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第1058号(平成17年10月5日) |
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GLP-1に基づく糖尿病の新しい治療
〈日本糖尿病学会〉
糖尿病治療の基本は食事療法と運動療法であるが,症例によっては加えて薬物療法が必要である.経口血糖降下薬も作用機序の異なる薬剤が発売されており,症例の病態に則して最適の薬剤を使用することが求められている.
さらに,GLP-1(glucagon-like peptide-1)に基づく各種の治療法が精力的に開発されており,わが国においても,日常臨床の場で使用される日が近いと思われる.
GLP-1は,消化管粘膜のL細胞において産生・分泌されるペプチドであり,膵β細胞に作用してインスリン分泌を増強させる働きを持つ.GLP-1は,分解酵素dipeptidyl peptidase-IV(DPP-IV)によって速やかに分解され,不活性型となる(血中半減期は約二分と非常に短い).
GLP-1の特長の一つは,そのインスリン分泌能がグルコース依存性である点である.したがって,薬剤として使用した場合,低血糖の危険性が少ないことが期待されている.また,膵β細胞増殖および分化促進,あるいはアポトーシス抑制などの作用も知られており,膵β細胞の疲弊を防止する作用も期待されている.
一方,グルカゴン分泌抑制作用もあり,この作用も血糖降下作用に貢献していると考えられている.このグルカゴン分泌抑制作用もグルコース依存性であり,低血糖に対するグルカゴン分泌反応は保たれている.
さらに,消化管分泌および運動抑制作用,ならびに食欲および摂食量抑制作用も知られており,体重増加を来さない血糖降下薬として期待されている.この作用は同時に悪心・嘔気という副作用につながっている可能性がある.
以上のような2型糖尿病治療薬としての利点を持つGLP-1であり,そのため,このペプチドの治療への応用が試みられている.より具体的には,DPP-IVによる分解を受けにくいが,受容体結合能は正常であるペプチドやDPP-IVの阻害薬などが開発されている.これらについては,動物およびヒトにおいて血糖降下作用があることが確認されつつあり,また,副作用としては,上記の消化管症状や悪心,インスリン分泌促進薬と併用した時の低血糖が報告されているが,それ以外は知られていない.
以上,GLP-1に基づく治療法は,低血糖の危険性が少ない点,膵β細胞の保護作用を有する点,さらには,体重増加作用がない点から,今までにない2型糖尿病の新しい治療法として期待されている.しかしながら,長期投与の安全性についてのデータはまだないので,今後,慎重に経過を見ていく必要がある.
(神戸大学大学院医学系研究科糖尿病代謝・消化器・腎臓内科学教授 春日雅人)
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