日医ニュース
日医ニュース目次 第1197号(平成23年7月20日)

医療事故調査に関する検討委員会(プロジェクト)答申まとまる
医療事故調査制度の創設に向けて5つの提言を示す

 医療事故調査に関する検討委員会(プロジェクト)は,このほど,会長諮問「医療事故調査制度の創設に向けた基本的提言」に対する答申を取りまとめ,六月二十日に寺岡暉委員長(寺岡記念病院理事長)から原中勝征会長に提出した.
 医療事故対応に関する議論については,医師法第二十一条の改正問題も含め,これまで,医療界だけではなく,患者団体,法曹界,政官界,マスコミを包含した社会的な課題として熱心に行われ,「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」が作成されたが,政権交代等によって,法律の制定までには至っていない.
 本委員会では,これまでの議論をそのまま終焉させてしまうことは,医療界のみならず,社会にとっても不幸なことであり,我が国の医療における役割を考えるならば,日医がこれらの議論を再開し,発展させていくことが自明との考えの下,五回にわたって,鋭意検討を重ね,今回,本答申を取りまとめた.
 答申では,まず,基本的な考え方として,「医療事故調査制度の目的は,医療事故の真の原因究明と再発防止である」ことを明記.そのうえで,(一)全ての医療機関に院内医療事故調査委員会を設置する,(二)医療界,医学界が一体的に組織・運営する「第三者的機関」によって医療事故調査を行う,(三)医師法二十一条の改正を行う,(四)ADR(裁判外紛争解決手続)の活用を推進する,(五)患者救済制度を創設する―という五つの事項を提言している.
 (一)では,再発防止の直接的担い手たる医療機関が,公平性を担保された形で自ら積極的に調査分析を行うことが重要としたうえで,委員会が機能するためには,医療者,受療者間に信頼関係が構造化されていることが必要だと指摘.実施に向けては,制度設計を協議する場として,日医,病院団体,医学会,大学他の参加により,専門委員会を立ち上げることを提案している.
 (二)の「第三者的機関」としては,現在の「一般社団法人日本医療安全調査機構」を基本に,日医,日本医学会を始め,医療界の関係団体が参加する組織を再構築し,かつ各都道府県には一カ所以上の地方事務局を設置することなどを打ち出している.
 (三)では,医療行為に関連した死亡について,医師法二十一条が対象とする「異状」に含めず,故意または故意と同視すべき犯罪以外は,警察への届出の義務を負わないことを要望.また,院内事故調査の分析能力を超えるものと判断された事案は,「第三者的機関」の地方組織に調査を依頼するとしている.
 (四)では,茨城県医師会の医療問題中立処理委員会の取り組みを紹介し,医師会がADRを推進することの意義は大きいと指摘.さらに,ADRは,地域住民,受療者がアクセスしやすい形にすることが大切だとしている.
 (五)では,過失,無過失を問わず,医療に起因する有害事象を対象とした患者救済制度を設けるためには,財源の確保が課題だとするとともに,医療側からも厳しい自律的体制を明示することが不可欠だとしている.
 答申が取りまとめられたことを受けて,担当の高杉敬久常任理事は,「今回の答申はあくまでも基本的提言であり,最終的なものではない」としたうえで,「今後も答申で提言された事項をどのように実施出来るか,さまざまな方面から意見を聞きながら検討していきたい」としている.
 なお,本答申は,都道府県・郡市区医師会に送付済みであり,日医ホームページにも掲載している.

医療事故調査に関する検討委員会

寺岡  暉(寺岡記念病院理事長)
有賀  徹(昭和大医学部救急医学講座教授・講座主任)
石渡  勇(茨城県医副会長)
岡井  崇(昭和大医学部産婦人科教室教授)
小川  明(共同通信社編集委員・論説委員)
奥平 哲彦(日医参与・弁護士)
畔柳 達雄(日医参与・弁護士)
児玉 安司(東大大学院医学系研究科客員教授・弁護士・医師)
堤  康博(福岡県医専務理事)
手塚 一男(日医参与・弁護士)
西田 芳矢(兵庫県医副会長)
樋口 範雄(東大大学院法学政治学研究科教授)
松井 道宣(京都府医理事)
山口  徹(虎の門病院長)
【高杉常任理事:医事法・医療安全課】

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