日医ニュース
日医ニュース目次 第1193号(平成23年5月20日)

平成23年度日本医師会事業計画

 去る三月十一日に発生した東日本大震災により,いまだ多くの方が深い悲しみとともに,不自由な生活を余儀なくされている.
 日医としては,会員並びに全国の医師会の協力の下,これまで医療支援を目的としたJMATの派遣や,被災地からの患者受け入れ,医薬品等の物資の搬送等に全力で取り組んできた.
 しかし,国難と呼ぶべきこのたびの災害から立ち直り,被災された方々の生活に笑顔と豊かさを取り戻すためには,今後も継続した支援が必要不可欠である.
 特に,医療体制の再構築に当たっては,被災地域並びに福島第一原子力発電所の事故に伴い定められた避難区域内等に住居や勤務先がある医師に対する,住居や医療機関の移転・再建支援あるいは再就業支援が急務であると考える.
 そのため,日医としては,全国から寄せられた浄財を通じた支援策を講じていくとともに,あらゆる財政的支援並びに税制上の支援を取り付けられるよう,政府並びに関係各方面へ引き続き強力に要望活動を行っていく.
 なお,今回の大震災後の政策策定で,国の社会保障政策の考え方に変化が見られることが予測される.しかし,日医としては,すべての国民が公平な負担の下で,同じ医療を永続的に受けられることこそ,公的医療保険制度の根幹であるとの考えを変えることはない.
 平成二十三年度は,昨年六月に閣議決定された『新成長戦略』の本格実施が予定されている.『新成長戦略』は,「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」を一体的に実現していくに当たっての,「強い経済」実現に向けた戦略として位置付けられている.ところが,『新成長戦略』の一環として打ち出される昨年来の医療政策は,営利企業の関与による組織的な医療ツーリズムや,デバイスラグ・ドラッグラグの解消等を理由に,混合診療全面解禁を後押しするものであり,誠に遺憾である.
 折しも本年六月には,わが国のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加の可否が,判断されることになっている.仮に,TPPへの無条件の参加が決まれば,わが国の医療に市場原理主義が持ち込まれ,国民皆保険制度の崩壊を,加速度的に招く事態が起こり得ることも懸念される.
 そもそも医療は,国民が第一にその恩恵を享受すべきものである.質の良い医療が平等に提供される制度があってこそ,国民に対して生涯の安心と安全が約束出来る.そして,その約束を国民に果たしていくことが,医師会に課せられた社会的責務であると考える.
 したがって,わが国の医療を立て直していくためにも,団結して闘う医師会を作り上げ,そこから,政府の誤った方向は断固としてこれを正し,医師の誇りと医療への国民の信頼を取り戻すための施策を展開していく.
 また,現状と乖離した医療政策では,国民が安心出来る医療体制は構築出来ない.国内外の現状を正確に分析したエビデンスに基づく政策の立案を,日医自らが積極的に行いつつ,一方で,政府与党並びに野党の政策を是々非々で判断していく.そのなかで,必要に応じた政策提言を適時・的確に行っていくことで,日医が考える真に国民に必要な医療の実現を図っていく.
 さらに,平成二十三年度は平成二十四年の診療報酬・介護報酬同時改定に向けた議論が本格化する.日医は,医療と介護の“底上げ”を最重要課題と位置付け,『グランドデザイン二〇一一』を柱に,すべての病院・診療所が健全な経営を持続していけるよう,適正な医療・介護財源の確保を求め,関係各方面に強力に訴えながら,議論に臨んでいく.
 以上のような基本的な認識に基づき,日医は平成二十三年度事業計画として,各種会内委員会の充実,日本医師会総合政策研究機構(日医総研)の積極的活用はもちろんのこと,「医療政策の提案と実現」「医の倫理の高揚と医療安全対策の推進」「生涯教育の充実・推進」「広報活動の強化・充実」「地域医療提供体制の確立・再生」などの当面する重点課題について,全会員の強い結束・団結の下,地域に密着した医師会活動を基本として,その関連諸施策の推進を図る.
 また,日本医師会治験促進センターおよび女性医師支援センターの運営についても,さらなる充実・活用を図り,わが国の医学・医療の進歩発展に尽くす.

