日医ニュース 第884号(平成10年7月5日)

視点

非配偶者間体外受精に対する日医の見解


 妻の実妹から提供を受けた卵子と夫の精子を体外受精させ、妻が昨年春、双子の男児を出産していたことが、先ごろ明らかになった。この「非配偶者間体外受精」について、日本産科婦人科学会は、1983年に「体外受精で卵子や精子の提供を受けてはならない」との会告を出しており、厳しく受けとめている。

 日医では、6月16日の定例記者会見の席上、小泉明副会長が、「この医師の行為は、専門家集団により定められたガイドライン(自己規制)を踏みにじるものであって、誠に遺憾である」として、日医の見解を次のとおり述べた。

 「医療技術が進歩し、高度化すればするほど、国民の医療・福祉の向上に貢献することは当然の理であり、今まで高度医療技術が多くの貢献をしてきたことは事実である。

 しかし、医療技術の高度化は、国民に大きな利益をもたらす反面、その用い方を一歩誤れば社会に測り知れない不利益をもたらすおそれがある。しかも、誤った第一歩は、そのことに無自覚なまま踏み出されることが往々にしてある。

 医療技術は、倫理的、法的および社会問題について、多面的に十分な議論を経たうえで行われる適切な管理(制御)の下で用いられてこそ、国民の医療・福祉の向上に有益に機能するものである。

 今回、産婦人科の医師が、配偶者以外の配偶子を使用した体外受精をあえて行ったが、生殖医療分野は、倫理的、法的、および社会的に未解決な問題が多い。したがって、後世において批判を浴びることがないように心掛けて行為すべきであり、この医師の行為は、専門家集団により定められたガイドライン(自主規制)を踏みにじるものであって、誠に遺憾である。

 日本医師会は、本年3月に公表した、本会第V次生命倫理懇談会の報告書のなかで示されたように、高度医療技術が健全に進歩・発展していくには、その医療技術の適切な制御が必要であり、その形態としては、国民意識の動向を踏まえた専門家(医師)集団の自主規制を最も理想的なものであると考える。そのためには、専門家集団内部の審査機能、自浄機能、および一人一人の医師に高い識見と強い倫理観が求められる。

 今後も、日本医師会は、生殖医療に限らずさまざまな分野で、医学研究・医療現場にかかわる人々の倫理観の確立にむけて、関係各方面に働きかけをしていく所存である。

 平成10年6月16日社団法人 日本医師会   会 長 坪 井 栄 孝」

 


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