withコロナ時代の医学教育
~コロナ禍での臨床研修と研修病院選び~(前編)

新型コロナウイルス感染症の影響で、臨床研修の様子は例年と様変わりしています。また多くの研修病院が病院見学を中止にしており、医学生の皆さんはどうやって臨床研修病院を選べばよいか、現在のような状況が続くなかで研修が始まったらどうなるのかと不安を感じている人も多いのではないでしょうか。今回は、3名の研修医にオンラインで取材を行い、平常時に研修病院をどのように選んだか、2020年度の臨床研修の様子、自身の経験を踏まえたコロナ禍における研修病院選びのアドバイスなどについて話を聴きました。

 

千田先生
千田 晋太郎


慶應義塾大学医学部卒業
手稲渓仁会病院(北海道)
臨床研修1年目




鈴木先生
鈴木 祥恵


東北大学医学部卒業
中部徳洲会病院(沖縄県)
臨床研修2年目




原野先生
原野 晶仁


岩手医科大学医学部卒業
水戸医療センター(茨城県)
臨床研修2年目



 

人それぞれの研修病院の選び方

――研修病院を選ぶ際、どのような要素に着目しましたか?

千田(以下、千):私は研修医の人数を重視しました。中高大と、大人数で勉強会を開いて楽しく学びあうのが好きだったので、研修でも同期の人数が多いところがいいなと思ったのです。

病院見学は5年生の夏から始め、全国の病院を5か所ほど訪れました。主に研修医の雰囲気や、研修責任者の先生との距離感などを見て回りました。

鈴木(以下、鈴):私は病院の雰囲気を重視しましたが、まずどのような雰囲気が自分に合っているのか知るため、多くの病院を見るようにしました。臨床実習期間はほぼ関連病院に出ていましたし、本格的に研修病院探しを始めてからは、長期休暇を利用して、九州・四国など延べ15か所は見学したと思います。様々な病院を見ていると、病院によって研修医に任される仕事の範囲や深さなどが異なるということがわかってきました。

原野(以下、原):私は茨城県の奨学金を得ていたので、その規定で研修先は茨城県内の医師不足の地域から探すことになりました。外科系志望なので、手技の経験を積みやすいように、同期が多すぎず、救急や外科に強い病院が良いかなと考えました。しかし、臨床研修ではどの病院もしっかりしたプログラムがあるため、どこへ行っても大きな変わりはないとも考え、病院全体の雰囲気も重視しました。

病院見学では職員の宿舎も見学できるところが多く、住環境も決め手の一つになりましたね。また、当直の体制も各病院によって異なるため、研修医へのバックアップやフォローが手厚いかどうかを見たりしました。

――見学に行く研修病院は、どうやって絞り込みましたか?

:私は、茨城県が奨学生向けに開いていたセミナーなどで情報を得ました。また、奨学生同士で情報交換するなど、横のつながりも役に立ちました。

:私の場合、東北大から九州・沖縄地方に行こうとする人が少なく、横のつながりから情報を得ることは難しかったので、基本はインターネットと、自分の足を使って調べました。まず「見学にも交通費を支給してくれる病院」という条件で、検索サイトで絞り込んだ病院に行き、そこを足掛かりに2週間ほど滞在してその地域の他の病院も見学するというような形です。

:私も遠い地域に行こうと思っていたので、研修病院情報サイトのレビューなどを参考にして探しました。

 

withコロナ時代の医学教育
〜コロナ禍での臨床研修と研修病院選び〜(後編)

ここがオススメ!自分の研修病院

――現在の研修病院の魅力や、選んだ決め手は何ですか?

:今の病院は、留学経験のある先生も多く、英語の勉強会も定期的に開かれ、外国人の先生からオンラインでレクチャーを受ける機会もあるなど、英語に触れる機会が多くあります。研修医は出身大学の偏りがなく、海外の大学の卒業生も受け入れるなど、多様性が重視されていると感じます。また、病院を決める際は、「人生で一度は北海道に住んでみたい」と思っていたことも決め手になりました。

:沖縄県には、総合診療医としても有名な徳田安春先生がセンター長をされている「群星(むりぶし)沖縄」という病院を超えた臨床研修病院群プロジェクトがあります。徳田先生ご自身や他院の先生が教育回診をしてくださるなど、充実した研修が受けられます。また、私の所属する中部徳洲会病院は、和気あいあいとしてアットホームな雰囲気がありつつ、スパルタ式にハードに学べる部分もあり、そのバランスが自分に合っているなと感じました。沖縄というリゾート地で2年間過ごせるのも魅力的です。

:水戸医療センターは三次救急医療の指定病院で、ドクターヘリが週3で飛んでいます。研修医でも、上級医と共にヘリで出動し、初期対応の経験を積むことができます。また、がん拠点病院なので、悪性腫瘍の患者さんをきちんと診ることもできます。その一方で、忙しすぎることもなく、QOLを保ちつつしっかり実力をつけられる病院です。

コロナ禍での臨床研修病院探し

――新型コロナウイルス感染症の流行により、研修に影響は出ましたか?

:私の所属病院は感染症指定病院ではなく、流行し始めた頃も今も、そこまで大きな影響は感じません。ただ、救急の当直の際にPPEを着ることになったので、大変さを感じます。

:沖縄では、夜間に患者さんが気軽にウォークイン受診する傾向があり、研修医が経験を積む機会にもなっていたのですが、2020年は患者数が激減してしまいました。またERやICUで気管挿管を行うときは、感染リスクを下げるための特殊な挿管を行うことが多いので、平常時の挿管の仕方や適応を学ぶことが難しいと感じます。

:一時的に物資が不足していた頃、救急外来にガウンを回したため手術用ガウンが足りなくなり、良性疾患の手術が延期されたり、手術の人員が絞られて研修医が入れなくなったりといったことがありました。

――このコロナ禍で研修病院探しをする後輩たちに、何かアドバイスはありますか?

:私も今、専門研修先の病院を探していますが、以前のように全国手広く探すことは難しいと感じています。気になる病院があれば、人づてでそこの研修医に直接連絡を取ってみてはどうでしょうか。研修医は皆大歓迎だと思います。

また私の友人で、先輩から「この病院の雰囲気に合っていると思う」と言われた病院に行き、今とても楽しそうに研修している人もいます。先輩や周囲の勧めに従ってみるのも案外良いかもしれません。

:私自身も、専門研修先の病院候補の見学が中止になり、Zoomのやり取りだけで研修先を決めました。しかし、コロナ禍であってもなくても、大切なのは様々な人から話を聴くことだと思います。「働いている人に話を聴きたい」と病院に連絡すれば、柔軟に対応してくれるのではないかと思います。

:もし見学可能な病院があれば、とにかく行ってみると良いと思います。その病院の情報だけでなく、周辺の病院や、上級医の先生が以前勤めていた病院などの様々な情報も得られるかもしれません。

――最後に、後輩たちへのメッセージをお願いします。

:コロナ禍であってもなくても、自分の中に基準をしっかり持つことが大事だと思います。受け身ではなく自分から情報を取りにいき、掴めるチャンスは掴んでください。そして、沖縄は研修先にお勧めです!(笑)

:研修プログラムはどの病院も大きく変わることはないはずなので、例えば手技ができるとか、病院全体の雰囲気など、「自分にとって何が一番大事なのか」を考えて病院を選んでほしいです。

:情報は色々なところに転がっているので、それをありとあらゆる手段で引っ張ってくる姿勢を持っていれば、このコロナ禍においてもより多くの出会いに恵まれるのではないかと思います。頑張ってください!

 

No.36