日医ニュース 第925号(平成12年3月20日)

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4 医師は互いに尊敬し,医療関係者と協力して医療に尽くす.

 最近の医学,医療技術および医療に関係するその他の技術の進歩に伴って専門分化が進み,新たな専門分野も出現し,医師相互間の協力の重要性が高まってきた.多くの専門的な医師の誕生とともに,とくに放射線,超音波,MR,その他MEに関係する技術,コンピュータを中心とした情報通信技術の発達などにより,医療関係職種の重要性がますます高まっている.このため,医師相互間の交流や協力のほかに,医師と看護職をはじめとする各種医療関係職との間の協力が従来にも増して重要であり,いわゆるチーム医療の重要性が強調される.

1.医師相互間の問題
 医師の間にも,高度な専門知識と専門技術を用いて医療を行う専門家あるいは各臓器別の専門家などが増えている.また,他方において総合的な医療を行う医師,いわゆる総合医の必要性が強調されている.このように医師の多様化が進むにつれて,医師相互間の意見交流や病診連携がますます大切になっている.これは各人の医療技術と知識の習得のためにも重要である.
 医師は医師相互との交流を通じて互いに助け合い,さらに医師会や学会などの専門職団体の活動にも積極的に参加し,医療の向上に努める必要がある.重ねていえば,医師はそれぞれの専門分野を尊重して,十分な交流を行うよう心掛けるとともに,患者に対する医療の実践に際しても,その協力の効果を発揮し,患者の信頼を得るように努めなければならない.
医師の心得るべき具体的な事項を次に挙げる.
(1)医師は互いに尊敬し,協力を惜しまない.
(2)主治医は診療上一切の責任をもち,他の医師は主治医の立場を尊重する.
(3)いたずらに他の医師や,以前に患者を診療していた医師を誹謗することは慎むべきである.
(4)医師相互間の交流や医師団体の活動を通じて,相互に学習し,倫理の向上に努めるべきである.

2.医師とその他の医療関係職との関係
 従来より医師はとくに看護職員と協力して医療にあたってきたが,最近の高齢患者の増加とともに看護の役割がますます重要となっており,今後とも良き協力者としての関係維持に努めることが大切である.
 医師と薬剤師との関係も大切になってきている.薬事法では薬剤師に薬の説明義務を求めており,両専門職間の協力の重要性を認識すべきである.
 また,医療に関係する各種専門的学問および技術の発達に伴い,いわゆる医療関係専門職種との協力が必要となっている.
 このような各専門分野は,急速かつ複雑多岐にわたって発達しており,医師はこれらの新しい分野の知識の習得と交流に努めるとともに,医療の場においてこれらの人びとの立場を尊重し,互いに協力し合い,またチーム医療のリーダーシップを発揮することが大切である.

3.他の分野との関係
 最近では,法律学,社会学,心理学,哲学など,いわゆる社会科学や人文科学の分野の医学および医療への関与もますます深まってきた.情報伝達の道具としてのコンピュータに関しては,ソフト面でも,ハード面でも,その発達と変化は著しい.これら専門分野の知識も,人間を取り扱う医療のなかに取り込む必要がある.また,高度に発達した情報社会のなかにあって,報道機関の役割もますます重要となっている.
 こうした分野の人びとと協力して,患者をはじめとして社会一般の人たちに正しい医療情報を提供することも大切である.

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5 医師は医療の公共性を重んじ,医療を通じて社会の発展に尽くすとともに,法規範の遵守および法秩序の形成に努める.

 医師は,個々の患者に対する診療行為にとどまらず,医学および医療の専門知識を有する者として,地域住民全体の健康,地域における公衆衛生の向上および増進に協力し,もって国民の健康な生活を確保するという社会に対する重い責任を負っている.
 このような観点から,医師に対しては,健康診査,予防接種など公衆衛生に対する協力,地域医療体制に対する協力,ひいては国際協力における医師派遣制度に対する協力などが求められる.
 また,医療が強い公共性を有し,かつ人びとの生命,身体の健康の維持もしくは回復を目的とすることに鑑み,健全な社会保障制度,とくに医療保険制度・介護保険制度の確立への協力や,社会に対する適切な医療情報の提供も求められている.同時に,当然のことながら,社会を規律する法,とりわけ医療に関する法の遵守はきわめて重要である.

1.公衆衛生ならびに地域医療に対する協力
 歴史を振り返っても分かるように,過去において何度となく感染症が猛威をふるい,多くの人びとを苦しめ,死に至らしめた.近年では,先進諸国においては,生活水準の向上,環境衛生の改善,薬剤の研究・開発等のほかに,医師の積極的な公衆衛生に対する努力により,感染症による死亡者数は激減した.
 しかし最近,再び,人びとの生命を脅かすいくつかの重大な感染症の蔓延が危惧されている.それらの予防については,人びとに対して教育を行うことが重要であると考えられており,医師による啓発活動は大きな影響力をもつ.
 医師が正しい医学的知識の普及・啓発を行い,地域における保健活動などへの協力を通じて公衆衛生の向上および増進に努めることは,人びとの健康な生活を確保するために不可欠である.
 そして,高齢社会の進行とともに,感染症もさることながら,生活習慣病への対応が大きな問題となってきた.生活習慣病では,早期発見も大切であるが,それにも増して予防が重要である.医師は,生活習慣について正しい医学的知識の普及・啓発に努める必要がある.
 ちなみに,『医師法』第1条は,「医師は,医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする」と定めている.
 医療の高度化もしくは専門化に伴い,診療所や病院などの医療機関がその規模や機能に応じて相互に役割を分担し,協力の体制を整えることが不可欠である.この医療機関相互の連携を中心とした救急医療,地域医療体制の確立が重要であり,それぞれの地域の医師は積極的にこれに取り組むことが求められている.

