日医ニュース
日医ニュース目次 第1296号(平成27年9月5日)

都道府県医師会だより

京都府医療トレーニングセンター

―京都府医師会―

 京都府医師会では、平成23年4月に医師会組織としては全国で初めてとなるシミュレーション・ラボ、「京都府医療トレーニングセンター」(以下、府医トレセン)を開設した。
 この府医トレセンは、「開かれた医師会」を基本理念に置き、全国に先駆けて、新しい生涯教育の形として、従来の講習や座学だけでなく、シミュレーション・ラボを用いた実技訓練を行うことによって、研修医・病院勤務医・開業医・メディカルスタッフ並びに医学生等、全ての医療・介護従事者、更には府民・市民に必要とされている技術や新しい手技の習得・修練に資することを目的としている。
 規模としては、京都府医師会館の5階全フロアを占める本格的な医療研修施設で、講義室(45名収容:101・4平方メートル)を始め、Lab1(63・6平方メートル)、Lab2〜4(48・2平方メートル)までの4つのシミュレーション・ラボ室を備えている。
 小児から成人までの高機能患者シミュレータや、実際に病院、診療所で使用される医療機器を備えることで、さまざまな急変場面をより臨床現場に近いシーンで再現することができ、効果的な教育環境をプログラムできる施設である。
 また、在宅医療に携わる介護関係者や在宅患者を抱える家族が、医療的ケアを学べるなど、在宅医療の実地研修にも対応できる施設となっており、医療・介護・福祉が一体となって取り組むべき基盤整備に、府医トレセンが重要な役割を担っている。
 府医トレセンには、運営委員会の下に急変体験及び在宅医療の小委員会があり、それぞれが各コースの企画・運営を行っている(主なコースは別掲の通り)。
 この他、府医トレセンを利用した研修としては、京都府内の研修医を対象とした心肺蘇生の模擬訓練、指導医のための実技研修会、京都府医師会看護専門学校の実技実習等がある。
 更には、京都地域包括ケア推進機構の活動を核とする、多職種協働による地域包括ケア推進の環境整備の一環として、在宅で家族介護をしている方を対象とした「家族介護者向け医療的ケア・口腔ケア実践講習会」や、地域の在宅医療の要となる、かかりつけ医の在宅療養者への対応力の向上を支援し、在宅療養者が地域で安心して暮らせる体制を確保するための「京都在宅医療塾」にも府医トレセンが役立てられている。
 その他、医師会以外の医療・介護・福祉に関わる関係団体や行政組織が多く利用している。開かれた医師会として、府民・市民を対象としたAEDを用いたBLS(一次救命処置)の講習や、更には小・中学生等を対象とした初歩的な救急処置を習得できるようなコースも計画しており、今後ますます府医トレセンの担う役割は大きくなっていく。
 これからも、全ての医療・介護・福祉に携わる関係者の質の向上・安全管理のため、また、府医会員の生涯研修としての実技習得を併用した研修、新しいプログラムの開発も含めて積極的に取り組んでいく。

コース名 内 容
ICLSコース 突然の心肺停止等に対する対応と適切なチームによる蘇生を学ぶため、診療所に特化する等、受講者の職種に応じ、カスタマイズしたシナリオで実施する
救急初療T&A(トリアージ&アクション)コース 救急外来や診療所等、さまざまな医療現場で起こり得る患者の状態変化(意識障害や血圧低下、胸痛や腹痛、麻痺など)をいち早く見極め(トリアージ)、適切な処置・対応(アクション)を学ぶ
小児救急初療T&Aコース 小児診療において見逃してはいけない疾患の見極め(トリアージ)方法や、適切な処置・対応(アクション)を学ぶ
チーム医療コース 各施設の多職種が連携し「Team STEPPS」の考え方(リーダーシップ、状況モニタ、相互支援、コミュニケーション)を取り入れた対応を学ぶ
在宅医療実地研修 在宅医療が必要な患者に関わる多職種スタッフがどのように連携して容態の変化に対応するか等、その方法について座学と実技を交えて学ぶ