重点課題

1.東日本大震災への対応

 被災した会員並びに医療機関の支援を通じて,被災地域における医療体制の再構築を図り,もって地域の復興に寄与していく.そのため,政府並びに関係各方面に対し,財政的支援並びに税制上の支援を引き続き要望していく.
 また,医療支援を目的としたJMATの派遣や仮設診療所の設置,医薬品等の物資の搬送のほか,避難している方々の健康管理に向けた取り組みなど,多面的かつ継続的な支援策を講じていく.

2.医療政策の提案と実現

 昨年六月に閣議決定した『新成長戦略』の下,現政権は,「強い社会保障」の実現に向け,ライフ・イノベーションによる健康大国戦略を掲げ,医療・介護を経済成長牽引産業へとした政策を展開している.
 日医は,医療・介護に経済成長の牽引産業としての役割を担わせることは誤りであり,それを期待した途端,医療・介護は営利産業化へ突き進むことになることを指摘してきた.また,医療の営利産業化は,「混合診療全面解禁」,「株式会社の参入」の突破口になり,国民が受ける医療に格差をもたらし,国民皆保険制度の崩壊につながるとの主張をしてきた.
 日医は,国民皆保険制度を堅持するという理念の下で,公的医療保険の給付範囲を拡充していくこと,すなわちすべての国民の医療を守ることを念頭に,これまで以上に,強い姿勢で政策提言を行っていく.
 手段としては,医療現場の総力を結集し,エビデンスに基づいた医療政策を,直接政府そして与野党に提言していく.
 また,これまで以上に記者会見などを通じて広く国民に情報を発信し続ける.
 さらに,高齢者医療制度をも包含した公的医療保険制度の全国一本化,医師不足・偏在問題の解消等の提言を行った『グランドデザイン二〇一一』を,あるべき国民のための医療提供体制と医療保険制度の実現を目指すうえでの中長期および喫緊の課題として強力に推進していく.

3.医の倫理の高揚と医療安全対策の推進

 医療界の秩序と国民の医療に対する信頼を確保し,医学・医療を真に人類の幸福に寄与するものとするために,日医が独自に作成した「医の倫理綱領」および「医師の職業倫理指針」を広く周知徹底し,医の倫理の向上を図る.特に,医師の日常的自浄作用,患者の個人情報の保護,診療情報の提供については,医師の責務として一層の普及,定着を促進する.
 また,患者の安全確保と医療の質の向上を最優先課題として,医療安全確保対策,会員の倫理および資質の向上を推進する.
 さらに,医の倫理の高揚と医療安全対策の推進に向けて,すでに各都道府県医師会や郡市区等医師会で実践している自浄作用活性化や倫理向上に向けた取り組みに対して,日医内の会員の倫理,医療安全,生涯教育等に係る委員会が連携し,定例的に情報発信・情報交換する場を設けるなどの支援策を引き続き検討し,実施する.

4.医師会の組織強化と勤務医活動の支援

 医師会は,わが国の医師を代表する唯一の団体である.
 折しも,新公益法人制度への移行を控えた変革の時期であり,新制度移行後も,医師会が医療界における強力なオピニオンリーダーとして存在感を持ち続けていくためには,医師会間の一層の連携強化と公益性の深化を図っていくことが必要不可欠である.
 そうした認識の下,日医の公益認定取得に向けた取り組みとしては,各種事業のあり方や定款諸規程類の見直しを行うとともに,独自の課題解決に向けた検討を引き続き行っていく.
 全国の医師会組織の移行支援に向けた取り組みとしては,母体保護法第十四条に係る問題の解決に努めるほか,ホームページ内の専用コーナーを用いた情報提供や担当理事連絡協議会の開催等を通じて,一層の連携を図っていく.
 一方,医師会組織の目的である国民医療の向上を図るためには,開業医や勤務医といった立場の違いを超えて,すべての医師が日医に結集するための方策が待たれる.
 そのため,病院団体や大学医師会等との一層の連携の下,臨床研修医も含めた勤務医の意見を広く吸い上げるための方策を講じるとともに,勤務医の労働環境改善のため,勤務医の精神・身体両面の健康支援の推進についても,積極的に取り組む.
 また,女性医師の医師会活動参加を促進するため,会内委員会への女性医師の積極的な登用を図るとともに,女性医師への就労支援策等について,引き続き取り組んでいく.

