白クマ
日医白クマ通信 No.763
2007年10月27日(土)


緊急記者会見
「医療経済実態調査の問題点を指摘」

緊急記者会見


 日医は、10月26日、中医協終了後、竹嶋康弘副会長、鈴木満・中川俊男両常任理事の出席の下、厚生労働省内で記者会見を行い、当日の中医協で公表された「第16回医療経済実態調査(医療機関等調査)結果速報―平成19年6月実施―」(以下「実態調査」)に対する日医の見解を発表した。

 会見の冒頭、竹嶋副会長は、中医協で審議が行われる前に、一部の日刊紙で、実態調査の結果が報道されたことを問題視。今後このようなことがないよう、厚労省などに申し入れを行ったことを明らかにした。

 引き続き、中川常任理事が、日医が作成した「TKC医業経営指標に基づく動態分析の概要」について解説した。TKCは、会員数約9,500名からなる税理士、公認会計士のネットワークであり、今回の「動態分析の概要」は、TKCから資料の提供を受けて、日医総研が医療機関の経営分析を行ったものである。

 同常任理事は、今回の解析には国公立病院が含まれていないものの、診療所5,417件、病院700件と客対数が非常に多く、定点観測を行っていること、年間で前年と比較できることが「実態調査」と大きく異なるところであり、信頼性が高いと強調。その分析結果によると、(1)病院・診療所、個人・法人の4区分のいずれにおいても減収・減益となっていた、(2)診療所においては、保険診療収入が、ほぼすべての診療科で減少し、経常利益率もほとんどの診療科で低下していた、(3)損益分岐点比率は、「危険水域」と言われる90%を超えており、特に外科(無床・院内処方)では100%を超えていた、(4)病院でも、すべての医療機関で経常利益率が低下し、損益分岐点が90%を超えていたことなどが明らかになったと説明した。

 一方、「実態調査」について、同常任理事は、(1)基本的に定点調査ではないため、調査年によって、病床数、従事者数の平均が異なることから、医業収入も正確に把握できていない、(2)個人と法人を合わせた「全体」費用や収支差額が掲載されているが、個人の費用には院長給与などが入っておらず、前提が違うものを合算するのは適当ではない。(3)今回の調査では、統計上は「外れ値」と呼ぶべき、かなり特殊なケースを含めた処置をしており、統計調査としては不適切、(4)6月単月を対象としているが、6月には発生しない費用は捕捉できず、収支の差額に影響を与える―等々の問題点を指摘。

 そのうえで、今回示された「実態調査」から明らかになったこととして、一般病院の入院基本料が13対1以上の医療機関では、給与費率が高くなり赤字であること、病床規模別では病床数が多いほど赤字になり、500床以上の病院の医業収支差額が最も悪化したこと、一般診療所の医業収支差率は前回に比べ悪化したこと、院長の給与については、一般診療所院長の給与は公的病院院長と一般病院院長のほぼ中間であること―などがあるとした。

 さらに、同常任理事は、日医が行った「診療所開設者の年収に関する調査結果」についても説明。個人診療所開設者の手取り年収は、平均で1,070万円、最も高い55から59歳でも1,470万円であった。平均値は中小企業の経営者や金融・保険業の部長クラスと同程度であり、法外に高いとは言えないと主張。また、一部のマスコミで、病院勤務医師に比較して、診療所院長の給与が高いとの報道がなされた点についても、「院長には経営責任があること等を考えれば、診療所院長の給与は決して高いものではない。むしろ、病院勤務医師の給与の低さこそが問題である」と強調した。

 最後に、同常任理事は、一般病院が危機的状況にあること、そして多くの医療機関ではコスト削減の経営努力を続けているが、これ以上のコスト削減が強いられれば、医療の質は確実に低下すると述べた。こうした状況の根本的な要因は長期間にわたる医療費抑制策にあり、来年度の診療報酬の引き上げを強く求める方針であるとした。

 また、診療報酬改定の議論は、実態に即した指標を基にして行われるべきであるとし、今後は問題の多い実態調査の抜本的な見直しを求めていくとの考えを示した。

◆問い合わせ先:日本医師会総合医療政策課 TEL:03-3946-2121(代)

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