日医ニュース
日医ニュース目次 第1058号(平成17年10月5日)

NO.24
オピニオン

たばこの百害
見城美枝子(青森大学社会学部教授)

 日医は,現在,禁煙推進活動に積極的に取り組んでいるところである.今回は,会内の禁煙推進委員会委員として,この活動に協力いただいている見城美枝子氏に,改めて喫煙の害について指摘をしてもらった.
(なお,感想などは広報課までお寄せください)

見城美枝子(けんじょうみえこ)
 青森大学社会学部教授,エッセイスト,ジャーナリスト.早稲田大学大学院理工学部研究科修士課程修了.TBSアナウンサーを経て,フリーに.海外取材を含め,55カ国以上を訪問した.専門は,建築社会学,メディア文化論,環境保護論.現在,日医の禁煙推進委員会(プロジェクト)の委員を務める.

 お酒とたばこは共通点が多い.まず,味わうという点が似ている.体が健康な時は両者とも旨いと感じるのも共通なら,体調不良でまずくなるのも同じ.酒呑み,たばこ呑みというし,程よく上品に口にする人には「たしなむ程度」という表現が使われる点も,お酒とたばこの近さを感じさせる.
 アルコールは脳の発達に悪影響を及ぼすということで,未成年者の飲酒は禁止されているし,たばこも未成年者は吸ってはならないことになっている.共に年齢が低い段階から始めると,健康に良くないことはもちろんだが,度を超さないようにコントロールできないことと,体が若い分,許容量もあって中毒になりやすいという点も共通している.
 しかし,お酒とたばこでは,微妙に違う点がある.例えば,お酒は儀式に使われる.神や収穫への感謝との深いかかわりがお酒にはあるが,感謝を込め,たばこをかけ声で一斉に一服,という儀式は聞いたことがない.
 さらに,お酒は「百薬の長」,対してたばこは,同じ百でも「百害あって一利なし」.健康に寄与するお酒に対して一〇〇%害するたばことは,この点が決定的に違う.たばこは試しに一本,カッコつけて一本というように,初めて吸う時がお酒より入りやすく,ひとたび喫煙者になれば,昼酒は控えても昼たばこはありの年中無休になる.
 お酒とたばこは,実は似て非なるもの.決定的に違うのは,たばこは吸わない人へ煙害を及ぼしている点だ.しかも吸っている方は当然自然体で,嫌煙する者を目障りと考えている節がある.たばこを吸わない者にとって,たばこの煙は苦しい.喫煙者は吸えない苦しさを第一に考えがちだが,吸いたくないのに,あの嫌な臭いを吸わされる者の身になれないのだろうか.
 基本的にきれいな空気はみんなのもの.それを汚す方が間違っている,という認識を持ってもらうところから出発すべきだ.
 「皆の吸う空気に毒を流せますか?」というキャンペーンを提案したい.

禁煙プロジェクトの効果

 私は平成十三年度,そして今回の平成十七年度と日医の禁煙推進委員会の委員を務めさせていただいているが,この間の禁煙への動きを追ってみると,日本人とたばこの関係が見えてくる.
 初期の会議では,ドクターからは肺がんや妊産婦の流産など,たばこの害についての報告があり,たばこを吸わない私としては,新幹線の禁煙車両のデッキで喫煙されると苦しい話や歩きたばこの暴力,分煙なしの喫茶店で煙を扇ぐと,さらに挑発して煙を吐き出す若い女性たちなどについての報告からスタートした.そして,専門家からは病院の分煙化推進の話と同時に,喫煙ドクターにどのような禁煙教育を施すべきかの提案が出されていた.
 それが現在では,病院のロビーの一角をはじめ,空港ロビーなどガラス張りの喫煙部屋が設けられ,煙のなかで一服する光景が当然になった.幼い子どもたちへの喫煙の影響を考え,たばこをあからさまに勧めるテレビコマーシャルへの内容規制や青少年が視聴する放送時間への規制などが自主的に行われるようになり,アピールを続けることの効果は画面を見れば明らかだ.
 何事も成せば成るのだが,まだ成らないのは,たばこが,だれにでも買いやすく自由に手に入るためであり,ここを未然に防ぐべきだ.世間の目がもっと厳しく届いていれば,喫煙の低年齢化や喫煙女子の増加を防げると思う.

喫煙と禁煙のきっかけ

 実は,私は生まれてこのかた一本もたばこを吸ったことがない.
 「女の子はたばこなど吸っては,擦れっ枯らしになる」祖母の言葉は強烈だった.祖母の教えは母から私に,そして娘へ口伝された.何事もそうだが,たばこも最初に躾ありきだ.まもなく二十歳という大学生の娘は,たばこ嫌いで通っている.
 人はなぜ,たばこを吸い始めるのだろうか.
 女性で結婚後喫煙が始まったという人もいる.夫が勧めたケース,どうして夫だけ安らいでいるのかと自分から手を出したケース.多くの場合,女性のたばこは,不安,不満,淋しさ,気を引きたい焦燥感,そして,友や職場の同僚などとの気の進まない付き合い,こういったマイナス要素から始まる.
 若い女性の場合は,ここにダイエットが加わり,拒食症とヘビースモーカーの二重の病に陥っている人も多い.しかし,女性の場合は隠しても声に出る.にわとりの首をひねったような無理な高音でごまかそうとするから,ダミ声はさらにひどくなる.
 このような状況から脱した人がいる.一人は孫ができたことがきっかけとなった.胸が苦しくなり,影があるといわれた時,孫のため,娘のために死ぬ訳にはいかないと決心し,禁煙指導を受けたのだ.この時,ニコチンが切れ,のどから舌が飛び出すような苦しさを味わったそうだが,知人の女性看護師から事前に説明を受け知識もあったこと,励ましを受けていたことからニコチンパッチを貼って脱出できたという.
 喫煙が,例えば,生理が早く上がるなど,女性の老化を早めることを,もっと世間にリリースするべきだと思う.

たばこの百害

 たばこの被害で本人が健康を害するのを一次被害とすれば,二次被害は周囲の煙を吸わされる者で,三次被害としては景観がある.多くの女子トイレには「禁煙」「煙探知機が作動します」などと張り紙がされ,美しいインテリアの化粧室の景観を落としている.道路に捨てられているたばこの吸い殻,下水へ入れる人もいるが,それは水を汚していることになる.常識のある人々に耳を傾けてもらいたい.
 煙がないことが正常.たばこは百害.それを吸うあなたは百害のもと!

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