新医師歓迎レセプション

―秋田県医師会―

 秋田県医師会は、平成25年から、秋田県内で臨床研修を始める新医師を歓迎して、「新医師歓迎レセプション」を開催している。
 秋田県では、新たに臨床研修を始める医師が充実した研修を行うことができ、また日常生活にも不安のないよう、秋田県医師会を始め、秋田大学、秋田県、そして県内の研修病院等が一致して研修医をサポートすることとしている。「オール秋田」が秋田県内の臨床研修に関するキーワードである。
 新医師歓迎レセプションは、秋田県医師会が主催して行うものであるが、秋田大学から医学部長、附属病院長、各科教授、臨床研修病院から病院長、指導医等が出席し、また秋田県臨床研修協議会を中心とした秋田県関係者も多数出席する。
 特筆すべきは、秋田県知事が毎年出席され、臨床研修を始める医師に激励の言葉と医師として社会人としてのあるべき心構えや医師不足の秋田県にあって医師として活動することに大いに期待する旨の言葉をかけて頂くことである。県知事は、レセプションの最後まで新医師と歓談され、まさに「オール秋田」研修医サポート体制を象徴するものとなっている。
 各界からも、「オール秋田」体制で新研修医をサポートすることで、医師としての第一歩を秋田県で踏み出したことに、満足と誇りを持ってもらえるように、全県挙げて新研修医をサポートする旨の決意が寄せられている。
 このレセプションには、県内全ての臨床研修病院から、病院長、研修指導医等と新研修医が参加し、各病院ごとにそれぞれ工夫を凝らした自己紹介や研修内容の紹介等が行われる。
 秋田県内の研修医は、全国各地から集まっており、出身大学も多岐にわたるが、本レセプションで新研修医が一堂に会することで、新研修医の間に新たな交流の場を提供する機会にもなっている。
 この機会を利用して、秋田県医師会から医師会が行っているさまざまな活動や事業の紹介、男女共同参画の視点での女性医師に関する対策などを担当理事が述べ、新医師に医師会の活動を理解してもらう機会としている。
 この新医師歓迎レセプションを始めとして、秋田県医師会が率先して臨床研修医をサポートする姿勢を示し、県医師会を核として「オール秋田」体制を構築することは、単に新医師を歓迎するということだけではなく、秋田県医師会、秋田大学、県内の病院、秋田県の間で緊密なネットワークを構築することにつながり、秋田県の医療提供体制に大きく寄与するものとなっている。

ペリネイタルビジット(育児等保健指導)事業

―大分県医師会―

都道府県医師会だより(写真) ペリネイタルビジット(PV)とは、妊産婦の育児不安の解消と出産前後の早期に小児科かかりつけ医を確保することを目的として行われている、産婦人科医と小児科医が連携した子育て支援事業のことである。
 大分県医師会ではPVの取り組みを開始して本年度で15年目を迎えたが、県内18市町村のうち11市町村でPVが事業化され、行政(県・市町村)と毎年1回事業推進委員会と意見交換会を開催してPVの普及・推進に努めているが、その取り組みが評価され、平成20年には「子どもと家族を応援する日本」功労者の内閣府特命担当大臣(少子化対策)表彰、平成25年には第一生命の「第65回保健文化賞」を受賞する栄に浴した。
 わが国でのPVへの取り組みを振り返ると、平成3年厚生省(当時)の「これからの母子保健に関する検討会」において出産前小児保健指導(プレネイタルビジット)を推進することが提言され、平成4年に市町村単位を実施主体としたモデル事業に始まる。しかし、事業への理解不足、小児科医と産婦人科医の連携不足もあり、広く普及することはなかった。
 平成12年度に作成された「健やか親子21」では、育児不安の解消と児童虐待への対策から“プレネイタルビジット”による産婦人科医と小児科医の連携促進の必要性が指摘され、平成13年度に厚生労働省と日医による医師会単位の単年度モデル事業が開始された。このモデル事業に大分県からも市町村枠を超えた全県的な取り組みとして参加し、大分県医師会・大分県産婦人科医会・大分県小児科医会が、大分県にも協力を求めて、大分県方式として事業への取り組みを開始したのが、大分県でのPVのスタートであった。
 大分県では保健指導を出産前に加えて出産後2カ月までの妊産婦を対象(妊娠28週から産後56日まで)としているために“ペリネイタルビジット”と呼称し、わが国ではこの呼称が定着してきた。
 大分県方式PVでは妊産婦に産婦人科医から紹介状が渡され、あらかじめ予約した日時に小児科医を訪れることになる。小児科医は感染症に配慮し、また1時間程度の指導時間を確保できる時間帯に保健指導を行っている。夜間や日曜日・休日等に実施している小児科医も多い。保健指導では小児科医会で作成した小児科指導ガイドラインとパンフレット『はじめてのお母さんへ─小児科医からの子育てアドバイス─』を使用している。
 妊産婦は母乳栄養の重要性や生活上の一般的な注意点、予防接種・乳幼児健診の受け方、地域の小児救急医療体制や行政が行っている育児支援事業の説明など、さまざまな保健指導を小児科医から個別に受けることができる。また、産婦人科医からの紹介状の中に妊婦の不安・悩み等を記載する問診欄を設けてあり、小児科医は保健指導の際に家庭環境や不安・悩みの内容の把握に努め、紹介元の産婦人科医と大分県医師会に指導票と共に継続支援の必要性についても報告することにしている。
 全ての紹介状と指導票は大分県医師会へ送付され、何らかの支援が必要と判断される事例(リスク事例)は、全て大分県医師会の中に設置されたPV専門部会(医師会・産婦人科医会・小児科医会の担当理事、精神科病院協会担当医、県健康対策課、保健師、児童相談所等で構成)へ報告され、毎月1回開催される専門部会の中で検討を行い、継続支援につなげている。
 平成13年度から26年度までの過去14年間の大分県PV実績数は、産婦人科紹介1万1104名、小児科保健指導8163名であった。大分県医師会ではPVで小児科保健指導を受けた全ての妊産婦を対象としたアンケート調査を継続して行っており、毎年90%以上の妊産婦が指導に満足したとの回答を寄せている。PVが漠然とした育児不安をもつ多くの妊産婦に大きな安心感を与えることが証明された。更に、リスク事例の早期の掘り起こしと地域での支援体制に早期につなげることにPVが大きな役割を果たし得ることも証明された。
 PVによって、出産・育児を一連の流れとして捉え、大分県医師会、産婦人科医、小児科医、保健師、行政が連携して育児支援を行うことによって、互いに連携した事業が醸成されたことも大きな成果である。PVでのこれらの連携は他の母子保健事業の展開にも大きな推進力となるであろう。

