1.生物兵器の脅威 その背景
(1)国際社会は、次の三つの要因で二極化する傾向にある。
●nuclear divided:核保有国と非核国との発言力の差はますます拡大する。
●digital divided:一旦ついた技術的な差は取り返しがつかない。
●value divided:先進民主主義国家の間の戦争は起こりにくい。
紛争や戦争は価値観の違う国の間で起こりやすい。
(2)2020年頃に実用化している軍事技術(戦闘様相)
@「圧倒的な力」すなわち、近代化された核戦力の出現
大国は大国同士の戦争を抑止する(では、非核国はどうなる?)
→確実なNuclear Deterenceの保持
→信頼性のある第二撃能力の追求
→核戦力の近代化(弾頭の小型化・命中精度の向上・抗堪性の保持
→原子力潜水艦への極端な依存と「核の傘」の変質の問題
→弾道ミサイル防衛(NMDとTMD)能力保持の問題
A「効率の良い力」すなわち人員の損耗を受けない兵器の出現(では、途上国はどうする?)
国際社会が集団的制裁を加える場合が多くなる
→自国の国益より国際秩序維持のための戦闘参加
→短い期間に僅かな人的損害で制裁の目的を達成する
→Post Heroic Warの追求
→スタンド・オフ(長射程・精密誘導)と長距離展開性
→a通常兵器のあくなき近代化努力は続く
B「抑制された力」すなわち、人を殺さないで済む兵器の出現
平和維持活動(PKO)、対ゲリラ・対テロ作戦が多くなる
→OOTW(Operations Other Than War)への対応が必要となる
→民間人の被害を最小限にして非人道的行為を制圧する
→Non-lethal weaponの開発と導入
C「非対称的な力」すなわち、弱者の核兵器が出現
「圧倒的な力」や「効率の良い力」を持てない途上国は非対称的な手段を使う
→非核国が隠れて核兵器を開発することは難しくなる
→生物(biological)兵器・化学(chemical)兵器を使う非正規戦の可能性が大
→サイバー(cyber)戦争(情報戦争:information warfare)による挑戦
(3)戦闘様相を一変させる軍事技術の革命的な変化RMA(Revolution in Military Affairs)
第一の波:ナポレオン戦争
火力・機動力・師団・国民兵の概念が登場
→戦力の組織化
第二の波:第一次大戦
戦車・航空機の出現
→戦闘の場の拡大(立体化)
第三の波:第二次大戦
戦略爆撃機・潜水艦・レーダー・核兵器・ミサイルの出現
→戦争の効率化
第四の波:冷戦時代
核兵器・弾道ミサイル・精密誘導兵器の組み合わせ
→戦争の二極化(核戦争とゲリラ戦)
第五の新しい波:21世紀(2020年頃から)
非対称兵器の登場(通常型との重複)
→戦争形態の多様化(なんでもあり)
●国家または非国家組織によるサイバー戦・生物剤・化学剤・放射線などを使用
(誰が敵か、交渉相手は誰か、何が目的か、何処が戦場か、何が使われるか分からない)
●大量破壊技術とIT技術の結合による軍事の革命(RMA)は音を立てて進行中である。
2.生物兵器の概要
(1)定義:
人員等に感染・増殖する病原性微生物・毒素等の生物剤、またはこれを充填した各種砲弾・ミサイル等の総称。
(2)特徴:
@製造が比較的容易で、殺傷力の高いものを安価に大量生産できる。
例えば、攻撃範囲1平方キロの敵または市民に大量の犠牲をもたらすために必要な経費
通常兵器:$2000
核兵器:$800
化学兵器(神経ガス):$600
生物兵器:$1
A少量で済むから、持ち込むことが容易である。
B検知同定が困難で、潜伏期間があり、防護手段が限定される。
C体内への導入経路が多様(エアゾル・昆虫・隠密)で、広範囲に伝染させてくれる。
D治療には専門の医学脳裏よくが必要となる。
E心理的な効果が大きくパニックになりやすい。
(3)種類:
@対象による分類
敵の人体に入れて、疾病を起こさせる。(致死、致死に至らぬ方が効果が大きい)
敵地の農産物や家畜(口蹄炎ウィルス・ブルセラ菌)に使用し食糧供給を危うくする。
敵の水源に入れて、水の供給不足を起こさせる。
A生物剤による分類
(大きさの単位:ミクロン)
ウィルス(日本脳炎・黄熱・天然痘) 0.01−0.3
リケッチャ(Q熱・オウム病・発疹チフス) 0.3−0.5
細菌(炭疸・コレラ・ペスト) 1−10
真菌(コクシジオイデス) 3−50
毒素(ボツリヌス・トリコテセン)
B遺伝子組み換えの有無による分類
●遺伝子組み換え技術を使用しない生物剤
●遺伝子組み換え技術を使用した生物剤
遺伝子組み換えにより、より毒性の高い生物剤を大量生産する
遺伝子組み換えにより、免疫の効かない生物剤を作る(耐性を持たす)
遺伝子組み換えにより、特定の病気を起こしやすくする
遺伝子組み換えにより、特定の目標(人種や部族)を病気にする
