日医ニュース 第997号(平成15年3月20日)

坪井会長緊急記者会見
「生命を犠牲にした考え方は容認できない!」

 政府の構造改革特区推進本部は,2月27日,構造改革特区の第二次提案に対する対応を決定した.これを受けて,坪井栄孝会長は,石川高明副会長,櫻井秀也常任理事とともに厚生労働省を訪れ,記者会見を行い,今後も株式会社の医業経営参入に断固反対していくことを明らかにした.
 以下は,その会見要旨である.

 二月二十七日,小泉純一郎総理から特区のことで話をしたいとの申し出があり,その日の夕方,総理官邸で山崎拓自民党幹事長同席のもと,小泉総理とお会いした.
 小泉総理の方からは,今回の決定に関して,「特区における株式会社の医療への参入については,公的医療保険の分野では困難な問題(例えば,医療費用抑制,医療法人とのバランス)があることは理解できる.しかし,自由診療の分野では,『全国的な措置ではなく,試してみる』という特区の趣旨から可能であると思う」との説明を受けた.
 これに対して,私からは,(一)「生命・身体・健康」を犠牲にしてまで経済活性化を図る考え方は,絶対に容認できない,(二)現在の医療制度,医療保険制度を根底から覆すことは,許すことができない―等の理由により,特区であろうとなかろうと,株式会社の医業経営参入には絶対反対であるとの考えを述べさせてもらった.
 また,その席上,今回の決定内容は,(1)この措置はあくまでも特区だけの試行であること(2)自由診療のなかでも先端医療だけに限定したものであること(3)特区でも,現行法(医療法,医師法,保助看法等)の規制のもとに医療が行われること―と知らされた.
 だからといって,私は株式会社の医業経営参入を認めたわけではない.いかなる条件があろうとも賛成はできず,総理には協力できないと申し上げた.

3割負担実施凍結訴える

 また,せっかく小泉総理にお会いする機会を得たので,被用者保険三割自己負担の実施凍結ならびに高齢者の負担増への緩和策を図ることについても話をした.そのなかでは,三割負担への引き上げは,そもそも政府管掌健康保険が破綻をきたすということで決定されたものであるが,日医がシミュレーションした結果,昨年の二・七%の診療報酬のマイナス改定,総報酬制の導入により,国民の負担をこれ以上増やす必要はないことが明らかになったことを説明させてもらった.
 総理はその件については,予定どおり四月から実施させてもらうということであったので,日医としても最後までこの主張を変えるつもりはなく,引き続き反対していくと述べてきた.
 その他,一月十四日の定例記者会見で私が発表した『政府に政策の大転換を求める』ならびに混合診療の資料を差し上げた.その際,「医療の抜本的な改革は必要であるが,現在,世の中に出ている改革案はお粗末すぎる.抜本改革には国民全体の理解が必要なのではないだろうか」と申し上げた.

積極的に反対運動を展開

 株式会社の医業経営参入を政府の会議などで声高に主張している人たちの考えは,アメリカ型の医療をそのまま持ってきて,自分たちが儲けようとしているに過ぎない.わが国の医療はきわめて安い費用で,世界一の長寿と世界一低い乳幼児死亡率を達成しており,決して「非効率」ではない.アメリカで失敗したものを,なぜ,日本に導入する必要があるのだろうか.
 小泉総理は,今後,自由診療の分野という前提で,地方公共団体等からの意見を聞き,第二次提案に係る特区の実現が予定されている六月中には成案を得て,十五年度中に必要な措置を講じるとしている.しかし,日医としては,特区に限らず,日本の医療のなかに株式会社が入ってくることは絶対に反対であり,今後も積極的に反対運動を展開していく.まずは,坂口力厚生労働大臣,鴻池祥肇構造改革特区担当大臣にわれわれの主張を理解してもらうことから始めていきたい.さらに,各地域のなかでの医政活動も重要になってくると考えており,中央と地方が一体となって反対運動を展開していくつもりである.
 また,われわれが反対しているにもかかわらず,万が一,小泉総理が今回の決定を強行した場合,現在の医療提供体制にどのような問題が生じるのか十分なシミュレーションを行い,すぐに対応できるように万全の態勢をとっていきたい.

日本医師会の主張
  • 「生命・身体・健康」を犠牲にしてまで経済活性化を図る考え方は,絶対に容認できない.
  • 現在の医療制度,医療保険制度を根底から覆すことは,許すことができない.
  • わが国の医療は,「非効率」ではない.きわめて安い費用で,世界一の長寿と世界一低い乳幼児死亡率を達成している.
  • 医療は,国民の生命・健康の破綻からの回復,維持,増進を図るもので,国民の生存に関わる権利である.
  • 医療に係る規制は,国民を保護するためのものであり,実験的に規制を解除することは許されない.
  • 株式会社の医業参入,混合診療,外国人医師の医療等を認めることは,医の倫理に根拠を置き,国民の自由かつ平等な医療を保障する規制を排除するものである.
  • 医療に係る規制で不要なものであれば,その規制を改正し,全国一律に対応するべきである.


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