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第1008号(平成15年9月05日) |
資料版
感染症対策の見直しについて(提言)
(厚生労働省)
厚生労働省厚生科学審議会感染症分科会は「感染症対策の見直しについて(提言)」をとりまとめ,8月21日に公表した.
本提言においては,「重篤な感染症が発生する危険性が生じた場合には,感染の疑いのある者を対応可能な医療機関に誘導する体制を整備するとともに,これらの者が一般の医療機関で受診することも想定し,二次感染防止対策やそのための支援についても検討が必要である」や,「天然痘,SARSなどを感染症法の対象疾患として追加すべき」等の提言がなされている.
これを受けて厚生労働省では,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正案を次期国会に提出する予定である.
感染症対策の見直しについて(提言)の概要
1.新感染症等の重篤な感染症に対する対策の強化(国の役割の強化等)
(1)積極的疫学調査の機動的な実施
国内に重篤な感染症が発生し,公衆衛生上重大な危険が生ずるおそれがある場合には,国も積極的疫学的調査を行えるようにすべき.(現在は,都道府県等が実施)
(2)予防計画に関する緊急時の対応
重篤な感染症が発生する危機のおそれが顕在化した場合などにおいて,国は,都道府県が策定している予防計画に関して,より具体的な対応策(行動計画)の策定を指示できるようにすべき.
(3)広域的な対応が必要な場合の調整
広域的な感染のおそれがある場合,国が自治体間の調整を行えるようにすべき.
(4)重篤な感染症に対する医療提供体制
国は特定感染症指定医療機関,都道府県は第一種感染症指定医療機関の確保について,よりいっそうの努力をすべき.また,国は,第一種感染症指定医療機関の指定を促進するため,都道府県への支援の強化等を図るべき.
重篤な感染症が発生する危険性が生じた場合には,感染の疑いのある者を対応可能な医療機関に誘導する体制を整備するとともに,これらの者が一般の医療機関で受診することも想定し,二次感染防止対策やそのための支援についても検討が必要.
2.検疫対策の強化
(1)検疫所における医師の診察
病原体が不明な新感染症などについても,検疫所において医師による診察ができるようにすべき.(現在は,一類感染症,コレラ,黄熱に限定)
(2)感染が疑われる者に対する対応
重篤な感染症に感染している疑いがある入国者については,一定期間,検疫所に対して体温などの健康状態を報告することを義務付けるべき.
(3)重篤な感染症に関する出国時の健康状態の確認
わが国が重篤な感染症の流行地域になった場合,国際的封じ込めの観点から出国時の健康状態の確認等の実施も考えられるが,これについては,今後,十分な検討が必要.
3.動物由来感染症に対する対策の強化
(1)動物に対する輸入届出制度の創設
ペットとして輸入される動物(家畜を除く)について,輸出国側政府機関の感染症にかかっていない旨の証明書の添付とともに,数量等の届出を義務付けるべき.
(2)四類感染症に分類されている動物由来感染症に関する措置
動物由来感染症対策を強化するため,現在,四類感染症とされているものの一部について,感染源となる動物の輸入規制,消毒,ねずみ・蚊の駆除等の対物措置ができるようにすべき.
(3)その他
獣医師や動物を取り扱う者の動物由来感染症のまん延防止の責務の明確化,国民に対する情報提供の推進,自治体におけるねずみ・昆虫等の調査の強化を図るべき.
4.感染症法の対象疾患の追加等
(1)感染症法の対象疾患の追加
天然痘,SARSなどを感染症法の対象疾患として追加すべき(下表参照).
5.感染症に係る人材育成等
(1)感染症に係る人材育成
疫学調査の専門家,感染症対策の第一線で働く職員,指定医療機関の医療スタッフなど,感染症に関する幅広い人材の育成を図るべき.
感染症法対象疾患の見直し案
1類 |
エボラ出血熱,クリミア・コンゴ出血熱,ペスト,マールブルグ病,ラッサ熱
追加…SARS,天然痘 |
2類
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急性灰白髄炎,コレラ,細菌性赤痢,ジフテリア,腸チフス,パラチフス |
3類 |
腸管出血性大腸菌感染症 |
新4類 |
ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎を含む),エキノコックス症,黄熱,オウム病,回帰熱,Q熱,狂犬病,コクシジオイデス症,腎症候性出血熱,炭疽,ツツガムシ病,デング熱,日本紅斑熱,日本脳炎,ハンタウイルス肺症候群,Bウイルス病,ブルセラ症,発疹チフス,マラリア,ライム病,レジオネラ症
追加…急性A型ウイルス肝炎,急性E型ウイルス肝炎,高病原性トリ型インフルエンザ,サル痘,ニパウイルス感染症,野兎病,リッサウイルス感染症,レプトスピラ症
変更…ボツリヌス症(「乳児ボツリヌス症(4類全数)」を変更) |
新5類 |
(全数)アメーバ赤痢,急性ウイルス肝炎(A型及びE型を除く),クリプトスポリジウム症,クロイツフェルト・ヤコブ病,劇症型溶血性レンサ球菌感染症,後天性免疫不全症候群,ジアルジア症,髄膜炎菌性髄膜炎,先天性風疹症候群,梅毒,破傷風,バンコマイシン耐性腸球菌感染症
(定点)咽頭結膜熱,インフルエンザ,A群溶血性レンサ球菌咽頭炎,感染症胃腸炎,急性出血性結膜炎,クラミジア肺炎(オウム病を除く),細菌性髄膜炎,水痘,性器クラミジア感染症,性器ヘルペスウイルス感染症,成人麻疹,手足口病,伝染性紅斑,突発性発疹,百日咳,風疹,ペニシリン耐性肺炎球菌感染症,ヘルパンギーナ,マイコプラズマ肺炎,麻疹(成人麻疹を除く),無菌性髄膜炎,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症,薬剤耐性緑膿菌感染症,流行性角結膜炎,流行性耳下腺炎,淋菌感染症
追加…バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症(全数),RSウイルス感染症(定点)
変更…尖圭コンジローマ(定点)(「尖形コンジローム」から変更),急性脳炎(定点把握から全数把握に変更) |
(注)現行の4類感染症は,媒介動物の輸入規制,消毒,ねずみ等の駆除,物件に係る措置を講ずることができる新4類感染症と,従来どおり発生動向調査のみを行う新5類感染症に分けることとする.
【その他意見】
- 感染症法の対象外の疾患について,公衆衛生上の観点から疫学調査が必要なものについては,関係者の理解を得ながら保健所等が積極的に調査を行うべき.
- 性器クラミジア感染症および淋菌感染症の無症状病原体保有者を報告対象に追加する場合は,人権への配慮,把握の方法,疫学的な意義,検査機関の精度管理等の問題を解決する必要がある.
- RSウイルス感染症,バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症,バンコマイシン耐性腸球菌感染症,薬剤耐性緑膿菌感染症については,臨床診断基準と病原体検査基準を明確に示す必要がある.
- ボツリヌス症については,これまでの乳児ボツリヌス症の統計の連続性に配慮すべき.
- 感染症胃腸炎については,内訳として小児ウイルス性胃腸炎の数を把握すべき.
- 急性脳炎を全数把握に変更するに当たっては,報告対象を明確に示す必要がある.
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