5.生涯教育の充実・推進

 医師の生涯教育は,医療の質の向上,患者の安全確保のうえからも最重要課題となっている.
 日本医師会生涯教育制度は,創設されてから二十四年が経過し,これまで数次にわたる制度改正を行い,その質的向上と充実を図ってきたが,国民は,常に医師が不断に学習する姿を目に見える形で求めている.
 医師が生涯教育に取り組む姿勢をより明確に示すことで,医療に対する国民の信頼感が高まるとともに,医療連携など医療提供体制の充実にもつながるものと思われる.
 こうした社会的要請に応えていくためにも,平成二十二年度に「日本医師会生涯教育カリキュラム〈二〇〇九〉」に基づく改正を実施した日本医師会生涯教育制度について,多くの医師が日本医師会生涯教育認定証を取得出来るよう広く周知し,制度の定着を図る.
 併せて,より多くの会員が生涯学習に参加出来るよう,日医雑誌の読後解答やe─ラーニングの充実など,引き続き履修環境の整備に努める.
 また,本制度は医師全体を対象としていることから,ホームページなどを通じて広報し,日医に未加入の医師から申告がある場合にも,会員と同様の対応を行う.
 なお,都道府県医師会,郡市区等医師会が一括申告を行う場合,引き続き今回の制度改正に沿った事務手続き軽減のための支援ソフトを配布し,申告の円滑化を図る.
 平成十五年度より実施している「指導医のための教育ワークショップ」を引き続き日医主催で二回実施するほか,都道府県医師会が開催する「指導医のための教育ワークショップ」についても支援を行っていく.

6.日本医学会とのさらなる連携の強化

 日医と日本医学会が相携え,わが国の医学・医術のさらなる発展に貢献するとともに安心・安全で良質な医療の確保と推進を目指す.日本医学会が主催するシンポジウム,公開フォーラム等に積極的な支援を行う.
 また,社会性の高い問題に当たっては,緊密な連携の下に適正な対応を図る.
 わが国における専門医・認定医制のあり方についても,幅広い視点で協議していく.
 さらに,日本医学会を通じ,各学会員に医師会活動の啓発を行うことで,相互連携の強化を図る.

7.医療分野におけるIT化の推進

 ORCAとともに,医療事務,介護,特定健診,認証局など医療のIT化にかかわるおのおのの分野において,平成二十二年度に引き続き開発・普及を行う.
 また,医療分野におけるIT化を管理医療・医療費抑制の手段として利用しようとする最近の国の政策に対し,医療提供者としての立場から,真に国民の医療にとって有益なIT化はいかなるものなのか,具体的な提言を行い,対策を講じていく.

8.広報活動の強化・充実

 日医の主張や見解を国民に浸透させるとともに,イメージアップ戦略の一環として開始したテレビCMを用いた広報活動については,徐々にではあるが国民の日医に対する認知度,期待度は高まりつつある.今後においてもより多くの国民にテレビCMを見てもらえるよう,提供番組などの検討を行うとともに,より良いCMづくりに努めていく.
 新聞への意見広告については,これまでどおり必要に応じて行っていくこととするが,国民の目に触れる機会を増やすことも必要と考え,全面広告のみならず,突出し広告等についても引き続き行っていくこととする.
 定例記者会見については,原則,毎週開催することでマスメディアとの関係構築に努めるとともに,その内容を日医ニュース,日医白クマ通信,動画配信を含めたホームページなどを通じて,会員ばかりでなく,国民にも伝え,その理解を深めていく.
 これら既存の広報手段の充実とともに,BS朝日で放映中の日医提供番組「鳥越俊太郎 医療の現場!」についても,質の向上を図っていく.
 さらに,「テレビ健康講座 ふれあい健康ネットワーク」では,都道府県医師会の協力の下,その意向を踏まえながら,医師会活動の紹介を通じて,地域住民の健康増進に努める番組づくりを行っていく.
 日医ホームページは,Webサイト評価に基づき,トップページを始め,システムを含む大々的なリニューアルを図り,公開に向け作業中である.今後は,各コンテンツの検証,更新頻度など,会内横断的に進めていく.
 また,ホームページをいかに見てもらうかに関しても,「国民に向けた発信」を主眼に,日医の活動や主張を分かりやすく伝え,理解を得られるよう検討するとともに,検索サイト等の情報を基にアクセス数の増加に向けた努力を行う.また,会員との情報共有化を図るため,各種講習会,シンポジウム等の映像を可能な範囲で配信していく.
 都道府県医師会に対しては,都道府県医師会宛て文書管理システムやメーリングリスト,平成二十一年末にシステムを刷新したテレビ会議システムなどのさらなる活用により,双方向かつ速やかな情報交換を円滑に行っていく.

