白クマ
日医白クマ通信 No.1356
2010年12月7日(火)


第2回第XII次生命倫理懇談会
「臓器移植・組織移植の現状や問題点などについてヒアリング」

第2回第XII次生命倫理懇談会


 第2回生命倫理懇談会が11月29日、日医会館で開催された。

 原中勝征会長、羽生田俊副会長のあいさつにつづいて、藤川謙二常任理事が前回議論された「人体の不思議展」について、委員から提出された資料を基に最新の動向を説明。同展は、パリでの開催に際し、人権団体から中止を求める訴訟を起こされていたが、破棄院(最高裁)において、商業目的での人間の遺体の展示は礼を失するもので、フランス国内では違法であると結審したことや、遺体加工の先駆者であるドイツの医師がインターネット上で、人体のパーツを販売し、問題となっているとの報道があったことを報告した。

 また、日本解剖学会が、人体標本の公の場における展示は、営利を主目的としない学術的・教育的な企画においてのみ許容されるとの「人体標本の展示に関するガイドライン」を9月末に発表したことを紹介した。久史麿座長は、「人体の不思議展」については、本懇談会で後日改めて検討を深めたいと述べた。

 議事では、まず、寺岡慧委員(日本移植学会理事長)が「臓器移植の現状と問題点」と題して講演。同委員は、臓器移植の歴史や、移植件数に関する国内外のデータなどから、日本では死体移植が少なく、心臓移植では米国の4%程度で待機期間が長いことを説明。特に、小児においては、海外渡航に頼るほかなく、「基本的生存権さえ認められていない」と指摘するとともに、費用面、安全面だけでなく、渡航先の国の患者の移植機会を奪うという倫理面の問題もあるとした。

 そして、2010年7月に施行された改正臓器移植法ならびに関係法令、諸規定の改正により、変更された臓器提供の要件、法的脳死判定の要件、臓器提供に至る手順と手続き等について詳細に説明し、改正法施行後、過去年間最高数の脳死下臓器提供が実施されてきているが、今後克服すべき課題は山積しているとした。

 講演の最後に、個人の意思表示について、単に臓器移植をするかしないかという問題にとどまらずもっと普遍的、根源的な生命の問題について思索を深め、そのうえで意志表示することが肝要であり、臓器提供意思表示カードの「3.私は臓器を提供しません」が増えていることは、適正な臓器移植の発展のあり方ではないかと述べた。

 つづいて、島崎修次日本組織移植学会理事長が「臓器移植と組織移植の問題点とその解決に向けての提言」と題して講演。同氏は、脳死下の臓器提供には臓器移植法、心停止下の臓器提供には角腎法に定めがある一方、組織移植に関しては日本組織移植学会の基準や各組織バンクによる自主的ガイドラインに頼っているわが国の現状を報告し、組織バンクの維持には国の補助が必要であること、また、移植コーディネーターも臓器移植、組織移植、アイバンクと分かれていることから、統一したコーディネーターを育成する必要があることを強調した。

 さらに、脳死判定方法やその後の脳の経過などを解説し、臓器移植に至らない場合でも脳死判定を行った医療機関に診療報酬が支払われるよう、脳死判定料の新設を求めた。

 意見交換では、委員から、「組織移植にも臓器移植法を適用することで、売買を禁止できるのではないか」との質問があったが、島崎氏は「臓器・組織移植法にしてしまうと、組織移植も本人の意思表示なしには出来なくなり、組織移植がシャットダウンしてしまうということで外された経緯がある。しかし、臓器移植法の改正により、臓器移植が家族の承諾で可能となったことから、今後、組織移植を同法に含めていくことが可能ではないか」との見解を示した。

 このほか、被虐待児に関する問題も取り上げられ、臓器移植の面からだけでなく、虐待防止の一環として、きちんと虐待の疑いの有無を確認すべきだとの意見が出された。

◆問い合わせ先:日本医師会企画課 TEL:03-3946-2121(代)


  日本医師会ホームページ
http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association.
All rights reserved.