本連載は、医師不足地域で働く若手医師に、地域医療の最前線で働くことの魅力についてお尋ねするコーナーです。今回は新潟県の新潟大学医歯学総合病院の田中健太郎先生と長岡赤十字病院の嶋俊郎先生にお話を伺いました。

 

 

スポーツ診療を通じて これまで受けてきたことの恩返しをしたい

医師を目指した理由

――嶋先生が医師を目指したきっかけを教えてください。

:私は小さい頃からずっとサッカーに打ち込んできました。大きな怪我を何度も経験し、そのたびにスポーツドクターに助けてもらいました。特に、最初に出会った先生はなでしこジャパンのチームドクターをされていた先生で、非常に印象に残っています。自分が受けてきた恩を他の誰かに還元したいという思いから、整形外科医やスポーツドクターを目指そうと思うようになりました。

――地域枠で医学部に進学した理由をお聴かせください。

:私は順天堂大学に新潟県地域枠で進学しました。私自身は東京出身ですが、新潟は両親の実家があり、幼い頃からよく遊びに行くなじみ深い土地でした。学費の関係で国公立の医学部を目指していましたが、高校3年生の時、順天堂大学に新潟県地域枠が新設されるという情報を父が見付けてきてくれました。それまで順天堂には東京都の地域枠しかなく、自分の代から新潟県の枠が出来たことに縁を感じて受験しました。

――在学中の地域枠ならではの経験について教えてください。

:毎年夏休みには地域枠の学生を集めた夏期実習があります。大学1年生の時は新潟県内の病院を見学し、地域医療の様子を学びました。地域枠の学生には、卒後のキャリアパスは事前に提示されているものの、一般教養課程しか勉強していないような新入生には全くイメージが湧きません。そうした時期に、将来自分が働く場所の具体的なイメージを持つことができたことは非常に有意義でした。同じ新潟県地域枠の他大学の学生との交流も良い刺激となりました。

5年生の夏期実習では佐渡に行きました。正直なところ「離島の医療」というととても大変な印象があり、自分に務まるかどうか不安でした。しかし、佐渡の様子や大きくて設備の整った佐渡総合病院を見て、「ある程度の規模の離島なら大丈夫」と安心しました。このこともあり、臨床研修中には積極的に佐渡行きの希望を出しました。

 

 

嶋先生がプロバスケットボールチーム「新潟アルビレックスBB」の試合で会場ドクターを務めた時の会場風景。

 

 

新潟県で多くの症例数を経験

――臨床研修、専門研修では他にどちらに赴任しましたか?

:研修医の時は、大学病院のほか、佐渡総合病院と亀田第一病院に赴任しました。専門研修では佐渡総合病院と県立新発田病院を経て、3年目と4年目の現在は長岡赤十字病院に勤めています。

――新潟県特有の医療事情や、県の魅力をお聴かせください。

:佐渡の医療は最も特徴的かもしれません。佐渡総合病院は島内にある唯一の大規模病院なので、軽症から重症まで、夜間の急患は全員受け入れます。当直は研修医一人で担当しますが、一番忙しい時は、30~40分の間に救急車が7台ほど来たことがありますね。

佐渡総合病院で対応できない場合はヘリが出ます。日中はドクターヘリが使えるのでフライトドクターにお任せできますが、夜間は自衛隊の防災ヘリを使って当該科の医師が付き添います。付き添った医師は翌朝の船で島に戻ることになります。

新潟県では、新潟大学の医局からほぼ全県に整形外科医を派遣しているため、どこに行っても顔なじみの先生がいるのは心強いです。また、他県に比べて整形外科医の人数が少ないため、一人あたりの経験症例数が多くなる点は魅力的だと思います。

目標はスポーツドクター

――今後の展望についてお聴かせください。

:義務年限が3年残っており、当面の目標は義務年限中に専門医資格を取得することです。その後は医局人事や、同じ地域枠出身で小児科医の妻のキャリアとの兼ね合いはありますが、スポーツ外傷・傷害を治療することで、これまで自分が受けてきたことの恩返しがしたいです。

病院外の活動としては、これまでもスポーツ大会の会場ドクターを務めてきており、これからも積極的に参加していきたいです。また、プロサッカーのアルビレックス新潟のチームドクターは新潟大学の医局から出ており、将来的に自分も資格を取って携わりたいと思っています。

――最後に医学生へのメッセージをお願いします。

:「地域医療」と聞くと、敬遠してしまう人もいるかもしれません。しかし、都心で臨床実習をしてから新潟に来た私は、「新潟での研修が物足りないから東京に帰りたい」と思ったことは一度もなく、非常に満足しています。皆さんもぜひ地域に目を向けていただけたらと思います。

また、サッカーで高いレベルを目指してきた経験から言うと、一つのことに打ち込むことは、医師になって困難に直面したときに乗り切る糧となるように感じています。何もない人は今からでもぜひ、打ち込めるものを見付けてほしいと思います。

 

  

 

(左)佐渡の最北端に位置する「二ツ亀」。二匹の亀がうずくまっているように見えることからこの名がついた。
(右)新潟まつりの花火。全国的には長岡花火が有名だが、他にも新潟県では大規模の花火大会がいくつも開催される。

 

 

十日町市に位置する日本三大渓谷の一つ、清津峡。

 

嶋 俊郎先生
2016年 順天堂大学医学部卒業
長岡赤十字病院 整形外科

 

 

 

 

※取材:2021年7月
※取材対象者の所属は取材時のものです。

 

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