9.国際活動の推進

 グローバル・ヘルスを国際活動の主軸として推進するために国際機関や各国医師会との連携を深める.
 世界医師会(WMA)に対しては,理事国として引き続き積極的な提言を行っていく.
 アジア大洋州医師会連合(CMAAO)では,その事務局として,各国間の情報交換を活発にし,組織の活性化を支援していく.
 さらに,平成二十三年度より国際保健検討委員会を常設化し,さまざまな国際問題とともに,わが国の地域医療を国際保健の見地からも検討し,WMAおよびCMAAOとの連携活動を強化していく.
 武見国際保健プログラムに関しては,応募,選考などを含めて日医が主導的運営を行い,引き続きハーバード大学公衆衛生大学院との協力関係を維持していく.
 JMAジャーナルは,わが国の医療と日医の活動を世界に紹介する英文誌として,内容のさらなる充実を目指す.

10.医療保険制度の充実に向けた取り組み

 高齢者医療制度を含めた医療保険制度について「国民の安心を約束する医療保険制度」に基づいた主張をしていく.
 現行の高齢者医療制度は拙速に廃止するのではなく,抜本的な医療制度改革構想を検討し,問題点の修正が出来た段階で変えていくよう働き掛ける.
 平成二十四年度の医療保険と介護保険の同時改定に向けては,まずは「社会保険診療報酬検討委員会」において平成二十二年度診療報酬改定の評価を行っていく.
 そのうえで,初・再診料,外来管理加算,入院基本料等の基本診療料に関しては,「基本診療料のあり方に関するプロジェクト委員会」において中医協等の議論に即応した検討を行い対応していく.
 また,医療と介護が連携する部分については,「医療と介護の同時改定に向けたプロジェクト委員会」において,継ぎ目の出来ないような方策を検討したうえで対応していく.

11.介護保険制度の充実に向けた取り組み

 介護保険については,地域医師会が地域支援事業,地域包括支援センターの運用および地域包括ケアシステムの構築に向けて取り組みが開始出来るよう対処し,併せて,かかりつけの医師の認知症への対応力向上を推進し,認知症サポート医の活用に努める.
 また,平成二十四年度の介護報酬・診療報酬の同時改定に向けて,制度や報酬の見直しに関し,問題点,改善すべき点を取りまとめ,対応を図る.
 一方,要介護認定については,主治医意見書の重要性について再認識し,そのうえで適切な記載方法の周知を図る.
 情報の公表制度については,適切な運用・実施に向け対応を図る.
 なお,高齢者医療や在宅療養に携わる医師を支援するため,「在宅医療支援のための医師研修会」を開催する予定である.

