医学生×他学部生
同世代のリアリティー
コロナ禍での学生生活 編(前編)
※取材は2020年8月中旬に実施しました。医学生の学年は取材当時のものです。
今回のテーマは「コロナ禍での学生生活」
新型コロナウイルス感染症の流行により、学生生活にも様々な影響が出ています。今回は、医学部以外の学部に通う大学生の生活がどのように変わったか、ざっくばらんに語ってもらいました。
大学で何を学んでいる?三者三様の専攻
加輪上(以下、加):皆さんは、大学でどのようなことを学ばれているのですか?
佐藤(以下、佐):僕は化学科です。勉強していることをわかりやすく説明するのは少し難しいのですが…。簡単に言うと、ある材質の物について「これはどういう物質から作られているのか」を考える勉強をしています。「こういう材質の物を作るにはどのような物質が必要か」「もっと良い作り方があるのではないか」といったことを、深く追求するような学問ですね。
A:私は音楽学部で、楽器のレコーディングやアニメーションのサウンドデザインを学んだり、立体音響の研究を行ったりしています。
ラタントゥク(以下、ラ):私は美術大学の情報デザイン学科で学んでいます。情報デザインとは、様々なメディア媒体において、受け手が理解しやすいように情報を整理する手段・手法のことです。プログラミングやアプリケーションなどの最先端技術を駆使しながら、最終的には皆さんの生活を豊かにすることを目指しています。
実習が中止になり、手を動かすことができない…
加:僕が通う奈良県立医科大学は、5月まで学校が休みで、6月から学年ごとの分散登校が始まりました。僕たち2年生は、この春から人体解剖が始まる予定でしたが、規模を縮小して秋に行うことになりました。
高須(以下、高):私が通う東京医科大学では、6年次に予定されていた病院実習が全部なくなってしまいました。今は自習室でひたすら卒業試験と国家試験の勉強をしています。また、6年生は夏に病院見学に行くことが多いのですが、控えるように言われていたり、病院側が受け入れていなかったりするので、思うように希望の病院について知ることができません。皆さんの大学は新型コロナウイルスの影響でどうなりましたか?
佐:僕は去年まで教養学部にいて、3年生になった今年からようやく化学科らしい授業が始まる予定でした。本来なら午前に座学、午後には実験を行うはずだったのですが、実験はできなくなってしまいました。その結果、午前中はオンライン授業になり、午後は実験のデータをもらって、それらのデータを解析し、その結果の考察をレポートにまとめるという形の授業になりました。普段よりもレポートの量が増え、かなりきつかったです。
高:医学部もそうですが、手を動かすことに慣れる必要がある学部だと、必要な技術が身につけられないなど、色々と大変ではないかと思います。
佐:そうですね。薬品の扱いを知らないまま、4年生から研究室配属になってしまうのかと思うと、正直なところ心配ではあります。夏休みに短期で研究室の実験に参加できるイベントがあるので、そういったものを活用したいと考えています。
音が出せる環境が必要な音楽学部ならではの悩み
A:私は、3年生までにほとんど座学の単位を取ってしまったので、今は卒業制作の準備をメインに行っています。新しい音楽空間を創造するというテーマで、24個のスピーカーを使った立体音響の作品の制作を進めているのですが、やはり音を出せる環境がないと難しいです。また、学生の中には、自宅では楽器の音を出せず、練習ができないという人も少なくありません。そこで、教授に申請して、できるだけ学生同士が会わないようにしながら練習室やスタジオを使わせてもらっています。
加:リモートで行う授業などもありますか?