「かがわ遠隔医療ネットワーク(K─MIX)」は「かがわ医療情報ネットワーク、K─MIXプラス(K─MIX+)」として大幅な機能アップが実現

―香川県医師会―

 香川県では、全県的な「かがわ遠隔医療ネットワーク(K─MIX)」が稼動しており、現在120以上(県外を含む)の医療機関が参加しているが、この度、「かがわ医療情報ネットワーク、K─MIXプラス(K─MIX+)」として大幅に機能がアップし、県内の中核病院(15施設)の電子カルテの内容を参照できるようになった。
 K─MIXがスタートした12年前は、CTやMRIが地域の医療機関に普及し始めた頃で、K─MIXの機能は患者紹介に加え、遠隔での画像診断支援が中心であった。その後、電子カルテが大学病院や地域の中核病院、診療所に普及するとともに、本来の目標である電子カルテネットワークを構築する社会的諸条件が整ってきた。
 そうした中、厚生労働省の地域医療再生基金により、K─MIXの大幅な機能増強が実現し、新たにK─MIX+としてスタートすることができたことは、香川県にとってはもちろん、今後の日本の医療ITネットワークの発展、普及にとっても大変意義あることだと思われる。
 K─MIX+の優れた機能を一言で表すと、複数の異なる中核病院の検査・処方・画像情報等を、病院ごとに別々の画面ではなく、一画面上に連続したグラフ、情報として見ることができることである。
 患者の医療情報〔病名、アレルギー、処方(注射を含む)、検査、CT、MRI画像等〕が、データセンターのサーバ上で時系列的に並べ替えられ、医療機関の電子カルテ、あるいはK─MIX+参照用のパソコン上に、表やグラフ、画像として表示される。
 薬剤情報に関しては薬剤の標準コード(HOTコード)を、検査結果に関しては検査情報の標準コード(JLAC10コード)を用いることにより、地域全体での標準化が実現している。そのため、異なる中核病院において同種の薬剤が処方された場合には、アラームが出され重複投与を抑制することができる。
 また、検査結果に関しても、一連の連続したグラフとして表示可能となっており、医療機関を超えての診断と治療に威力を発揮する。これらの優れた機能は香川県で新たに開発された独自の機能であり、全国から注目されている(図)
 K─MIX+があれば従来のK─MIXの機能は必要ないのではないかとの考えもあるが、例えばK─MIX+のみでは、小規模の医療機関で撮影したCTやMRI画像、更には電子的な紹介状を中核病院等に送ることが困難なため、やはり従来のK─MIXの機能も大変重要である。
 K─MIX+はスタートしたばかりであるが、更なる機能向上を目指して、(1)基幹病院側を15病院から更に増加(民間病院、診療所を含む)させ、将来的には全ての医療機関の電子カルテをデータセンターを介して相互に接続する、(2)K─MIX+と脳卒中地域連携パスや糖尿病地域連携パス等、疾患ごとの連携パスとの連携、(3)電子処方せんシステムを組み込み、調剤薬局との電子的な連携、(4)検査会社との連携、(5)介護システムとの連携、(6)救急、防災システムとの連携、(7)遠隔健康管理システムとの連携─に取り組み、国の進める「どこでもMY病院」構想をぜひとも実現したいと考えている。

K-MIX+では、県内の中核病院(15施設)の電子カルテを、地域医療連携サーバを介してK-MIX のデータセンターと接続する構成になっている。中核病院の検査結果は、一連の連続したグラフとして表示可能である。
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都道府県医師会だより(図)

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