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第1058号(平成17年10月5日) |

生涯保健事業の推進

生活習慣病を予防するための対策が,重要な課題として各方面で議論されている.日医は,以前から生涯保健事業の推進の必要性を提唱してきた.
生涯保健事業は,一次予防・二次予防・三次予防を包括して健康維持増進を図ることを目的としている.人間のライフサイクルである妊娠期・出産期・乳幼児期・少年期・思春期・壮年期・中年期・老年期の各期に対応して,人の生涯にわたって一貫して扱う考え方が基本である.現在,母子保健法,学校保健法,労働安全衛生法,老人保健法等でばらばらに推進されている保健事業を,包括して推進する必要がある.健康増進法は,これらのばらばらな施策を統合する役割を担うべきであるが,むしろ縦割り行政を助長しただけで,その役割を果たしていない.
生涯保健事業の課題としては,まず一次予防としての生活習慣改善対策がある.地域住民が最も頻回に接触する医師であり,住民の生活史や生活環境をいちばんよく知っている「かかりつけ医」が,適切な健康教育を通して生活習慣の改善を推進することがきわめて重要である.
次に,二次予防としての健康診断が重要な意義を持つ.学校保健,職域保健,また老人保健事業に基づく各種健診事業の充実と,その結果をどのようにして各人が理解し,自ら積極的にどのように改善していくか,二次予防としての健康診断結果の事後措置をどのようにしていくかは,健診事業の根幹をなす問題である.特に,ハイリスクグループに対する個別健康教育が重要であり,この分野でも「かかりつけ医」の役割は大きい.
さらには,疾病の悪化,再発の予防,および障害された機能の回復を図る三次予防は,医療と保健事業が重なり合う部分が非常に多く,この分野でも「かかりつけ医」による包括した対応が求められる.生涯保健事業の推進により,従来,医師が中心的に考えていた二次予防と治療の概念を拡大して,一次予防から三次予防までも含めた広い範囲で,予防・治療の概念をとらえていく必要性がある.特に,生活習慣改善を中心とした一次予防,いわゆる保健指導への医師の関与の重要性が高まっている.
医師法の第一章第一条には,「医師は,医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする」と書かれている.改めて法律を持ち出す必要もないが,これからの医師が果たすべき役割のなかで,生涯保健事業の推進は,重要な位置を占めるものと考える.
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