日医ニュース
日医ニュース目次 第1048号(平成17年5月5日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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標準化治療と個別化治療
〈日本外科学会〉

『日本外科学会雑誌』の表紙
 外科領域における新しい進歩として,手術時に使用されるさまざまな機器の開発や新たな術式の工夫などが挙げられるが,大きな流れからすると,標準化治療と個別化治療が最近のトピックスであろう.
 標準化治療とは,おのおのの病院や医師による治療法の偏りをなくし,統一的に適正な治療を行おうとするものである.一方,個別化治療とは,治療を受ける人それぞれの病態像を明らかにし,その病態像に応じた過不足のない治療を行おうとするものである.このような流れは外科に限った話ではなく,他の臨床医学領域においても,そうであろう.
 この標準化治療と個別化治療の考え方は,一見,矛盾するように見えるかも知れないが,実際には矛盾するものではない.標準化治療の目的は,おのおのの病態像に対して,科学的な根拠を基に治療の統一化を図るものである.この標準化治療が基盤となり,この基盤の上に個々の症例に応じた治療,すなわち個別化治療が実践可能となる.ある病態に対して,だれしもが妥当と考える手術適応ならびに術式選択の決定がなされることが,まず重要である.そのうえで,疾患の根治性と術後のQOL(Quality of Life)向上を目指した個別化治療が実践され得る.
 このような観点から,『日本外科学会雑誌』(写真)では,これまで「科学性に基づく外科学の将来展望」(二〇〇三年四月),「癌外科治療の標準化に向けての展望」(二〇〇三年五月),「Sentinel node navigation surgeryの現状と展開」(二〇〇三年十一月)などの特集が組まれてきた.
 また,卒後教育セミナーのテーマとして,「癌治療ガイドライン」(二〇〇四年四月,大阪)が採り上げられた.「癌外科治療の標準化に向けての展望」において,「癌の標準治療に関する和文論文を検索しても,過去五年間で四十件に満たない状況であり,……今後,質の高いエビデンスを積み重ねる努力が必要である」と述べられている.これは,まさに外科における標準化治療の重要性を指摘したものである.
 また,「Sentinel node navigation surgery(SNNS)の現状と展開」では,「SNNSは,エヴィデンスに基づいたtailor-madeのリンパ節郭清の適応を示し,……低侵襲手術を可能とする手法として期待される」と記されており,外科におけるtailor-made,すなわち個別化治療の導入を告げる一例である.
 経験に基づいた外科治療も重要であるが,それを裏打ちするEBM(Evidence-based Medicine)の実践ならびに術後のQOL向上を目指した治療の実践が,現在の外科における進歩の一つといえる.

【参考文献】
一,日本外科学会雑誌,第一〇四巻第四号:二〇〇三
二,日本外科学会雑誌,第一〇四巻第五号:二〇〇三
三,日本外科学会雑誌,第一〇四巻第十一号:二〇〇三

(東京大学大学院医学系研究科外科学教授 名川弘一)

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