「健康ぷらざ」11月20日号  

指導:東京都立駒込病院感染症科医長

   根岸 昌功

変幻自在なウイルスが「治らない」もと

 ご存じのように、エイズは免疫の能力が徐々になくなっていく病気です。原因であるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、さまざまに形を変えていくいわば変幻自在なウイルスのため、薬が追いついて捕まえようとすると、姿を変えて病気を進行させてしまうのです。

「カクテル療法」登場

 エイズの病状は、以前はCD4陽性細胞という細胞の数で推測するだけでしたが、その後の研究により血液中のウイルスの複製数を調べることにより病気の勢いがわかるようになり、より的確な治療ができるようになりました。エイズの薬は大きく分けて3種類あります(専門的には、@ヌクレオチド系逆転写酵素阻害薬、A非ヌクレオチド系逆転写酵素阻害薬、Bプロテアーゼ阻害薬といいます)。それらの併用療法が研究されてきましたが、これらの薬をうまく組み合わせた「カクテル療法」が開発されました。アメリカではエイズによる死亡率が13%減少したという報告があり、エイズ治療は新しい時代に入ったといえます。

日常の注意が大切

 世界での傾向と同じく、日本でもエイズの患者数はじわじわと増えています。新しい治療法といえども、まだ症状を軽くする「対症療法」にすぎません。最近、エイズが以前ほど話題に上らなくなったとしても、決して治るようになったからではありません。エイズは主に性行為によって感染することがわかっているので、日常生活での配慮が第一であることに変わりはないのです。近い将来、決定的な治療法が開発される日を待つ一方、意識の向上が、今、最も求められています。


●わが国のエイズ患者・HIV感染者数
〔平成9年7月1日〜8月末日の2カ月間の届出数〕
(単位:人)
感染原因 男性 女性 合計
異性間の性的接触 39 (5) 23 (10) 62 (15)
同性間の性的接触 30 (3) 0 (0) 30 (3)
静注薬物乱用 1 (1) 0 (0) 1 (1)
母子感染 0 (0) 0 (0) 0 (0)
その他 1 (1) 1 (0) 2 (1)
不明 10 (2) 6 (4) 16 (6)
合 計 81 (12) 30 (14) 111(26)
注:( )内は外国人再掲数(厚生省調べ)

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