2.健全な社会保障制度への協力
 医療は,医師-患者間の診療行為という枠を越え,社会的な行為の側面をもつ.社会保障制度のさらなる充実が要請されている今日では,医師は専門的な知識を有する者として,人びとの健康,地域における福祉の増進などについて,その責任の一端を担わなければならない.そのためにも,医師が適切にして十分な医療行為を行えるような社会保障制度,健康保険制度の確立が必要である.
 すなわち,医師は健康保険制度に基づく適切な診療を行うと同時に,いかなる不正行為も許されないことを自覚しなければならない.また,その制度の不合理の是正および改善に対する協力も,医師に求められる重要な責務といえる.

3.社会に対する医療情報の提供
 医師の広告および宣伝については,古くから禁止または制限されてきた.それは,虚偽もしくは誇大な宣伝により患者が誤導されないようにするためであり,広告および宣伝により患者を誘引することが医師の品位を傷つけると考えられたからである.『医療法』第69条においても,定められた事項を除いて,広告をしてはならない旨が規定されている.
 しかし,患者の自己決定権の尊重と,情報公開の拡大が求められるこれからの医療においては,広告および宣伝の弊害を考慮しつつ,適切な情報提供の拡大に努めることが必要とされよう.
 わが国では,欧米の先進国に比べ,街頭などでの広告,しかも過大とも思われる内容や顧客誘引型の広告が目立っている.患者のために必要な情報の提供について,どのような情報を,だれが,どのような方法で提供していくかを慎重に検討する必要がある.

4.国際協力
 世界各地に発生する局地的な紛争,あるいは地震や洪水など大規模自然災害発生の際に,域外諸国が,医師の派遣,医薬品の供給などを通じて援助活動をすることは,国際協力のためにも不可欠である.他方,発展途上国は,医療の面においても解決すべき多くの問題を抱えており,その問題解決のための援助は先進国の役割とされている.わが国でも,発展途上国に対する医療援助は政府開発援助(ODA)のなかでも重要事項に位置づけられ,多くの国々に対し医療施設の提供等の経済的かつ物質的援助,および医師の派遣等の人的援助を行ってきており,国際的な災害救助活動にも積極的に参加してきた.また日本医師会も,1991年以来ネパールにおける保健医療活動を支援しており,このほかにも世界医師会(WMA)やアジア大洋州医師会連合(CMAAO)の活動などにも積極的に参加している.今後とも,医師として多角的な国際支援や協力活動に参加することが必要となろう.

5.法令の遵守
 医師は基本的に医療に関係する法を守る義務がある.これには,国で定めた法以外にも関連専門団体などが決めた職業規則・倫理規範等も含まれる.もちろん,脱税,診療報酬の不正請求,麻薬・覚醒薬に関する違反などは論外である.また一般的犯罪や,犯罪とならないまでも人間として恥ずべき行為や不正行為は医師の品位を落とし,ひいては医師への信頼を失わせるもので,厳に慎むべきである.
 さらに,医学および医療が進歩し,あるいは社会情勢が変化し,現行法では対応できず,法律が患者や社会の利益と一致しなくなったような場合には,専門家としてその問題点を社会に提起し,法の改正について発言し,行動することも医師の務めといえる.

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6 医師は医業にあたって営利を目的としない.

 医業は営利を目的とするものではないが,医師に課せられた社会的責任の重大さに鑑み,その責任に見合う報酬と,健全な医業経営のための適正な医療報酬は必要である.
 この場合,何が適正な報酬であるかを決めることは必ずしも容易ではない.そのためには,医師が社会の人たちから信頼され,また医師の責任の重大さやその診療内容に見合った評価がなされることが前提となる.
 医療内容を疎かにしたり,誇大広告や不当な手段による患者集めなど,社会常識に反して利益追求に走るようなことがあってはならない.


参考文献

  1. 1第I次生命倫理懇談会(昭和61年度,62年度審議):「男女産み分け」に関する報告(昭和61年9月18日)/脳死および臓器移植についての最終報告(昭和63年1月12日)
  2. 第II次生命倫理懇談会(昭和63年度,平成元年度審議):「説明と同意」についての報告(平成2年1月9日)
  3. 第III次生命倫理懇談会(平成3年度審議):「末期医療に臨む医師の在り方」についての報告(平成4年3月9日)
  4. 第IV次生命倫理懇談会(平成6年度,7年度審議):「医師に求められる社会的責任」についての報告(平成8年3月26日)
  5. 第V次生命倫理懇談会(平成8年度,9年度審議):「高度医療技術とその制御」についての報告(平成10年3月9日)
  6. 第VI次生命倫理懇談会(平成10年度,11年度審議):「高度情報化社会における医学および医療」(平成12年3月予定)
  7. 日本醫師會『醫師の倫理』(昭和26年9月)


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