日医ニュース 第991号(平成14年12月20日)

視点

メディカル・コントロール

 最近,メディカル・コントロール(以下MCという)という言葉をよく耳にするようになったが,まだ多くの人たちに共通の理解を得ていないようである.MCは救急医療体制のなかに出てくる言葉で,「医学的管理」あるいは「医学的調整」とでも訳したら良いのか,的確な日本語訳が見当たらず,そのままMCという言葉で検討会報告書や厚生労働省・総務省消防庁の通知文書などに使用されている.平成十二年五月に提出された厚生省の「病院前救護体制のあり方に関する検討会」(大塚敏文委員長)の報告書に初めて記載された言葉である.
 この報告書によれば,MCとは,傷病者を救急現場から医療機関へ搬送する間に救急救命士が実施する医行為に対して,医師の指示または指導・助言および検証することにより,それらの医行為の質を保証することを意味し,直接的MC(オンラインMC)と間接的MC(オフラインMC)とがある.
 直接的MCは,救急現場または搬送途上の救急隊員が医師と電話や無線等で医療情報を交換し,医師が口頭で直接処置等に関する具体的な指示等を行うことである.間接的MCは,地域の救急医療体制(MC体制)を構築したうえで,救急隊員の教育・実習カリキュラムの作成・実施および評価を行い,また救急処置等のプロトコールの策定や重傷度の判定基準を作成することで,事前の積極的な医師の関与が必要である.加えて事後のMCとして救急活動記録(救命処置記録)の検討・評価や医行為に関する検証及び質の向上のために医学的評価を行う必要があり,それを救急隊員・救急救命士の教育・実習へフィードバックするというものである.
 現在,救急救命士に認められているのは除細動,気道確保,静脈路確保の医行為であるが,これらの特定行為を行うためには医師の直接的MCが必要である.しかし心肺停止には一刻も早い除細動が必要であることは救急医学の共通認識であり,「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」(松田博青座長)において間接的MC(包括的指示)で救急救命士が行う方向で打ち出された.気道の確保については,現在認められているラリンゲアルマスク,食道閉鎖式エアウエイの安全性・有効性を再認識したうえで,気管挿管の適応症例を限定し,直接的MCにより救急救命士に気管挿管を認める方向で検討されている.薬剤投与は各学会共通して時期尚早であり今後の検討課題にすべきとしている.
 看護師等医療関係職種のMCについては,医療機関内では十分な直接的・間接的MC体制が構築されている.しかし今後増えてくる在宅医療等の医療機関外での医療については,的確なMC体制を整備することが今後の重要な課題である.


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