日医ニュース 第999号(平成15年4月20日)

学校における新しい結核対策
―学校医のために―(その1)
雪下國雄(日医常任理事:学校保健担当)


( I )結核対策の包括的見直し

 昨今,激減を続けてきた結核罹患率は(図―1),平成に入って停滞を続けるようになり,しかも,平成10年頃より逆に増加傾向を示すようになった.あわてた国は,平成11年7月26日,厚生大臣の名のもとに「結核緊急事態宣言」を発し,「緊急対策検討班」を作り,早速その対応を図るとともに「緊急実態調査」に乗り出した.
 さらに,それらを踏まえ,厚生労働省感染症分科会並びに結核部会において,「結核対策の包括的見直しに関する提言」がまとめられ,平成16年の結核予防法の改正に向け準備が進められている.
 そのなかには,乳幼児および青少年対策として,(1)乳幼児期6カ月までの初回BCG直接接種(2)小学校1年生,中学校1年生のツ反,BCG廃止―が確認されている.
 乳幼児期のBCG直接接種については,実施に当たっては,結核予防法の改正が必要で,平成15年度よりの実施は無理であるが,小学校1年生,中学校1年生のツ反・BCGについては,政省令での改正が可能であることから,平成15年度新学期よりの実施を目標に準備が急がれ,何とか間に合った.

図―1 小児結核罹患率の推移

図―1 小児結核罹患率の推移(結核研究所 森より)
(厚生科学審議会「結核部会・感染症部会の共同調査審議に係る合同委員報告書」2002年6月資料)

(II)学校における結核対策(ツ反・BCG体制廃止へ!)

 「結核対策の包括的見直しに関する提言」のなかの「小学校1年生,中学校1年生のツ反・BCG廃止」を受け,文部科学省に早速,「学校における結核に関する協力者会議」が発足し,早急な検討が開始されることとなった.

 1)学校における結核対策を取り巻く状況の変化

 (1)罹患率・患者数(表―1)
 昭和37年(1962年)に人口10万対で205.1だったものが,平成12年(2000年)の40年間で1.2と200分の1に激減し,患者数も35,000人から117名と300分の1に激減している.

学校における結核対策を取り巻く状況の変化(1)

表―1 学校における結核対策を取り巻く状況の変化(1)

表―1

 (2)学校健診受診者数・罹患者数
 平成9年(1997年)より平成12年(2000年)までの4年間の学校健診実績(ツ反・BCG体制)によると,受診者数は,小学1年,中学1年共に約各年120万人程度で,その学校健診にて発見された結核羅患者数は,小学1年で4〜7名,4年間の年平均5人,中学1年で11〜14名,4年間の年平均12.5人,両者合わせて,17.5人ということになる(表―2).その発生率を計算しても0.000015ときわめて低い.

学校における結核対策を取り巻く状況の変化(2)

表―2 学校における結核対策を取り巻く状況の変化(2) 

表―2

 結核発生動向調査によると,この年齢層の全体の羅患者数の年平均合計数は40人で,この数の半数も学校健診では発見されていなかったことになる.また,当該年齢での結核患者発生数は117名あり,さらにそれを考えると,そのなかのわずか15%しか,学校健診で発見されておらず,羅患率の低下した昨今では,少なくともツ反・BCG体制にまかせておけば,学校における結核予防対策は万全であると,重大な誤解をしてきたことになるといえる.
 そればかりか,ツベルクリン反応検査の精度についても多くの問題が指摘され,無駄な精密検査や予防投薬等がくり返されてきた.
 感染症分科会結核部会の提言のなかにも,ツ反・BCGの反復接種の無意味,それどころか有害が結論されているので,詳細はそちらに譲るが,ツベルクリン反応における偽陽性の出現は,結核感染の頻度が0.1〜0.3%という極端に小さい状況で行われたツベルクリン反応検査にて,陽性率は3.3%であったという日本の報告がある.これは,実際の感染者よりも,10倍も高率のツベルクリン反応の偽陽性者が出現することで,実際に小学1年で11,445人(約120万人中),中学1年で69,113人(約120万人中)が強陽性にでていて,各々,10,476人,72,556人が精密検査(直接レントゲン撮影等)を受けている.また,そのなかには,予防投薬を受けていたものも相当数ある(表―3).

学校における結核対策を取り巻く状況の変化(3)

表―3 学校における結核対策を取り巻く状況の変化(3)

表―3

 (3)学校における集団発生
 わが国の結核集団感染事例をみると,特に,1994年より2001年の報告では著明な増加傾向を示し,なかでも病院,学校が多くの部分を占めている.学校における感染源を調べると,その約半数が教職員であることも判明しており(図―2),教職員の健康管理のずさんさが反省させられるところである.

学校における結核対策を取り巻く状況の変化(4)

図―2 学校における結核対策を取り巻く状況の変化(4)

図―2


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