これからの生物戦:「スニップ(SNP)」を使って特定の目標を攻撃する方法
(4)効果の一例:
炭疸菌(Anthrax)の胞子900キログラムを重点した弾頭を搭載した弾道ミサイルが落とされると、感染領域は26000平方キロ(核弾頭により被害を受ける面積に匹敵)に及び、4−5日の潜伏期間を経て発症し、死亡率は25−100%である。
3.生物兵器への対処
(1)検知:検知器材(Detection Systems)の開発と装備
@ 広域用探知システム:Biological Integurated Detection System(BIDS)
1996年から開発、2002年から装備の予定
4−8種類の生物剤を45分以内に検知・同定する
価格は120万ドル、2名で操作できる。
A長距離探知システム:Long Range Biological Standoff Detection System(LR-BSDS)
30q離れた地点から生物剤の存在を検知する。
ただし、どんな生物剤かは同定できない。
紫外線および赤外線レーザーレーダーを使用
B局地用警報システム:Interim Biological Agent Detecter(IBAD)
8種の生物剤を25分以内に検知して半自動的に警報する。
すでに20セットが試験的に運用されている。
C統合関門防護システム:Joint Portal Shield(XM99)
8種の生物剤を30分以内に同時に検知同定して通報する。
発電器、GPS(位置)、気象観測装置、テレメトリング用の発信器などの装置を持つコンテナー形式、100−500メートル感覚で配置する。化学剤検知イステムと共用できる
D生物剤採取キット:DoD Biological Sampling Kit
汚染を現地調査するときの個人用の標本採取セット
綿棒・容器・消毒用アルコール綿・8個のHHA(下記)
E手持ち式検知器:Hand Held Asset(HHA)
掌に入る小型の使い捨て式の検知同定器材
(2)対生物戦部隊
陸軍及び海兵隊は各部隊に小隊程度(約40名)の対化学・対生物戦部隊を持つ。
各軍病院に「特殊搬送チーム」を待機させて、通報により現地へ急行し収容する。
各軍病院に、除染所を設置し除染チームを待機させる。
国内の場合は、連邦緊急事態管理庁(FEMA)が統一指揮し、軍はその指揮に入る。
(3)生物・毒素兵器禁止条約(Chemical Weapons Convention,CWC)の現況
●「平時」における生物兵器の開発・生産・貯蔵を禁止し、発効後9ヶ月以内に廃棄する
1925年:第一次世界大戦後に、「戦時」における使用を禁止する条約が締結された。
1972年:CWC条約調印
1975年:CWC条約発効
1982年:CWC条約日本批准
1992年:ロシアが、旧ソ連時代の1979年にスベルドロフスク市で炭疸菌漏出の疑惑に関連して条約違反を認める。
1992年:湾岸戦争後に、イラクで国連の査察団が生物兵器弾頭を発見した。
1995年:検証を決める議定書の交渉を開始した。
2001年秋:CWC条約の再検討会議に間に合うよう検証議定書交渉を実施している。問題は、チャレンジ査察による国家主権の侵害や産業界の企業秘密漏洩。
4.生物兵器対処懇談会の訪米調査について
(1)訪問先
米陸軍感染症研究所(USAMRIID) メリーランド州フォート・デトリック
米陸軍兵士生物学化学コマンド(USASBCCOM) メレリーランド州アバディーン
生物防護統合計画室(JPO-BD) バージニア州フォールスチャーチ
ウォルター・リード陸軍医療センター(WRAMC) ワシントンD.C.
米国疾病管理センター(CDC) ジョージア州アトランタ
(2)全般的所見
@官民一体となって取り組み短期間で研究実績を上げている。
A生物兵器への対応と化学兵器への対応も、「同じ組織」が扱って省力化している。
Bテロに急派される「陸軍が主担当」で、「海・空軍がこれに協力」する形で対応する。
5.まとめ
(1)早期に検知・同定用の装備・器材(遠隔も含めて)を導入し、それができなければ研究開発に着手して「官民一体の協力体制」を作り上げるべきである。この際、厚生省と防衛庁が協力して統合プログラム・オフィスのようなチームを作ることが必要。
(2)内閣危機管理監に厚生省から感染症・生物兵器の専門家のポストを付けること。
(3)陸上自衛隊の化学学校と衛生学校との間に、「化学科職種と衛生職種を横断するチーム」を常設し、装備の技術研究開発と同時並行して、陸幕・統幕レベルでの運用研究・部隊実験を開始すべきである。
(4)何と言っても、一般社会の理解を得る必要があるから、マスコミを使って徐々に広報活動を行う必要がある。
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