12.地域医療提供体制の確立・再生

○「連携と継続の地域医療体制」の再構築に向けた取り組み
 「連携と継続の地域医療体制」の再構築に向け,今後行われる医療計画の改定,次期医療法改正等を見据えた取り組みを進める.
 そして,地域医師会との緊密な連携の下,医療財源の確保を前提に,すべての国民への平等で良質なサービスの提供を目指して,地域における保健・医療・福祉を推進し,「かかりつけ医機能」を中心に据えた,診療所や病院によって担われる地域医療のさらなる充実を目指す.
 特に有床診療所は,地域住民の身近にあって,多様な役割・機能を担っている.地域の実情に合わせて柔軟に運営されており,その活用・強化とともに,その意義や重要性について情報発信していく.
○医師の偏在・不足の解消に向けた取り組み
 喫緊の国民的問題となっている医師の偏在・不足に対しては,地域における役割分担と連携の推進として,予防・急性期・回復期・慢性期・在宅等の切れ目のない医療体制,救急医療体制(救急医療後の患者を受け入れる後方体制を含む)や多職種間連携等の推進を図る.
 また,地域間の広域連携,勤務医の就労環境の改善,ドクターバンク事業の推進,医師が安心して診療に従事出来る仕組みの確立,女性医師の離職防止・再就業支援等に向けた多岐にわたる対策を講ずる.さらに,国の医師確保対策へ参画すると同時に,病院団体や大学等関係者との協議を併せて進めていく.
○救急災害医療の拡充に向けた取り組み
 救急災害医療については,地域連携の推進に加え,救急蘇生法や受療行動に関する市民への普及啓発,周産期や小児の救急医療並びに小児救急電話相談事業の定着,救急蘇生法ガイドラインの改訂への対応を含むACLS(二次救命処置)研修の推進,病院前救急医療(ドクターヘリ・ドクターカー)の拡充を図るとともに,震災等の災害医療対策の充実にも努める.
○公衆衛生の向上・少子化対策への取り組み
 予防接種法の改正を国に強く働き掛け,わが国で任意接種の取り扱いとなっているワクチンを公費(定期接種化)で接種出来る政策の実現を図る.
 また,国の新型インフルエンザ行動計画並びにガイドラインの改正に合わせ,鳥インフルエンザ(H5N1)のような病原性の高い感染症への対応を積極的に推進する.併せて,適切な予防接種体制の構築を含め,わが国の新興・再興感染症等の感染症対策の全体の推進を国に働き掛けていく.
 少子化対策,周産期医療の充実,母子保健対策,学校保健対策等,「子ども支援日本医師会宣言」の実現を図る.
 増加傾向を続ける自殺への対応として,日医は精神保健福祉施策全般に対して積極的に関与するとともに,「かかりつけ医うつ病対応力向上研修会」の開催等を含め,会員に向けた自殺対策への取り組み,国民に向けた啓発活動を展開していく.
 さらに,健康食品の安全に関する情報システムの全国展開等に努めるとともに,生活習慣病対策としては,平成二十二年十二月十六日に設立された「日本COPD対策推進会議」を中心として,COPD(慢性閉塞性肺疾患)に対する啓発活動と地域医療連携の推進を図る.併せて,特定健診・特定保健指導の見直しに向けた検討を行い,がん検診やその他の健診等と合わせた取り組みを推進するとともに検診受診率の向上を図り,さらに,がん診療における在宅医療や緩和ケアの充実等を図る.
 その他,特定保健指導や日常診療における健康スポーツ医活動の推進を図る.また,糖尿病対策については,日本糖尿病対策推進会議との連携の下に積極的に取り組む.
○産業保健活動の推進
 近年の労働衛生政策の急激な変更に対応し,これまで日医が都道府県医師会等の協力の下,実施してきた認定産業医制度,地域産業保健センター事業などの産業保健事業が後退しないよう,推進に努める.
 今後,小規模事業場の労働者の過重労働・メンタルヘルス対策のニーズの増加が予想されるが,労働者の健康確保対策を推進するため,地域産業保健センター事業並びに都道府県産業保健推進センター・メンタルヘルス対策支援センター事業の円滑な実施に向けた環境整備に取り組む.
 また,地域医療のなかに確実に定着してきた日本医師会認定産業医制度のより一層の充実を図り,産業医の資質向上に努める.特に,研修会の質並びに認定産業医の社会的評価を低下させることなく,研修会受講の利便性を向上させるテレビ会議システムの利用の促進を図る.
○学童期前の保健(特に保育園保健)と学校保健への取り組み
 学童期前の集団生活,特に保育園における保健医療のあり方について検討を行うとともに,乳幼児の心身の健全な育成を図るための施策の推進を図る.
 また,保育園における保健医療の充実を図るため,保育園の嘱託医の組織化のあり方について検討を進める.
 さらに,学校においては,児童生徒のインフルエンザの感染拡大を始めとして,生活習慣病の若年化やアレルギー疾患の増加,メンタルヘルスの問題などへの対応が求められている.これに対して,地域医療の一環としての学校保健活動のあり方と勤務医の参加についてその具体的方策を検討し,学校保健活動の推進を図る.
○環境問題・医療廃棄物に係る取り組み
 医療や保健の面においても重要性を増しつつある環境問題に対しては,日医の取り組み姿勢を表明した「環境に関する日本医師会宣言」を基に取り組んでいく.特に,小児の環境保健対策や医療機関における化学物質管理の推進,病院・診療所による二酸化炭素削減に向けた取り組みの推進等を重点的に実施するとともに,環境に起因する健康影響について,都道府県医師会環境保健担当理事連絡協議会の開催等,都道府県医師会との情報共有に努める.
 医療機関から排出される廃棄物への対策については,在宅医療廃棄物や新興感染症等への対策を含め,「特別管理産業廃棄物管理責任者」資格取得講習会の推進等により地域医師会や医療機関を含めた体制整備に努め,環境の立場からも積極的に検討を行う.

