白クマ
日医白クマ通信 No.297
2005年12月8日(木)


野中常任理事
日医の意見をとりまとめた意見書『平成18年4月介護報酬改定について』を介護給付費分科会に提出

 野中博常任理事は、12月7日に厚生労働省で開催された第36回介護給付費分科会において、日医の意見をとりまとめた『平成18年4月介護報酬改定について』を提出した。報告書の内容は以下のとおり。

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『平成18年4月介護報酬改定について』

 今般、日本医師会として平成18年4月実施予定の介護報酬改定について意見をとりまとめたので、以下報告する。

○はじめに
 介護保険制度は、介護や社会的支援が必要な人に対して、その人が能力に応じ自立した日常生活を営むことが出来るように、次の観点から必要な保健医療サービスと福祉サービスを提供することを目的としている。

1.要介護状態の軽減や悪化の防止、要介護状態の予防に役立つように、また、医療との連携に十分配慮して提供する。

2.心身の状況や環境等に応じ、利用者の選択にもとづいて、適切な保健医療サービスと福祉サービスが、多様な事業者・施設から総合的・効率的に提供する。

3.サービスの内容と水準は、できる限り、自宅で能力に応じ自立した日常生活を営めるように配慮する。

これらの観点から意見を述べる。

◇1.ケアマネジメントの徹底

 日本医師会は従来から、介護保険部会ならびに当分科会においても、一貫してケアマネジメントの重要性を指摘してきた。このケアマネジメントは、本来、利用者にとって最適なサービスの組み合わせを多職種協働により、総合的なケアプランを作成しサービスを提供する仕組みであり、適切なケアプランを作成すべく、今後、介護支援専門員に期待する。

 本年10月より施設と在宅の給付と負担の公平化を図る美名の下、実施された居住費、食費の利用者負担は、周知期間の短さ、さらには行政側の説明不足から、低所得者のために設定された基準費用額に収斂され、施設にとっては、一層の経営努力が課せられる結果となった。施設入所者の利用者負担を増加させ ることで施設と在宅の給付バランスは調節できても、施設への入所希望者を減 らし在宅生活者を増やすことはできない。仮に出来たとしても利用者の真の選 択にもとづくものではなく、介護保険制度本来の目的とは反しており、利用者 の尊厳を尊重していることとは思えない。本来、在宅での生活は本人や家族、 さらには家計にとっても負担は大きいのである。しかし、介護や社会的支援を 必要とする人が希望するのであれば在宅生活は保障されるべきことであり、そ れは決して介護保険財源の節約のためではない筈である。在宅での生活が真に 理解されるためにも、在宅での生活が、本人や家族の共通した意思により選択 が可能な状況を、早急に構築する必要がある。そのためには、在宅と同様に施 設においても徹底したケアマネジメントが必要不可欠である。現状では、施設 における個別ケアマネジメントは不十分であり、このことが在宅復帰を妨げて いると言っても過言ではない。施設と在宅での徹底したケアマネジメントによ り作成されたケアプランは、本人のみならず家族をも視野に入れたものでなけ ればならない。その結果、在宅での生活が理解され選択されるのである。以上 のことから、介護保険施設が「在宅復帰・在宅支援重視型施設」として生まれ 変わることが是非とも必要である。

 そのためにも、平成18年4月に予定される介護報酬改定においては、施設に とって適切なケアマネジメントを実施する上での阻害因子とならぬよう、これ 以上の施設サービス費の引き下げは避けるべきである。

 一方、受給者の4割以上を占める要支援・軽度要介護者の機能低下の現状を 踏まえ、在宅サービスでは、地域支援事業、新予防給付との連携、地域活動の 積極的な活用も含めた、地域全体での自立支援、重度化予防の実現に向けた継 続性のあるケアマネジメントの徹底やサービスメニューの充実が必要である。

◇2.適切な医療提供体制の構築と施設の基盤整備

 要介護者であっても、必要な医療へのアクセスは阻害されてはならない。平 成18年4月には診療報酬改定も予定されていることから、十分連携を図りなが ら整合性を取ることを希望する。

 介護老人福祉施設では配置医師の役割を明確にし、かつ、かかりつけ医と十 分に連携できる仕組みを構築する必要がある。また、介護老人保健施設におい ては実施可能な診療行為を再検討するなど、介護保険施設での診療行為を外部 の医療機関とトータルで考え、利用者にとって最良の医療が提供できる体制と すべきである。

 施設サービスの基盤整備に関しては、保険料の上昇を抑える目的で、介護保 険3施設の機能分担も考慮しない形での参酌標準による規制が散見されるため、 今後は地域格差や質の問題も絡めた形で、十分な検討を要すると考える。その 上で、個室・ユニットケアの検証を十分行うべきである。介護保険施設への入 院・入所者の要介護度の推移をみても重度化している状況が見られるが、個室 ・ユニットケアを先進的に取り入れ、スタッフを配置することだけがすべてで はないと考えるため、十分な検証が必要である。

◇3.認知症高齢者の処遇について

 認知症高齢者の処遇に関しては、認知症は疾病であるという認識を医療関係 者のみならず、広く国民に対して啓蒙する必要性がある。そのためには、(1) 家族等への認知症症状の早期発見のためのツールの開発、(2)かかりつけ医 の認知症鑑別診断の標準化並びに相談機能の評価、(3)かかりつけ医と認知 症対応専門医(機関)との連携が大切であり、それらを評価する仕組みが重要で あると考える。

 一方、認知症高齢者の受け皿となっているグループホームに関しては、施設 類似サービスであるにもかかわらず、法律上は在宅サービスの位置づけである ことから、昨今、入所者に対する看取りのあり方も問題となってきている。こ れらの実態を踏まえた形で、グループホームの果たすべき役割、入所者に必要 なサービスのあり方を再検討する必要がある。現在、グループホームに対して は、第三者評価が義務づけられているが、もう一歩踏み込んだ形での位置づけ を考える必要がある。

◇4.目標の達成度に応じた介護報酬の設定について

 現行の要介護認定は、医療的または障害の程度をスケールとしているのでは なく、「介護の手間」を「ものさし」とし、「介護にかかる時間」を認定(分 類)の規準に用いている。具体的には、実際の介護の現場(介護保険施設)に おける、利用者特性と実サービス提供時間の関係から、認定申請者に必要な介 護時間を推計する手法を採用しているのである。(ただし、この推計時間は、 認定申請者が仮に介護保険施設に入所/入院した場合に、1日にどの程度のケ ア時間が必要かを推計したものであり、在宅療養者の場合、在宅でどの程度ケ アが必要かを推計したものではない。)

 つまり、現行の介護保険制度における要介護認定は、「介護にかかる時間」 以外、(1)障害の程度、(2)精神的負担感、(3)家族構成などの観点を 取り入れることは、公平公正並びに適正給付の観点から適当ではないと判断さ れているのである。

 従って、目標の達成度に応じた介護報酬の設定に際し、要介護度を指標とす る場合はモデル事業等を実施し、評価に十分耐えうる検証作業が必要であり、 拙速な導入は避けるべきである。

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