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第1183号(平成22年12月20日) |
感情転移
カウンセリング,精神分析療法の過程で,患者が治療者に感情転移を起こすことがある.
転移には,治療者に対して信頼,尊敬,情愛,感謝などの感情を示す陽性転移と,敵意,攻撃性,猜疑心,不信感などの感情を示す陰性転移の二種類がある.このような特殊な感情は,患者が過去(幼少期)に自分にとって重要であった人物(多くは両親などの養育者)に対して持っていた抑圧された感情が,治療者に向けられたものと理解されている.
しかし,類似の現象は普通の生活の場面でも垣間見ることが出来,必ずしもカウンセリング,精神分析療法などの特別な場面に限ったものではない.つまり,ある人に向けるべき抑圧された感情が,別の人に向けられ(移し替えられ),表出されることは,普段の人間関係のなかで経験することは少なくなく,広い意味でとらえれば,感情転移と言えるかも知れない.
日常の診察場面でも,このような,いわば「的外れな感情表出」に困惑することがある.精神分析療法においては治療の過程で予想される現象と言えるが,一般の診療場面で感情転移が起こると,信頼関係がおかしくなり,治療,その他の業務に支障を来す.治療者側は,感情転移という特殊な感情表出を理解していなければ,腹立たしく,理不尽なこととしか考えられず,困惑するばかりである.
患者さんの気持ちを理解するうえで,無意識に他者に対する抑圧された感情が表出されることもあるとの解釈も必要である.
(榮)
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