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第1122号(平成20年6月5日) |
医は仁ならざるの術,務めて仁をなさんと欲す
「医は仁ならざるの術,務めて仁をなさんと欲す」
これは,江戸時代の中津藩藩医,大江雲澤の言葉であり,その意味は,「医を仁術たらしめるためには,文献のみならず,自らの経験と先輩や同僚の意見,なによりも患者から学ぶ謙虚さが必要であると考える」である.
この言葉は,現代の医療人の心にも響く言葉といえる.
医療行為を行う者は,その医療が患者に病気を良くする治療を受けさせようとした行為であったとしても,結果が悪ければ,患者にはそうとはとらえられないということを認識すべきと考える.
以前は,多くの場合,結果が思うようでなくても,それは,「あの先生に診てもらったのだから,手術してもらったのだから,仕方がない」という信頼関係があったように思う.
しかし,最近では,医療行為が複雑で難しくなったということもあるかも知れないが,診療側と患者側との信頼関係は希薄になり,種々の医療訴訟裁判が増え続けていると言っても過言ではない.
今回の診療関連死(医師法第二十一条)の死因究明制度の問題であるが,もちろん私も診療関連死は犯罪性はないのだから,警察に届けるべきものではないと考えるし,今度の制度設計でも,そのようになる方向である.
また,一九九九年の冒頭に起こった医療事故の問題以前には,社会的に大きな注目を集めていたわけではなかったわけであり,まったく悪意がない場合には,刑事罰が与えられなくて当然と思う気持ちも分かる.
しかし,このような事件が明らかになった後の社会情勢を考えれば,現在はとても医療行為だけを例外として,刑事罰の対象から外すということは,社会に受け入れられる状況にはないと考える.
これは,患者の立場にたって考えれば,分かることではないだろうか.ある日突然,自分または家族が,病院または診療所で,医療行為を受けて予期せぬ結果が出た時,納得出来る説明を受けられなかった場合,あなた自身だったらどうするかを考えて欲しい.
(副会長・宝住与一)
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