日医ニュース
日医ニュース目次 第1120号(平成20年5月5日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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重症敗血症,敗血症性ショックに対する新しい治療戦略
〈日本集中治療医学会〉

 重症感染症,それに引き続く重症敗血症,敗血症性ショック,さらに敗血症性多臓器不全は,集中治療領域において最重要な臨床的課題である.
 重症敗血症,敗血症性ショックに関しては,二○○四年に,米国集中治療医学会やヨーロッパ集中治療医学会など,世界の十二学会が中心となって“Surviving Sepsis Campaign guidelines for the management of severe sepsis and septic shock”と題するガイドラインを発表した.
 これは,集中治療領域で今までに発表されたガイドラインのなかで最も注目され,臨床応用されているガイドラインである.ただ残念ながら,この時点では日本集中治療医学会は,その策定に参加することを呼び掛けられなかった.
 しかし,二○○七年に上記ガイドラインを改訂するに当たり,今回は日本集中治療医学会も,その改定に参加するよう呼び掛けられ参加した.
 しかしながら,このガイドラインには大きな問題がある.すなわち,敗血症は,結局は感染に続発した高サイトカイン血症により発症すること,そして感染などの侵襲によるサイトカインの産生の程度は,サイトカイン産生関連遺伝子多型の有無により大きく異なり,さらには,このサイトカイン産生関連遺伝子多型の有無は,重症敗血症や敗血症性ショックに対する治療の有効性をも大きく左右することが判明してきた.また,このような遺伝子多型の分布には,かなりの人種差があることも判明した.
 このことを考慮すると,主としてCaucasian(白人系)を対象とした治験によって欧米で得られたエビデンスを,わが国においてそのまま臨床応用しても,その有効性が欧米での場合と同様に発揮されるかどうかは,はなはだ疑問である.
 このようなことに鑑み,日本集中治療医学会では,わが国独自の重症敗血症や敗血症性ショックのガイドラインを作成すべく,学会内に“Sepsis Registry委員会”を立ち上げ,わが国における重症敗血症,敗血症性ショックの診療の実態を把握し,それに基づいた,これら病態に対する治療のガイドラインを作成しつつある.
 わが国においては,臨床の場で血中サイトカイン濃度をルーチンに測定し,それによって治療方針を決定することや,持続的血液濾過透析(CHDF)などの血液浄化法によってサイトカインを血中から除去することに関しては,世界のフロントランナーである.
 これらのことを含めたガイドラインが策定され,それに基づいたEBM(evidence-based medicine)が行われ,さらにはサイトカイン産生関連遺伝子多型の有無に基づいたtailor-made medicineが,この領域でも間もなく行われるようになると期待されている.

【参考文献】
一, Watanabe E, Hirasawa H, Oda S, et al: Extremely high interleukin-6 blood levels and outcome in the critically ill are associated with tumor necrosis factor and interleukin-1-related gene polymorphisms. Crit Care Med 2005;33:89-97.
二,平澤博之,織田成人,渡邉栄三,他:Cytokine関連遺伝子多型とcritical care medicine. 日集中医誌 2007;14:81-84.
三,平澤博之,織田成人,仲村将高,他:Surviving Sepsis Campaign guidelinesを再考する.救急医学 2007;31:1371-1378.

〔日本集中治療医学会前理事長・千葉大学名誉教授(前医学研究院救急集中治療医学教授) 平澤博之〕

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