13.医療関係職種等との連携及び資質の向上

 医療関係職種が担う業務の見直し,特に看護職員の業務範囲については,現行の保健師助産師看護師法の下で「診療の補助」を拡大していくべきである.新たな業務独占資格の創設は一般看護職員の業務縮小,ひいては地域医療の崩壊につながることから,その必要はないことを引き続き主張し,看護職員全体の資質の向上に努める.また,医師によるメディカルコントロールの下で,他医療関係職種とのチーム医療を推進する.
 国が策定した第七次看護職員需給見通しは,必ずしも供給面が十分なものとは評価出来ない.適正な需給・配置バランスの確保,特に供給数の実現のためにも,看護職員の養成は,一義的に国の責任であることを基本とし,看護師等養成所運営費補助金の増額や各種規制の柔軟な運用を引き続き求めていく.今後とも専任教員の確保に努めるとともに,准看護師養成制度を堅持し,准看護師・看護師等学校養成所に対する支援を行う.

14.医業税制と医業経営基盤の確立

 地域医療の再生・維持・確保には,そのインフラである医療機関の経営の安定,経営基盤の充実を図ることが重要であり,診療報酬が不十分である現在,予算措置だけではなく税制面からの支えは必須である.この基本認識の下,医業経営にかかわる税制のほか,地域医療確保に資する税制などについて検討を進める.とりわけ,事業税非課税措置等については,政策評価に備え,必要に応じデータ収集・分析等を行う.
 最重要課題である控除対象外消費税については,消費税の抜本的改正の動きが強まっていることから,早期解決が必要であり,社会保険診療報酬等に対する消費税の非課税制度を,仕入税額控除が可能な課税制度に改め,かつ患者負担を増やさない制度に改めるよう,引き続き要望し,その実現に努める.なお,政府税調などにおける,「消費税の目的税化」の議論も注視していく.
 社会保険診療に対する事業税非課税措置については,政府税調において平成二十二年度に続き検討がなされる見込みである.医師の医療行為が適正に評価されずに低廉な診療報酬が続くなかで,事業税非課税措置の見直しが行われれば,医療機関の経営存続を危ういものにし,地域医療の衰退や崩壊を招くことから,その存続を引き続き要望する.
 四段階制(社会保険診療報酬の所得計算の特例措置)等の租税特別措置についても,政府税調において俎上に上ることが予想されるが,その必要性を強調し,存続・延長を引き続き要望する.
 新制度医療法人への円滑な移行については,平成二十年度税制改正において,日医の要望の完全実現とはならず,一定の課題を残す決着となった.今後は,移行の現状についての評価を行い,対応を検討する.
 地域医療をめぐってはさまざまな問題が山積しているが,引き続き税制による誘導方策等を検討し,地域医療の確保に向け積極的に提言する.
 なお,税制要望事項については,今後とも都道府県医師会,郡市区等医師会との協力により,関係各方面に積極的に働き掛けを行っていく.

15.日本医師会年金の運営強化と会員福祉施策の充実

 医師年金について,平成二十三年度に取り組むべき第一の課題は,再改正保険業法対応である.昨年十一月に再改正保険業法が成立し,旧法の下では廃止が不可避であった年金制度が「特定保険業者」として継続が可能となった.今後,新法に伴う省令等が定められることから,それに基づいた制度改定の検討と,平成二十五年十一月末が期限となっている特定保険業者の申請手続きを進めていく.
 また,日医が公益法人を目指すうえで,医師年金のような共済事業は,公益法人認定法では公益目的事業と認められておらず,認定基準クリアの障害となっている.そのため平成二十三年度においては,本件の解決に向け,関連省庁始め関係各方面との調整および働き掛けを強化していく.
 年金の資産運用体制については,昨年十月に全面的な見直しを実施したが,平成二十三年度も安定的かつ効率的な運用を目指し,中・長期的な視点で,適切な資産配分や最適な運用機関選定などを継続的に検討していく.併せて,運営・管理面においても,将来にわたり安定した制度運営を志し,規程の見直し,ガバナンスの充実,システム面の拡充,事務処理体制の強化などの検討を進める.
 普及推進活動については,新規入会会員へのアプローチを含めて,ホームページ,日医白クマ通信,日医ニュース,日医雑誌等を有効に活用することにより,効率的な普及促進を図る.さらに,これまでの活動による効果の検証を行うなど,常に見直しを心掛ける.
 平成二十三年度も既述の取り組みを通して,医師年金の発展・充実に努めていく.
 一方,昨秋からスタートした会員特別割引「ホテルオンライン予約サービス」については,対象ホテルを増やすとともに,他の分野にもサービス範囲を拡大していく.

