国の医療を担う研修医に対して,日医が広く門戸を開き,協働を呼び掛けるメッセージになる」とした.
その上で,同常任理事は今後について,理事会決議を経て,来年度より実施したいとの意向を示すとともに,「医師会組織強化の目的は医師の権益を守るためではなく,あくまで国民視点に立った医療の実現のためである.研修医会員の会費無料化等の施策が,組織率を上げるためだけのものとならないよう努めていく」として,理解と協力を求めた.
個人質問9 在宅療養指導管理料について
清治邦夫代議員(山形県)からの「在宅療養指導管理料」についての質問には,松本純一常任理事が,「おのおのの医療機関で行った指導管理が正当に評価されるべきである」とする一方,「保険者が理解した場合,返戻することなく処理される場合もあるが,審査支払機関では,いずれの医療機関が主たる指導管理を行っている医療機関であるか判断できないため,双方の医療機関に通知についての説明等を含め,照会,返戻するのが通常になっている」とした.
その上で,平成26年度診療報酬改定では,注射の頻度に応じた評価体系に改められ,同時に薬事法上15日間以上の間隔を空けて行う注射は対象外とされたことを紹介.次回改定では,「現在,在宅自己注射指導管理料の対象薬剤が30種類を超え,さまざまな分野・診療科の疾患に対応していることにより,通知内容が医療現場と齟齬(そご)が生じていることから,前回改定と同様の観点で,評価体系を見直すよう働き掛けたい」とした.
個人質問10 新サービス貿易協定(TiSA)について
外務省経済局サービス貿易室の下で進められている多国間協定TiSA(Trade in Services Agreement)に関する動きに対する日医の見解を問う大橋勝英代議員(愛媛県)の質問には,石川広己常任理事が,まず,TiSAについて,TPPが米国主導で進められているのに対して,EUも含めて議論しているため,日本の医療制度を根本から覆すことは考えにくいと説明.
今後については,「極めて限られた公開情報の中でいたずらに危機感をあおる姿勢はとらないが,厚労省と連携をとり,政府や外務省からの情報収集に努める」とするとともに,交渉の段階で医療に関する動きがあれば,できる限り早く,正確に把握し,迅速な対応を政府に求めていくとした.
更に,同常任理事は「先人が築き上げた財産である,世界に誇る国民皆保険を経済優先の論理によって毀損(きそん)させるようなことは絶対にあってはならず,医療本体が市場原理にさらされることのないよう,引き続き積極的に政府に働き掛けていく」と述べ,理解を求めた.
横倉会長のあいさつ全文等,第134回日本医師会臨時代議員会の詳細は『日医雑誌』第144巻第2号5月号別冊をご参照下さい. |
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