日医ニュース 第984号(平成14年9月5日)

日医総研フォーラム28
Rの呪縛を解く
─診療報酬引き下げに対抗する仕入れの秘訣─

医療機関の経営維持のポイントは,医薬品仕入価格の引き下げにある

 5%を超える完全失業率,過去最悪の上場企業倒産件数…「構造改革」とはいまだ掛け声ばかりで,21世紀初めの年は非常に暗い幕引きとなった.年があけても停滞の空気は重苦しく,ますますよどむ一方である.
 医療ももちろんこの渦中にあり,診療報酬の引き下げという未曾有の事態を余儀なくされた.診療報酬が2.7%下がるということは,利益も2.7%減るということではない.収入は減るけれども,薬価の引き下げで医薬品費が下がるほかは,人件費や設備費や金利は変わらない.利益は激減するのである.(詳しくはリサーチエッセイNo.3をご覧ください)
 これを食い止めるには,支出を減らすしかない.職員に相当の痛みを分かちあってもらうか,再生産をあきらめるか(それでも過去に借金をして投資した分の金利は払わなければならないが)….しかし,再生産が行われなくなったらどうだろう.医療提供体制の維持そのものが困難になる.これは医療従事者だけでなく,地域住民にとっても非常に不幸なことである.
 では,どうするか.ポイントは,医薬品費を適正に値切ること,である.
 それは無理だ,卸問屋は,「薬価と仕入価格の差はRの範囲でしかつけてはいけない」といっている,といわれる方もあるかもしれない.勘違いしてはいけない.これはセールストークである.仕入価格をどう決めるかは,Rとはまったく関係がない.

「R幅」は,仕入価格に何ら制約を与えない

 薬価は,個々の取引価格の加重平均値に一定の幅を乗せて設定される.この一定の幅が「R幅」である.決まっているのはこの仕組みだけでしかない.
 仮にみんなが薬価からR幅分だけ差し引いた価格で仕入れたとしたらどうであろう.実際の取引価格の加重平均は,今と同じままである.薬価は取引価格の加重平均を出発点として決められるので,当然,今後の薬価は下がらない.薬価が変わらなければ,国民が支払う費用も変わらない.逆に,仕入価格を引き下げていけば,国民により良い医療品をより安く提供できることにつながる.仕入価格の引き下げは,とても意味のある社会的活動でもあることに思いをいたすべきである.

仕入価格引き下げのための目標ラインは?

 まず,薬価改定幅は1.3%ではなく,5.7%であるということに留意していただきたい.1.3%は医療費全体に占める薬価改定の割合である.医科診療における薬剤比率は平均して22.8%(それぞれの医療機関の実態に合わせて計算してみてください)だから,薬価そのものの引き下げ幅は概略,次のように計算する.
 △1.3%×(100÷22.8)=△5.7%
 したがって,現在10%引きの仕入価格をつけている医療機関は15.7%(10%+5.7%)引きを超える値引きをしないと,現状より条件が悪化することになる.
 消費税にも注意したい.特に,これまでR幅の範囲内で正直に(誤解して)仕入価格をつけていた医療機関は要注意である.消費税は卸問屋の仕入価格に上乗せして支払わなければならないが,薬価とは別に消費税を請求できるわけではない.5%引きの価格より高い仕入価格では,逆ザヤになってしまう.つまり最低でも,薬価より5%小さい仕入価格でなければならないのである.

在庫管理の徹底―単価だけではなく,量に目をむけてみる―

 卸問屋が,「たくさん買ってくれるなら,仕入価格を下げましょう」といってくることもある.一見おいしい話のようだが,これにも乗ってはいけない.在庫は,それがあるだけでコストやリスクが発生するのである.
 例えば,大量購入による多額の支払いで資金繰りが悪化する.このせいで何かの支払いが滞りそうになったら,借り入れをすればよいのか.それは違う.些少の値下げが発端で,結局は無駄な金利を払うことになるからである.自前の資金で買えば良いというものでもない.期限切れによる不良在庫は,廃棄するしかない.これはそれまでの利益をドブに捨てるような行為である.
 別の側面から考えると,今1,000円で買ったものが1年後に1,000円の価値がある保証はどこにもない.もっと安く仕入れることができるかも知れないし,もっと良い医薬品が出ているかも知れない.金利が高い時代なら,預金した方がましだということにもなる.早い話,大量購入で在庫を抱えることは非常にリスキーなのである.
 一般に,医療機関は在庫切れを恐れるあまり,物を買いすぎる傾向にある.さらには,物が大量にあふれているために整理整頓がつかず,まだあるものをまた買うという悪循環にも陥っている.このような状態であるために,適切な在庫水準に引き戻すことで,売上原価を数%引き下げることが可能なところも多い.この数%は,そのまま利益率の向上に寄与するものである.適切な在庫水準を知るためには,まずは,毎月確実に現物をチェックして棚卸を行うことである.そうすることによって,何がいつどのくらい必要なのかの予測もたてやすくなる.
 先に述べた仕入価格の引き下げを強化すると,いわゆる薬価差が発生する.この薬価差は,次の改定で薬価を引き下げる重要なトリガーなのであるが,マスコミはその事実を意に介さず,「薬価差悪者論」を展開するかも知れない.そのような批判に耐えるためにも,過剰な薬価差を生み出す過大な在庫を持つべきではない.この点からも,「必要以上に買わない,ためない」在庫管理をすることは,とても重要なことである.

メディダスへの招待

 羅針盤なき航海は不安なものである.特に荒天の場合はなおさらである.そんな時に皆さんの航海を一緒に見守ってくれるシステムがあると,少しは安心感が違うのではないだろうか.それが「メディダス」である.毎月月次の経営データをインターネット経由で送っていただくことにより,これを保存し,経時的な分析を行い,問題があればアラームを出す,そんなシステムである.自院と類似した集団内での,自院の位置づけもお知らせする.これは仲間が多ければ多いほど,中身が充実するという仕掛けになっている.日医会員であれば,だれでも参加できる(無料).詳しくは,以下のアドレスを参照され,一日も早く参加されることをお勧めしたい.
 http://www.acm.med.or.jp/MEDIDAS/index.html

ご質問・ご意見は,FAX:03-3946-2138
E-M:jmari@jmari.med.or.jp

〈案 内〉日医総研報告書
報告書名: 医療財政分析「国民のお金で建つ病院」(報告書第42号)
准看護婦学校の活性化将来ビジョン(報告書第43号)
申込方法: 送付先(電話番号を含む),および日医会員・非会員の区分を明記のうえ,直接日医総研にFAX(03-3946-2138)で申し込むこと.
価  格: 報告書第42号・会員価格2,000円 一般価格6,000円
報告書第43号・会員価格2,000円 一般価格6,000円


日医ニュース目次へ