指導:金沢医科大学神経内科学教授

   広瀬 源二郎

生理的な“物忘れ”とは!?

 50歳を過ぎる年齢になると、誰でもすぐには人の名前、物の置き場所などが思い出せなくなることがあります。このこと自体は生理的な脳の変化によるもので心配はありません。これらの状態は“物忘れ”あるいは“健忘”と呼ばれ、記憶力の低下以外の症状はなく、数カ月たっても症状が進みませんので、日常生活も問題なく送れます。

病的な“物忘れ”とは!?

 しかし“物忘れ”は、ときに病気の最初の症状のこともあります。これは単なる“物忘れ”でに、それ以外のいろいろな知能障害(判断力・企画力の低下,人格の変化など)が加わるもので、だんだん症状が進み,日常生活,社会生活に支障が出るようになります。

脳血管障害が大きな原因の一つ

 知能障害の原因には、脳自体が病気になる場合と、脳の働きと密接な関係にある血糖、電解質(塩分)、ホルモン、ビタミンなどの異常による脳の機能異常の場合とがあります。
 前から高血圧や糖尿病の薬を服用していたり、過去に脳梗塞を患ったことはありませんか?
 手がしびれる、めまいがする、ロレツがまわりにくい、自分の感情を十分にコントロールできない(いつもニコニコしている、あるいは極端に涙もろいなど)ことなどがありませんか?
 物忘れに加えて、これらに思い当たったら、脳血管障害が原因である可能性が高いといえます。早めにかかりつけの医師に相談してみましょう.

表:老年期の知的機能の変化
   生理的な物忘れ(健忘) 病的な物忘れ(痴呆)
本態 生理的な脳の老化 病的な脳の変化
経過 進行しない 進行する
症状 記憶障害だけ 健忘に、判断力低下、
人格変化
見当識 異常はない 時間、場所、相手が
わからないことがある
日常生活 支障ない 問題行動がある




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