16.日本医師会医賠責保険事業の安定的運営

 本事業は,日医の社会的責任として行うものであり,医療事故紛争の適切な処理を通じ,医師と患者の信頼関係の構築に資することはもとより,会員相互の連帯の下に都道府県医師会との緊密な連携により,医療提供基盤の安定化に極めて有用に作用している.また,今日の高額賠償化の現状や管理者責任への備えに対し,「日医医賠責保険 特約保険」の加入者の増加に努め,健全な制度運営の拡充を図る.

17.医療事故調査制度の創設について

 いわゆる診療関連死に伴う診療担当医の刑事処分のあり方を見直す取り組みは,平成二十年度に厚生労働省が示した「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」以降,民主党政権誕生後も具体的な議論が行われないまま,今日に至っている.日医としては,この問題に関してこれまで築き上げられてきた医療界における議論を土台として,新たな医療事故調査制度の構築に結実させるべく,具体的な検討を再開させることが重要と考える.
 すなわち,日医では,昨年十一月に「医療事故調査に関する検討委員会」をプロジェクトとして設置し,約三カ月半の短期間に極めて密度の濃い検討を重ね,一定の方向性を打ち出したところである.今後,この素案を基に会内外における議論を深め,さらなる具体的な提言に向けて活動を継続していく.

18.日医総研の研究体制の充実強化

 日医総研は,国民に選択されるエビデンスに基づいた医療政策の企画・立案に努め,社会保障制度論,国民医療費動向などの中長期的な課題と併せ,短期的な政策課題に対応するための調査・研究体制を一層充実強化させた運営を行う.また,成果に応じた研究員の評価の実施に,なお一層努めるとともに,研究成果の会員への還元にも努める.
 平成二十二年度は「医師会総合情報ネットワーク」の一環として,ORCAを活用した感染症サーベイランスの実用化を目指し,インフルエンザのリアルタイムマップ化を実現した.平成二十三年度においても,このようなリアルタイムの情報収集と速やかな結果の開示を推進し,医療の現場からしか発信出来ない情報を,国民も共有出来るように努めていく.
 このほか,日医標準レセプトソフトの開発,普及を始めとするORCAプロジェクトの推進を強化し,協力医療機関の下に収集したデータによる医療費動向,受療動向の解析結果等を,国民の目線に立った医療政策の提言に向けて積極的に活用していく.

19.治験促進センターの着実な運営

 治験促進センターは,医師主導治験の実施を支援し,科学的な証拠に基づく質の高い医療の提供に貢献する.また,全国規模の大規模治験ネットワーク登録医療機関のさらなる連携の強化,研修の提供,企業治験の機会の提供,普及啓発等を通じ,わが国の治験実施基盤の整備を行う.さらに,医薬品等の臨床研究の普及啓発に努める.
 また,治験獲得の推進,今後治験の実施を目指している地域医師会に対し,治験促進センターが得たノウハウ等を提供するとともに,効率的な治験の実施体制整備の構築を含め支援する.

20.女性医師支援センター事業(女性医師バンク)の運営

 平成十八年度より厚生労働省の委託事業として立ち上げられた医師再就業支援事業は,平成二十一年度,女性医師支援センター事業と名称を改め,女性医師の就業継続支援を主眼として,さらなる事業の拡充を行ってきた.
 事業の中核である女性医師バンクにおいては,引き続き積極的な広報活動を行い求職・求人登録者を増やすとともに,医師であるコーディネーターによる,従来からのきめの細かいコーディネート活動を通じて就業成立件数の増加を図るほか,希望に応じて再研修実施施設の紹介や医療機関への再研修の委託なども行う.
 また,都道府県医師会における女性医師等相談窓口の設置・運営の支援や,各医師会主催の講習会等への託児サービス設置の補助,都道府県医師会等との共催による「女子医学生・研修医等をサポートするための会」の開催についても引き続き実施する.
 その他,男女共同参画やワークライフバランスについての講義が医学部教育カリキュラムへ導入されるよう引き続き働き掛ける等,多様な女性医師の支援を行う.

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.