日医ニュース
日医ニュース目次 第1129号(平成20年9月20日)

視点

5分ルールとエビデンス

 平成二十年度診療報酬改定で,外来管理加算に「五分ルール」が導入された.改定は通常二年ごとに行われ,新たな改定項目については,これまでも最初こそ戸惑いや多少の不平,不満は出てくるものの,そのうち慣れと許容により風化してくることが多かった.しかし,今回のこの「五分ルール」については従来とまったく趣を異にし,施行後すでに五カ月を過ぎるが,医療現場ではこのルールに対する反発とその理不尽さに対する不信感は一向に収まる様子はない.それだけ根は深く,トゲが突き刺さったままの状態となっている.
 その要因は主に二つあり,「五分ルール」そのものが医療現場にそぐわず,医療職を担当する専門家としての心の琴線を逆なでしている部分と,もう一点は,はっきりしたエビデンスもなく,極めてトリッキーで,杜撰(ずさん)とも思える厚生労働省の試算によって,医療機関に莫大な損害を与えている点にある.
 そもそも,外来管理加算のスタートは内科再診料であり,それが他の診療科でも算定が可能となったものであるが,本質的には変わりなく,いわば内科の無形の技術を評価したものと言ってよい.今回の改定で診療報酬自体が綿密な理論や実証的見地から組み立てられたものでなく,経験則に近い形での構成で辛うじてもっていたことを改めて露呈させた.しかし,問題なのはそのことではなく,財源を優先した動機と,あと先を熟慮することない強引とも思える手法にある.
 さて,本年四月に就任した中医協遠藤新会長のあいさつは,中医協の役割を強調しつつ,同時に「現在のようにあまり診療報酬が上がらない状況の下では,個別の公定価格の設定が医療界に非常に大きな影響を及ぼす」としたうえで,「公的医療保険制度は事実上の計画経済であり,これが有効に機能するには適正に価格が設定出来るかどうかによる」と,意義深いものであった.その公定価格設定の一つの根拠となったのが,厚労省の診療時間のグラフ(平成十九年十二月七日中医協資料)である.
 しかし,その資料は調査のあり方に不透明な点を指摘されたり,診療時間もいつの間にか診察時間に変わっていたりするようないわくつきのものであった.診療時間が診察時間になれば,当然時間要件については算定がより厳しくなるが,資料では「平均診療時間が五分以上である医療機関が九割という結果であった」としている.しかも,財源を確たるものとするために保険指導まで振りかざすのは余りに強権的である.
 今回,日医の緊急レセプト調査では,外来管理加算算定回数については診療所で二六%減,病院では二七%減となり,金額では各々年間七百四十四億円(後期高齢者外来管理加算引き下げを含めると約八百五億円),百三十六億円と試算される.今回の改定では,勤務医負担軽減の目的で医科プラス財源一千億円強に加えて,約四百億円強の財源移譲が診療所から病院へ行われることになったが,そのうち,外来管理加算分は百数十億円としていたものが,今回の調査により途方もない額が予測されることになり,まさに正しいエビデンスの基に適正な価格が設定されたかどうかが問われている.
 中医協では徹底的に議論したとしているが,その根拠そのものが揺らげば“砂上の楼閣”である.このことについて,診療側以外,どこからもエビデンスを問う声が挙がらないのは奇異である.
 「五分ルール」が成果主義だからという以前の問題として,余りに刹那的に軽々にことが動いている様は,言ってみれば今風であるが,言い知れぬ虚しさを覚え,医療の荒廃の導火線になる懸念をはらんでいるのではないかと憂慮する.

(常任理事・藤原 淳)

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