白クマ
日医白クマ通信 No.1623
2012年12月13日(木)


京都府医師会「医学部新設への反対声明を公表」

京都府医師会 森洋一会長


 京都府医師会では、12月11日、京都府庁で森洋一会長が記者会見を開きました。

 最近、医師不足解消のためと称して医学部を新設するとの動きが全国的に絶えず、府内においても医学部新設を検討している大学があるとの報道が行われております。

 それを受け、将来展望のない医学部新設など地域医療を崩壊に導きかねない対応には断固反対していく方針を示すため、以下の声明を公表いたしました。

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医学部新設には断固反対していく

京都府医師会 会長 森 洋一

 最近、医師不足解消のためと称して医学部を新設するとの動きが全国的に絶えない。最近、府内においても医師不足解消を名目に建学以来の目標として医学部新設を検討している大学があるとの報道があった。明治の頃の建学の思いを現代の医療状況、医師、看護師の需給の将来推計をも顧みず果たそうとする事は、良識の府である大学の見識にも関わる大きな課題であり、京都府医師会として断固反対の活動を展開していく所存である。

 現在、2008年以降、医師不足解消のために、医学部定員枠を増大しすでに1,400名程度の定員増で医師不足解消対策がなされてきている。この定員枠の増加は、医学部10数校の新設に相当する医学生数増加に匹敵し、既存の医学部、医科大学においては医学部教育を担当する医師の献身的な努力で支えられている。人口対比医師数が全国でトップの京都府においても、北部、南部での医師不足解消が求められており、府立医科大学、京都大学の定員増、地域枠の設定などに取り組んでいただくとともに、京都府地域医療支援センター(KMCC)の活動とともに京都府医師会でも医学教育、研修医教育などにも積極的に協力し、府内の医師確保、医師の偏在、診療科間の偏在の解消などに積極的に取り組んできており、徐々に成果が見られるようになりつつある。

 日本医師会の推計では、現状の、医学部の定員増で、2025年には先進諸国と同程度の人口千人対医師数が3名になるとされており、今後、人口減少が進展すれば、必然的に医師は過剰状態となる。また、少子化が進展するなかで、18歳人口に占める医学生は、定員増により増加しており、同世代の人口当たりの医師数の比率が高くなる事から、医学生の質の低下も懸念される状況になっている。日本の最大の資源は人材であり、社会のあらゆる分野で優秀な人材が求められる中で、大学の経営上、体裁から医学部を新設してまでも少子化における学生確保に執心する事が果たして社会的な使命を果たす事になるのかどうか問われなければならない。小泉改革で大学新設の規制が緩和され安易に大学が新設されてきた。つい最近も新設大学の認可において、設立基準が課題とされた所である。その際、新設大学を目指す若者の気持ちへの配慮が叫ばれたが、一方で、杜撰な経営から廃校となった大学もあり、母校がなくなってしまう卒業生もおられるが、そのような方々への配慮は必要ないのか、今後の議論が必要であろう。医学部の新設は、近年認められていないが、多くの私学でも懸命の努力で良質な医学生の育成のために、教育、臨床、研修の精度の向上にも努めてこられた。また、少子化が進展する中で、医学部の経営、学生確保にも大変な努力をされている。なかでも、医師不足の中で教員、なかでも基礎系の教員の確保は困難を極めているのが現状である。

 医師不足の現状において、都道府県においても医学生、就労医師の偏在は顕著であり、医師不足解消としての、医学部新設が地方の中核病院からの医師の引き抜き、引き上げにつながる事は疑いもない。100名程度の医学部ないしは医科大学を設立するためには、医師である教員が140名以上必要と言われており、医師以外にも看護師を始め多数の医療関連職種の人材が必要となり、いずれも、地方では人材確保が困難を極めている。そのために、医学部新設が、逆に医師不足、医師の偏在を助長するということを、日本医師会も、47都道府県も繰り返し申し上げてきた。医師のみならず、看護師などの養成においても学歴至上主義的にはしる傾向があり、厳しい医療環境において、数年で離職する医療従事者も多く見られるとともに、高学歴の有資格者は地方において医療に従事しない傾向も見られる。看護専門学校の卒業生と看護大学卒業生の就労状況、離職状況などの詳細な検討が求められるところである。少子化における学生確保のための医療系学部の新設についても今後は十分に地域の医療状況、就労の需給状況などに配慮した育成が求められている。

 これからも、我々は、京都府病院協会や京都私立病院協会、京都精神病院協会などの医療関係団体とともに、正確な情報を提供するとともに、将来展望のない医学部新設など地域医療を崩壊に導きかねない対応には断固反対していく方針である。

 今回の、衆議院選挙においては、各政党にも真剣な対応と方針を出していただくよう強く働きかけてまいる所存である。

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(文責:森洋一京都府医師会長)

◆問い合わせ先:京都府医師会 TEL:075-354-6101


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