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東日本大震災特集号 第1191号(平成23年4月20日) |
3月23日
東北地方太平洋沖地震に対するこれまでの日医の対応
震災後三度目となる記者会見には多くの常勤役員が出席し,これまでの日医の対応について説明した.
冒頭,原中勝征会長は,「この度の史上まれにみる大地震,大津波の被害で,二万人以上の死者・行方不明者を出すことになった.日医は,現地の人たちをいかに支援するか,日々検討して,実行している」と述べた.
さらに,十九日に行われた,医薬品の搬送について,「輸送方法は今までになく,米軍,自衛隊,民間の協力を得て,地元の医師会から,各被災地に届けることが出来た.一刻も早く被災者に必要なものを届けることを考え,非常にスムーズに実施出来たことに対し,関係各所に御礼申し上げる」と述べた.
また,「日本医師会災害医療チーム」(JMAT)の活動について,「DMATの活動の後,一〜二カ月の長い期間でJMATが活動し,避難所等で生活している被災された方々に協力していきたい.現在,さまざまな関係団体と一緒に行動しており,これからの活動が大切になる.今後とも,日医は,国民のための活動をしていきたい」と述べた.
JMATの活動等について
横倉義武副会長は,「今回の震災でわれわれは,人生の中で一度,あるかないかの事態を体験している.日医は総力を挙げ,被災地の救済に取り組む」と述べ,地震発生直後に日医災害対策本部を立ち上げ,当日より二十四時間体制で,被災県医師会からの情報等を基に対応を検討するとともに,JMATの派遣等の活動を行ってきたことや,今後の日医の活動予定を説明した.
JMATについては,甚大な被害を被った岩手・宮城・福島・茨城の四県に対し,三月二十二日現在,六十二チームを派遣中(派遣済みを含む)で,三十四都道府県医師会のほか,全日本病院協会,日本医療法人協会等からも協力を得ていると説明.また,六十八チームが派遣に向けて準備中であることも報告した(四月六日現在派遣済みを含め三百六十九チームを派遣).
検案についても,警察庁からの依頼を受け,検案に習熟した医師の確保に協力,警察の検視官,歯科医師とチームを組んでの活動に向け,順次調整を進めているとした.
今後は,被災者の心のケアが重要になってくるが,日本精神科病院協会から協力の申し出を受け,JMATの一員として活動してもらう予定であるとし,「現場のニーズに合わせて,柔軟に対応していく」と述べた.
さらに,二十二日に,災害対策本部の拡大会議を,被災した東北六県と茨城県の七県医師会と日医とを回線でつなぎテレビ会議で行い,共通の認識の下で支援体制を組んでいくとしたことを報告.全国の約三十都道府県医師会が同会議を視聴したことも紹介した.
被災地域以外の医療機関における医薬品の長期処方の自粛を
中川俊男副会長は,被災地域への医薬品供給を優先に考え,被災された患者の方々が必要な医療を受けられるよう,被災地域以外の医療機関や薬局に対して,医薬品の長期処方の自粛・分割調剤を考慮するなど,必要最小限の最適な処方・調剤への協力を要請してきたと報告.また,卸への対応として,災害医療を遂行する医療機関等に対し,医薬品の安定供給を図るため,通常の注文量を大きく超える注文を控えるとともに,ガソリン消費抑制のために納品回数を削減するなどの配慮をお願いしていると説明した.
さらに,こうした状況を,被災地以外の患者に理解してもらうために,日医として,近日中にポスターを作成し,配布する予定であるとした(本号に折込済み).特に,甲状腺機能低下症に対する薬剤「チラーヂンS錠等(レボチロキシンナトリウム)」については,生産工場が被災し,現在,生産中止となっていることから,都道府県医師会に対して,供給状況の説明や,長期処方の更なる自粛の考慮等についてのお願いをしたことを報告した.その他,生産中止となった医薬品やその代替について情報提供するよう厚労省に要請したと述べた.
また,厚生労働省より,「情報通信機器を用いた診療(遠隔医療)に係る取扱いについて」の考えが示され,その内容を了承し,日医より周知する予定であることも説明した.
医療用医薬品の支援について
三上裕司常任理事は,日医が実施した「医療用医薬品の支援」について,十九日実施の「日医ルート」と十九・二十二の両日実施の「愛知県医師会ルート」のそれぞれについて,経時的に報告した.
その概要は以下のとおり.
(一)日医ルート
十六日,被災地での医薬品不足が顕著となったことから,日医として医薬品を支援する方法を模索.日本製薬工業協会(製薬協)へ医薬品の提供を依頼.
十七日には,製薬協を通じ,医薬品メーカー十五社からの無償提供の報告が入る.
搬送手段の検討中に,ボランティアとして参加していた有井麻矢医師(イェール大学医学部救急科チーフ・レジデント)より,米軍の協力が得られるとの情報があり,調整に入る.
