日医ニュース
日医ニュース目次 第1119号(平成20年4月20日)

第118回 日本医師会定例代議員会(平成20年4月2日)
所信表明 日本医師会会長就任に当たって
唐澤人会長

日本医師会へのご理解と国民医療を守るために団結を

第118回 日本医師会定例代議員会(平成20年4月2日)/所信表明 日本医師会会長就任に当たって/唐澤祥人会長(写真) 本日は第百十八回日本医師会定例代議員会の二日目でございますが,昨日は長時間にわたり,誠にありがとうございました.会長選挙,常任理事選挙ほか新役員をご選出いただきました.
 このたび,全国各地域医師会のご支持により,第百十八回定例代議員会で日医会長に選出されましたことを,ここに改めて,ご報告申し上げ,併せて前期二年間,在任中に賜りましたご支援とご指導に対しまして,衷心より厚く御礼申し上げます.
 会長選挙には,私のほか一名の方が立候補されました.その理念と目指す方向は,基本的には同様の思いかと存じます.殊に他候補のご提言は謙虚に受け止め,十分に心にとどめまして,今後の会務運営に当たりたいと思います.
 私自身,日医会長としてのこの二年間を振り返ってみますと,まさしく医療制度の未曾有の転換期のなかで,荒波を全身に受けながらの船出であったと感じております.五年間で国庫ベース一・一兆円という社会保障費の圧縮を打ち出した経済財政諮問会議,あるいは制度の十分な検証もないままに成立した医療制度改革関連法など,すでにレールに乗り出してしまったものを,何とかブレーキをかけるべく,必死で戦い続けた二年間でありました.
 日医の事業運営において,目下の医療を巡る厳しい状況に真正面から対峙し,山積する課題に対し,全国的にご推薦をいただいた経験豊かな役員とともに,意見の集約と総合力を余すところなく発揮すべく,誠心・誠意邁進する所存であります.
 改めて,各位のご指導ご鞭撻を賜りますよう,心からお願い申し上げます.
 すでにご高承のとおり,近年の医療をめぐる環境は一層厳しいものとなっております.
 まさに,到来する超高齢社会と産業経済などの社会の構造変化は,地域間の格差是正,科学技術の進歩と国民医療の今後の課題解決,専門医療の提供と勤務医の厳しい勤務環境などへの取り組みを始め,すべて社会保障制度全体の方向性に大きな影響を与えております.
 殊に最近の国会運営においては,道路特別会計の一般財源化や,いわゆるガソリン税の暫定措置の期限切れなど,地方行財政に影響の大きい税の問題が,意見を二分する状況となっています.
 政府の医療制度改革などが,財政主導型から脱却できない現況において,今後の政府の政策の方向によっては,国民の負担増と提供される医療の質の低下を招き,地域医療体制は崩壊への道をたどることも強く危惧されます.あるべき医療提供体制の財政的裏付けにも関連する税制の問題は,今後とも最大の注意を払う必要があると考えております.
 さて,日医は,学術専門団体として,真に医の倫理をいただき,すべての会員は,日進月歩の医学・医療の研鑽に励み,国民医療に貢献することがその理念の中核であります.そのような基本的使命を第一義として果たしていくことは,国民が大きく期待しているところであります.
 そして,会員一人ひとりの生きがいは,いかに日々多忙といえども,医療が絶え間なく継続されることと,多面的な地域医療活動において精励することに大きな手ごたえと感銘を得ているところにあります.
 そのような医療活動の原点に基づき,求められる医療は,安全で良質なものでなければなりません.患者にとって心温まる医療,満足度の高い医療の提供に精励することが肝要です.さらに,国民医療の観点から普遍平等な提供体制の確立への努力が最重要であります.
 この目的のために揺るぎない大きな流れを打ち立てるには,すべての日医会員のよりどころとなる,将来性のある医療政策と理念を掲げ,国民の求める医療を追求していくことが第一義であります.
 超高齢社会の到来によって,生涯を通じての健康と生活の質を確保し,豊かな長寿社会構築のために,保健事業と医療制度・介護制度と年金制度など,殊に社会保障制度における中核とも言うべき医療制度の安定・恒久的確立を急がねばなりません.医学・医療の進歩と高齢人口の増加,疾病構造の変容,現役就労世代の健康管理など,関連する要因の一つ一つが,まさにエビデンスに基づいた説得力のある医療政策としてまとめられることが必要であり,多方面の理解と協力を得ながら,その実現を図らなければなりません.
 このような観点に立てば,社会医学的・医療経済学的・疾病発生状況の疫学的分析など,地域医療の詳細な情報と,救急医療など,疾病の迅速な治療を始め,すべての地域医療の状況を観察,検証,分析し,そしてその課題と将来像と対策を立案,提言する洞察力,気概の涵養(かんよう)まで,日医の中心課題は,こうした取り組みを源流としなければならないと考えているところであります.
 このような評価が困難な課題を克服しなければならない状況で,日医は,国民医療を確保するために,全国の会員各位の意見と,国民の希求する医療の将来像を視野に,地域医療の活力と支持を確立し,将来への医療体制の構築に不撓不屈の精神で最大限の努力を続ける必要があります.
 夏前には,来年度予算編成に向け,政府の経済財政諮問会議が,「経済財政改革の基本方針二〇〇八」を取りまとめることになるでしょう.この基本方針には,現在,内閣府の社会保障国民会議で検討が始まっている,財源を含めた社会保障のあり方の議論が強い影響を与えることが予想されます.
 昨年,日医は,『グランドデザイン二〇〇七』の総論,各論を取りまとめ,公表いたしました.
 そのサブタイトルにお示ししたとおり,われわれが目指すべきは,「国民が安心できる最善の医療」を再構築することに尽きます.
 『グランドデザイン』に示した内容を,国の政策に反映させることこそが,日医が果たすべき役割であると認識しています.
 全国の診療所医師・勤務医・研修医・青年医師・女性医師などに関しては,全国医師会勤務医部会連絡協議会による「埼玉宣言」「沖縄宣言」を尊重するとともに,「在宅における医療・介護の提供体制─指針」「子ども支援日本医師会宣言」などの重要な事項を踏まえ,すべての会員各位の意見の集約を図り,医療の進むべき方向について,有効な政策を立案,提言していく努力が何よりも必要であります.日々の活動のなかで,このような事項を積極的に取り上げ,取り組む所存であります.
 医療崩壊が叫ばれるなか,国民医療の確保,地域医療の再生に向け,新執行部一丸となって,全身全霊を打ち込んで会務を遂行していくことをお約束し,ごあいさつといたします.
 今後とも折に触れ,ご報告申し上げる機会をいただくとともに,何卒よろしくご理解,ご支援を賜りますようお願い申し上げます.
 ここに改めまして,代議員・会員各位の今後の限りないご発展と,併せてご活躍,ご健勝を祈念申し上げる次第であります.

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