A:声楽の授業では、パソコンの向こうで先生が伴奏してくださるのに合わせて歌ったりしたのですが、タイムラグがあるので、結構難しかったです。
また、後輩のことも気になっています。通常、1年生は先輩のレコーディングに付いて行って機材の扱い方などを学ぶことになっているのですが、今はそれができません。一人で学校のスタジオでレコーディングを行うためには、機材の扱い方に関する検定を受けなければならないのですが、どうやって学んでいるのか心配です。
医学生×他学部生
同世代のリアリティー
コロナ禍での学生生活 編(後編)
学生がオンライン化を主導!情報デザイン学科の強み
ラ:私の大学では5月中旬から授業が再開しました。情報デザイン学科はオンラインツールに慣れているので、学年全体で受ける一般の授業に先んじて、オンライン授業を開始しました。オフィスチャットを使ってコミュニティを作ったり、オンライン会議ツールで講義を受けたりするのにも無理がありませんでした。
高:それは心強いですね。
ラ:私たちの学科の学生は、オンラインツールについて教授よりも詳しいこともあります。そこで、逆に学生たちがツールを教授に提案して、オンライン化を進めてきました。また、私は学部新入生のオンライン環境を支援する有志チームを立ち上げ、自学部の1年生向けにツール導入のための資料を作ったら、それが他学部にも好評で、学校の公式資料として配布されることになりました。
加:そうやって学生側から自主的に教授に働きかけるということは、医学部ではあまりないので、ちょっと憧れますね。
高:私は最近ずっと自習室にこもっていたので、皆さんが様々な工夫をしながら学習を進めているのがすごいなと思いました。
コロナ禍で失ったもの・得られたもの
加:コロナ禍で失ったものもありますが、得たものも多いと僕は感じています。
例えば僕は医療系の学生団体に所属していて、医療界のフロントランナーの先生に講演していただく機会があるのですが、その講演も対面からオンラインに変更されました。場所を移動しなくても話が聞けるようになったことで、むしろ今までより距離が縮まったように感じ、良かったと思います。
友達との関係も同様です。それまでは会うためのスケジュール調整しかしていなかったチャットアプリで、頻繁に雑談をするようになりましたし、暇さえあればオンラインで会話するようにもなりました。どこに住んでいても同じ画面で話せるので、遠くに住んでいる友達とも近くなったように感じます。
佐:対面だと会ったときの体験も大きいですが、会うための準備に手間もかかります。オンラインでのやり取りが一般的になり、会うハードルが下がったのは良いことですね。
ラ:私は逆に、友達と全然連絡を取らなくなってしまいました。美大生は自分の世界を持っていて、あまり他人に興味を示さない子も多いからです。
ただ、空いた時間を使ってバイクの免許を取りに行けたことは良かったです。今では暇さえあればバイクに乗っています。自分の時間が増えたおかげで、趣味を増やすことができました。
佐:僕も空いた時間に、これまで興味がなかった小説を読んだり、映画を見たりするようになりました。知らない価値観に触れられることは、将来的に自分にとって良い方向に働くのではないかと思っています。でも、バイトがなくなってしまい、お財布は火の車なのですが…。
高:金銭面は困ることが色々とありますよね。正直なところ、こうして大学の施設を活用できていない今、学費を下げてほしいという思いもあります。
佐:僕は学費のもとを取ろうと思って、最近では大学で過ごす時間を増やしています。朝早く図書館に行き、閉館までいて、閉館後も閉門まで図書館前の広場で星を眺めたりしています。
ラ:私も、学費のほとんどが施設費だと思うと、学費を返してほしいなと思うこともあります。6月からちょっとずつ対面の授業も増えて、制作に使う機材の貸し出しなども始まってはいるのですが。
でも、リモートになって良かったこともあります。私は事業会社でデザインの仕事をしているのですが、片道2時間くらいの通勤時間がなくなり、とても楽になりました。
A:私はDJイベントを行うようなクラブハウスでバイトをしているのですが、今までのようなバイトはできなくなってしまいました。
ですが配信イベントなどが増えたことで、DJがプレイする背景に、私の作った映像を流す機会をもらうことも増えました。今までは会場に来た人にしか見てもらえなかったものが、人数制限もなく、誰でもアクセスできるインターネットで公開されるようになったので、見てくれる人が増えて、SNSでのフィードバックもたくさんもらえるようになりました。
クラブミュージックの魅力は低音の気持ち良さなので、音響設備が整っているところでしか楽しめない文化だと思っていたのですが、映像表現などを使ってもっと楽しくできるということに気付けたのは良かったです。
加:皆さん様々な新しい取り組みを始めているのですね。
高:医学部には部活こそが青春という人も多く、大会が中止になったことで、元気がなくなってしまったような印象もあります。私もその一人です。ただ、部活で忙しかった生活が穏やかになったとも感じています。寂しい気持ちもありますが、代わりに自分の時間を持つことができたのは、医学生も皆さんも一緒なのだなと思いました。
※この内容は、今回参加した学生のお話に基づくものです。
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