日医ニュース 第958号(平成13年8月5日)

視 点

メディアの偏向報道に思う

 わが国の再生に向け,社会構造の大改革を求めるべく,経済財政諮問会議から,「基本方針」が示された.主旨は,経済の重荷を除くことにあり,原因となる不良債権の解消,特殊法人の整理,そして郵政三事業の民営化である.また,同じ視点で社会保障制度の改革も求められている.しかも,「基本方針」が示されるまで,連日,メディアは医療制度改革,特に高齢者医療制度にメスを入れるべきとの報道記事を流し,朝日新聞は,六月十三日,一面トップで「老人医療費に上限―超過分は医療側負担」なる大見出しで,決定していない事項をも報道した.
 しかし,小泉新総理が求めている改革の第一は,官の外郭団体である特殊法人と郵政三事業の整理にある.官がそれらから国民の眼をそらすべく,医療制度改革の情報をリークして世論操作を行ったとしか思えない.平成九年九月の改正健保法実施前日にも同新聞には極端な偏向報道が見られた.
 日本のメディアは先進自由諸国のなかで,もっとも公的権力に弱いといわれている.今後も平成十四年度の医療改革に向け,よりいっそう,官のリーク情報を基に報道が繰り返されることであろう.
 メディアが国民の味方であるならば,国の経済を瀕死に追いやった財投の問題に切り込むべきで,額に汗して得た国民の預貯金や税金を湯水のごとく垂れ流す特殊法人のあり方を問題にすべきであった.過去歴代,時の政権が,繰り返し特殊法人の解体を試みても,常に官の強力な抵抗にあい,挫折せざるを得なかったという事実がある.見て見ぬ振りを長い間続けてきたメディアの責任は大きい.
 メディアが特殊法人の問題よりも関心を示す医療制度改革については,医療費の無駄が常に指摘されている.しかしながら,何が無駄であるか根拠に基づく具体例を明示することなく,観念的に報道されているに過ぎない.わが国の医療費はOECD加盟国中GDP比世界十八位で,昨年六月,WHOが報じたごとく世界一の平均寿命と健康寿命を支えており,決して高い医療費支出ではあるまい.このWHOの報告についても朝日新聞は医療制度の効率性日本十位としか伝えていない.
 一方,医療費の総額についても官からの推計値は実数値を常に大幅に上回っている.これは医療費抑制を目的に官がメディアに情報をリークし,世論操作を計る典型例であろう.しかしながら,教育や医療という社会的共通資本は,人間が人間らしく生きる基本的人権を守るためにあることだけは,くれぐれも念頭に置いて報道していくべきである.


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