栄養サポートチーム(前編)

これから医師になる皆さんは、どの医療現場で働いても、チーム医療を担う一員となるでしょう。本連載では、様々なチームで働く医療職をシリーズで紹介しています。今回は、住宅型有料老人ホームやデイサービス、訪問看護などのサービスを展開する宮崎県三股町の「たでいけ至福の園」で、施設での摂食嚥下訓練を行う栄養サポートチームにお話を聴きました。

人間は食べることが生きる源

――まず、施設の概要について教えてください。

原(施設長):住宅型有料老人ホーム・デイサービス・訪問介護・訪問看護・居宅介護支援事業の5サービスを主に展開しています。ホームには看護師が常駐しており、重度の要介護者も積極的に受け入れています。施設内外の多職種と連携しながら、利用者さんのニーズに応じた生活を提案しています。

――栄養サポートチームの成り立ちと取り組みについて教えてください。

:要介護度が上がり、経管栄養や胃ろうになると、経口摂取に戻ることは難しくなりますが、もう一度口から食べたいと強く願う利用者さんの気持ちに応えたいと思いました。

まずは、摂食嚥下専門の歯科医に来てもらい、摂食嚥下訓練を始めたのですが、次第に経口摂取のためには他にも様々な専門職が関わる必要があることがわかり、チームを作ることにしたのです。

――それぞれ、どのようなお仕事をされているのですか?

宮田(ケアマネジャー):利用者さんのケアプランニングが主な仕事です。このチームにおいては、様々な状況を把握し、情報を提供しながら、多職種を連携させていくような役割です。

榮留(看護師):かかりつけ医として施設外から関わってくださる医師・歯科医師と相談しながら、管理栄養士や言語聴覚士と共に、経口摂取や経管栄養の割合などを調整していきます。

永山(管理栄養士):利用者さんの栄養管理を行っています。例えば、摂食嚥下に問題がある方がミキサー食やきざみ食になると、水分量が増えてエネルギー確保が難しくなるので、補助食品を混ぜるなどして効率よくエネルギーを取れるよう工夫します。

田中(ST*1):利用者さんの摂食嚥下の機能を評価し、訓練を行います。スタッフに、食事介助の方法をレクチャーすることもあります。

山下(OT*2):食事動作の面でチームに関わります。手の動きが悪いと食べこぼしが多くなり、栄養面に影響が出るので、動きを観察し、必要に応じて筋力や関節の訓練、食事姿勢の調整をして、安全に楽しく食べられるようにします。自助具スプーンを取り入れることもあります。

チームで食と人生を支える

――チームとして具体的にどのようにコミュニケーションを取っていますか?

平嶋(ST):チームは週に一度集まり、経過の報告や相談をします。その際、利用者さんの生活背景や家族構成、これまでの人生についてなど、ご家族から聞いた情報はなるべく共有するようにしています。一人では食が進まなくても、皆が一緒の環境だと食べることができる方がいたりなど、食事には嚥下機能以外の要素も関係するためです。

また、利用者さんが普段とは違う状態になったらすぐに情報提供が行われます。急な嘔吐があったときなどの原因究明には、特に関わりの深い介護士や看護師に状況を聞くことが大事です。

――医師との関わり方についてお聞かせください。

永山:この栄養サポートチームができるきっかけになったのは、制限食になっていた糖尿病の利用者さんの体重がどんどん減ってしまい、本当にこの制限は必要かどうかを医師に相談したことでした。生活期の栄養管理は体系的な仕組みがまだ整っておらず、現場の様子を見ながら対応する必要があります。利用者さんが適切に栄養を摂取できているかを管理するためにも、医師とは密に連携しています。

宮田:当施設に関わってくださる医師は摂食嚥下訓練に非常に理解があり、リスクがあっても利用者さんの希望に沿って支えたいという我々の思いを受け止めてくれるので、ありがたいです。

――病院と施設では、関わり方に違いはあるのでしょうか?

榮留:経管栄養だった方が昼だけ経口摂取にするといった微調整もできることは、病院との違いですね。

石谷(ST):私が以前勤務していた病院では、少しでも誤嚥のリスクがあれば食べさせることはありませんでした。ご本人やご家族が希望していて少しでも可能性があるならば食べさせてあげたいと思っていたので、ここで実現できて嬉しいです。

 

*1 ST…言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist)
*2 OT…作業療法士(Occupational Therapist)

 

 

栄養サポートチーム(後編)

最後まで彩り豊かな人生を

――このお仕事のやりがいについてお聞かせください。

永山:看取りをする施設なので、人生の最後を輝かせる責任を感じています。医師も含め、チーム皆で動いて利用者さんの生活期を幸せなものにできたと感じたときは特にやりがいを感じます。

宮田:私たちが関わることで、利用者さんが少しずつ食べられるようになると、たとえ寝たきりであっても表情が生き生きとし、雰囲気も変わってきます。その過程を見るとやりがいと大きな喜びを感じます。

――最後に、これから医師になる人たちに知っておいてほしいことをお聞かせください。

:利用者さんからは、信じられないような人間の可能性をまざまざと見せられることがあります。命を救う急性期、回復期も大事ですが、ぜひ生活期にも目を向けてほしいですね。そのためには患者さんの生活背景や帰宅後についても考慮して診ていただけたらと思っています。

田中:医師は多忙で緊張感のある仕事なので、どうしても他職種や患者さんと関わる時間が短くなってしまうのではないかと思うのですが、頼れるところは専門職に頼ってほしいですね。人を思う気持ちを常に忘れずに、共に働いていきましょう。

 

写真前列左から、永山綾乃さん(管理栄養士)、平嶋奈菜美さん(言語聴覚士)、宮田紀美子さん(施設長補佐兼ケアマネジャー)、田中飛鳥さん(言語聴覚士)、榮留紗邪香さん(看護師)

写真後列左から、石谷海里さん(言語聴覚士)、原秀直さん(施設長)、山下健太さん(作業療法士)

 

※この写真は2019年12月に撮影されました。

 

※取材:2021年4月
※取材対象者の所属は取材時のものです。