第6講 他者と出会い、対話する(前編)

異なる背景の人と協働するために

先生:このゼミでは、チームを運営するうえで基本となる人間観や、学習する組織の重要性、チームで学び合っていくための具体的な方法などについて、概要を紹介してきました。皆さんは、どのような感想を持ちましたか?

:目標を共有してまず行動し、そのうえで試行錯誤したり、心理的安全を確保して率直に意見を言い合える環境を作ったりすることは、部活を運営するときにも取り入れていけるかもしれないなと思いました。

:私は最近、グループに分かれて行う授業などで、人と協働することの難しさを感じていました。このゼミの最初の頃も、「やる気のない人と同じチームになってしまったら、学び合うなんてできない」と思っていたのですが、率先して周囲に働きかければ、個人の行動やチーム全体が変わる余地はあるのかもしれない、と思うようになりました。

:私も、チームに関する考えを見直すきっかけになりました。最初は、リーダーがすべてを判断し、仕事をきっちり振り分けて、着実にこなしてもらうことが良いリーダーシップだと思っていました。でも、確かに今の医療をめぐる状況はとても複雑で、一人の人間がすべてを判断するのは不可能ですよね。メンバー全員で判断し、学び合うチームを作ることが、リーダーの役割なのだと思いました。

先生:様々な気付きや学びがあったようですね。皆さんが医師としてチームを率いるようになるのはまだ先の話ですが、今からでも、チームで協働する場面があれば、今回の学びを思い出してほしいと思います。

ただし、部活や授業といったシーンで協働するのは、同じ大学、同じ学部というかなり似通ったバックグラウンドを持つ人たちです。しかし、臨床現場に出ると、多様なバックグラウンドを持つ患者さんやその家族を前に、世代の異なる医師や他科の医師、異なる教育を受け、異なる専門性を持った多職種、さらには行政や地域の人たちとも協働していくことになるでしょう。

医師という存在は、そうした人たちの中ではとても大きく重いものと捉えられがちです。患者さんの希望や本音、多職種の気付きを聞き取ろうとしても、なかなか率直に話してもらえないかもしれません。だからこそ、心理的安全を確保して、率直に話し合える環境を作っていくことは、これからの医師に欠かせない能力になっていくのではないでしょうか。そしてそのためには、世の中には自分と違う様々な人がいること、自分一人の力だけでは物事は解決できず、他の人の力を借りる必要があることを強く認識している必要があるでしょう。

ですから皆さんには、可能な範囲で、様々な人と出会ってほしいと思います。

医学生は、医師と一般の人の中間の存在として、柔軟な発想で様々な人と関わっていきやすい存在だとも言えます。周囲の人も、学生という立場であれば、親しく関わりやすいかもしれません。ぜひ、医学生という立場でいるうちに、様々な人と出会って対話してほしいと思います。

 

 

第6講 他者と出会い、対話する(後編)

【第39号特集「チームで学ぶ、チームが学ぶ」 参考・引用文献一覧】

・安藤史江, 2001「組織学習論における3系統(経営学の新世紀:経営学100年の回顧と展望)」, 『經營學論集』71(0), pp.112-117

・安藤史江, 2019『ライブラリ 経営学コア・テキスト=5 コア・テキスト組織学習』, 新世社

・井原久光, 2008『テキスト経営学[第3版] 基礎から最新の理論まで』, ミネルヴァ書房

・エドモンドソン, E.C.(野津智子訳), 2014,『チームが機能するとはどういうことか 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』, 英治出版

・ガービン, D. A.(ダイヤモンド社編集部訳), 2003「『学習する組織』の実践プロセス」, 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』3月号, pp. 102-117

・ガービン, D. A., エドモンドソン, E. C., ジーノ, F.(鈴木泰雄訳), 2008「『学習する組織』の成熟度診断法 環境、プロセス、リーダー行動から判定する」, 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』8月号, pp. 118-130

・香川秀太, 2011「状況論の拡大:状況的学習, 文脈横断, そして共同体間の『境界』を問う議論へ」, 『認知科学』18(4), pp. 604-623

・カッツェンバック, J. R., スミス, D. K.(ダイヤモンド社編集部訳), 2004「チームとグループは異なる」, 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』12月号, pp. 80-95

・金井壽宏・髙橋潔, 2013『組織行動の考え方』, 東洋経済新報社

・岸田民樹・田中政光, 2009『経営学説史』, 有斐閣

・木村元・ 小玉重夫・ 船橋一男, 2009『教育学をつかむ』, 有斐閣

・佐伯胖(1995)『「学ぶ」ということの意味』, 岩波書店

・白石弘幸, 2009「組織学習と学習する組織」, 『金沢大学経済論集』29(2), pp. 233-261

・シャイン, E. H., シャイン, P. A.(野津智子訳), 2020『謙虚なリーダーシップ 一人のリーダーに依存しない組織をつくる』, 英治出版

・センゲ, P.M.(枝廣淳子・小田理一郎・中小路佳代子訳), 2011『学習する組織 システム思考で未来を創造する』, 英治出版

・高尾義明, 2019『はじめての経営組織論』, 有斐閣

・服部泰宏, 2020『組織行動論の考え方・使い方 良質のエビデンスを手にするために』, 有斐閣

・二村敏子編, 2004『現代ミクロ組織論』, 有斐閣

・松本雄一, 2013「『学習する組織』と実践共同体」, 『商学論及』61(2), pp. 1-52

・ロビンス, S.P.(髙木晴夫訳), 2009『【新版】組織行動のマネジメント ―入門から実践へ』, ダイヤモンド社

 

 

 

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