十八日,横田基地から米軍航空機で医薬品を花巻・仙台両空港へ空輸することを正式に決定.
十八〜十九の二日間で総重量約八・五トン(薬価換算六億円強)の医薬品が提供され,日医会館に集められた.
十九日早朝より,日医会館一階フロアで,役・職員数十名とボランティア八名により,医薬品を岩手県分と宮城県分に仕分け,搬送用トラックに積み込む.
十二時,原中会長の出発式のあいさつ,足立信也参議院議員の謝辞を受け,米軍横田基地(福生市)へ向け出発.
パトカーの先導でトラック三台が十三時に横田基地に到着.基地内の梱包センターに搬入し,米軍の配送係の協力を得て,十八時三十五分ごろ米軍機が離陸.
十九時二十分花巻空港に米軍機着陸.岩手県医師会と岩手県の立ち会いの下,受領したとの報告が入った(同日は,医薬品を倉庫にて保管).
二十時四十七分仙台空港に無事着陸.宮城県医師会から,到着前の余震で搬送業者がフォークリフトごと撤収してしまったという連絡を受け,足立参議院議員に連絡し,急きょ自衛隊の援助を要請することになったが,宮城県医師会より直ちに自衛隊等の支援が得られたとの報告があった(同日は,医薬品を県医師会の倉庫にて保管).
二十時三十分横田基地から葉梨之紀・藤川謙二両常任理事らが日医に戻り,その後米軍機の仙台空港無事到着の連絡を受け,原中会長に報告した.
二十日に,岩手県医師会は医薬品を仕分けし,県内十一カ所へ搬送.
宮城県医師会は四ブロックに仕分けをして,二十一日に三地区に発送.残り一ブロック分は県医師会で保管し,必要時に提供予定との報告を受けた.
(二)愛知県医師会ルート
日医ルートとは別に,福島県分は,搬送手段の関係で,日医から愛知県医師会に医薬品搬送を依頼.
妹尾淑郎愛知県医師会長を先頭に県医師会挙げての尽力により,十九日,複数の病院を運営する三菱重工のジェット機による搬送支援を受け,十二時五十分小牧空港から福島空港へ八百キログラムの医薬品を空輸.陸上自衛隊の協力で,いわき市医師会まで搬送し,直ちに仕分けをして,避難所に提供された.
二十二日には,再度,福島県医師会からの,輸液,透析液を含む不足医薬品の要望に応え,医薬品を含め約八百キログラムの支援物資を,大野和美愛知県医師会副会長自ら,事務局と共に車で二十三日朝までに福島県医師会に搬送した.
最後に,三上常任理事は,今回の医薬品輸送について,「被災した各県医師会始め,愛知県医師会,日本製薬工業協会および各医薬品会社,搬送してくれた米軍・三菱重工・自衛隊や警察など,官民および国を超えた協力があって成功したものである」と述べ,感謝の意を表した.
被災者に対する保険診療等の取扱い
鈴木邦彦常任理事は,厚労省から保険診療関係の取扱いについて通知が順次出されているが,特に被災地の医療現場においては,正確な情報が行き届いていないとして説明を行った.
被災者の一部負担金等の取扱いについては,現時点で,五月までの診療に係る一部負担金等の支払いを,五月末まで猶予されることになり,医療機関は一部負担金等を徴収せず,審査支払機関に十割請求することが可能となったと説明.
日医としては,まだ不十分であるとして,国に対して,猶予を免除として国で対応すべきであること,現時点で猶予の対象から外れている福島原発事故により屋内退避の指示が出されている地域住民や,行方不明であった生計維持者の行方が明らかになった場合でも,当面は一部負担金等を免除すべきであることについて,申し入れを行っているとし,今後の被災地域の復興状況を見ながら,一部負担金等の取扱いの延長も申し入れていく予定であるとした(屋内退避については,三月二十三日付の厚労省事務連絡で猶予対象とされた).
また,医療機関の建物が全半壊等した場合,仮設建物で保険診療が継続出来ることを説明.
診療報酬を請求出来ない状況にある場合の三月診療分の請求方法については,概算請求など,厚労省と対応について協議する必要があると考えているとした(三月二十九日付,厚労省事務連絡で可能とされた).
医療機関の施設基準などに関しては,被災者を受け入れたことで定数超過入院となった場合でも減額されないこと,被災地に職員を派遣したことで入院基本料などの施設基準が満たせなくなっても変更の届出は不要であることを説明.
さらに,被災地域から入院患者を受け入れた場合については,入院期間を通算せず,初回入院の取扱いとすべきと考えており(四月一日付,厚労省事務連絡で対応された),また,受け入れた患者は,本来の住所地に戻れる時期が不明であることから,九十日を超える入院についても入院基本料が逓減されないよう配慮するよう,厚労省当局に申し入れをしているとした.
保険調剤の取扱いについても,通常の処方せん様式でなくても,医師の指示を書いた文書で保険調剤が可能だと説明した.
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