米国疾病管理センター:CDC
2001年10月16日付け公式発表の日本語訳

(日本語版は医療従事者向けにしており、米国内のみでの該当個所は割愛した)

日本医師会総合政策研究機構主任研究員
米国内科専門医、米国感染症科専門医、英国熱帯医学専門医
五味晴美

 以下は、日本国内でも公衆衛生上、医療従事者に有用な緊急情報と判断したので、掲載する。米国での現在の炭疽症への対応である。

公式発表原文(PDF)

 詳細およびその他のCDC公式発表は、www.bt.cdc.govを参照のこと。


炭疽症

炭疽症の疑いのある人には、臨床検査が診断のためにもっとも重要である。

CDCの炭疽菌の培養、同定の詳細は、以下のCDCマニュアルを参照(無料ダウンロード可能)。 http://www.bt.cdc.gov/Agent/Anthrax/LevelAProtocol/Anthracis20010417.pdf

血液、脳脊髄液の培養(抗菌薬が投与される前に採取しておくことが重要)
病変の認められる組織(皮膚など)、体液(皮膚病変の水疱、腹水、下痢便など)の培養
組織の病理学的検査(皮膚など)あるいは、検体のグラム染色
Polymerase chain reaction (PCR)で、炭疽菌のDNAを検出する


炭疽菌への暴露(直接接触、芽胞吸引、汚染された飲食物の摂取の可能性後)

炭疽菌に汚染されている、あるいは汚染されている可能性のあるもの(郵便物など)、あるいは環境表面(建物の一部など)に暴露あるいは接触した人は、臨床検査の結果(鼻の粘膜の培養など)が陰性でも、予防投与を考慮すべきである。(以下で詳述)また、予防投与を開始する時点は、暴露あるいは接触したかどうかの時点であり、その可能性に基づくことが原則である。検査の結果が陽性になるのを待ってから予防投与を開始するのではない。

(訳者注:すなわち、明らかに米国での現状のように郵便物などに暴露したことが確認されれば、検査結果にかかわらず、60日間の予防投与が推奨されている。しかし、暴露してもいない人が、事前に根拠もなく抗菌薬を服用することは勧められていない。)


炭疽菌への暴露調査で行われる検査

鼻粘膜の綿棒擦過(nasal swab)は、鼻のなかに存在しているかもしれない炭疽菌の芽胞を検出するために行う。しかし、この検査が陰性でも、炭疽菌に暴露したかどうかは除外できない。つまり、陰性の検査は、暴露をしなかった、ということを証明はできないのである。(感受性、特異性の問題などから)
炭疽菌に対する血清抗体検査は、急性期の炭疽症を診断するのには有効ではない。
一般の臨床検査室ではおこなわれてはいない。(日本でも一般病院で抗体の検査はほとんどできないと判断してよい)


疑わしい手紙や小包について

粉様物質について(パウダー状物質について)

炭疽症が存在するかもしれないと疑われるパウダ―状の物質の検査は非常に重要である。

その検査には、以下が含まれる。

疑わしい物質の培養
疑わしい物質の顕微鏡検査(グラム染色など)
疑わしい物質の培養で発育の特徴を評価する(夾膜形成など)
Polymerase chain reaction (PCR)法で、炭疽菌の存在を確かめる
DFA (Direct Florescent Assay: 直接蛍光検査)を使用し、炭疽菌の主要蛋白を確かめる
炭疽菌を同定するためのその他の特殊検査


炭疽菌で汚染されている可能性のある環境表面について

暴露の可能性の調査では、環境表面(建物の一部など)の検査をおこない炭疽菌が存在するのかどうか確認することが必要である。 環境表面の検査は、炭疽菌の芽胞が少量でも検出するのに有効である。採取される検体は、以下である。

暴露の可能性のある建物内あるいは部屋の空気のサンプル
さまざまな物体や、環境表面(家具類、床、壁、手すり、その他可能性のあるすべてものが対象になりうる)の綿棒擦過による培養

こうした検体は、存在する可能性のある芽胞を発育させるために、検査室で培養することが必要である。そして、もし、何かが発育してくれば、それが炭疽菌かどうかを、追加の検査をして同定する必要が出てくる。(同定方法は、上記のパウダーの項を参照)