日医ニュース
日医ニュース目次 第1201号(平成23年9月20日)

市民公開セミナー「医療と消費税」
医療機関の消費税負担問題について国民に理解を求める

市民公開セミナー「医療と消費税」/医療機関の消費税負担問題について国民に理解を求める(写真) 日医は,社会保険診療が非課税のために医療機関に“控除対象外消費税”という大きな負担が発生している問題を多くの国民に知ってもらう機会として,「医療と消費税」をテーマとした市民公開セミナーを八月二十一日に,東京・日比谷公会堂で,四病院団体協議会(日本病院会,全日本病院協会,日本医療法人協会,日本精神科病院協会:以下四病協)との共催により開催した.
 冒頭,主催者あいさつで,原中勝征会長(横倉義武副会長代読)は,医療機関の消費税負担問題は複雑な医療制度と税の仕組みから生じており,国民には理解されにくいこと,また,保険証を利用した診療費用に関する消費税が非課税であるために,医療機関の負担が増大し,ひいては国民にも大きな不利益をもたらす事実が知られていないと指摘.その上で,本セミナーを契機に,この問題が社会的に広く認識されることに期待を寄せた.
 次に,四病協を代表し山崎學日精協会長があいさつした後,基調講演三題が行われた.

基調講演

 (一)今こそ,医療とお金について考えよう
 初めに医師で作家の海堂尊氏は,まず,消費税について,「我々医療従事者でも実は詳しく理解していない問題」であるとして,税の仕組みの複雑さを指摘し,「税の仕組みが分かりにくいということ自体,国の形が間違っている」と述べた.その上で,「人口減少社会で逆ピラミッド構造に喘いでいる状況では大きなパラダイムシフトが必要である.東北の被災地を回った経験などからも,医療が地域復興や地域改善等に不可欠だ」とした上で,市民が医療というセーフティネットをしっかり張っておくよう国に要求すべきだと主張.「日本の良質な医療の現場をサポートするためには社会が医療を全体的にバックアップする仕組みが必要であり,その仕組みをつくるのは国会議員や官僚だが,彼らを動かすのは市民一人ひとりの静かな声である」と述べ,聴衆に対し行動の必要性を訴えた.
 (二)貧困大国の医療にみる,日本の宝
 ジャーナリストの堤未果氏は,自身の取材経験を踏まえ,貧困大国・格差社会アメリカにおける医療の実態として,アメリカで年間九十万人が医療費を払えずに自己破産する原因は,“教育”“医療・福祉”等,「全てを商品化した」ことにあると指摘.二〇〇一年の「9・11同時多発テロ」や二〇〇五年の「ハリケーンカトリーナ」等,国民の関心が一点に集中し思考停止に陥った時に,社会保障費が削られ民営化・市場化が進められて“合法的な改革”が行われ,その結果,医療の質が低下したとして,東日本大震災後,規制緩和の議論に国民の関心が向いていない日本の現状を危惧した.
 更に,「国民一人ひとりが,世界最高の医療制度をもつ日本に何が起こっているのかを知ることで大きな変革の波が起こせるのではないか」と述べた.
 (三)医療の消費税,何が問題か
 今村(聡)常任理事は,医療と消費税の仕組みについて,一般市民にも分かりやすく解説した.
 保険証を提示して受ける医療が非課税と知っているのは国民・患者共にほぼ四分の一のみという日医のアンケート調査を紹介.また,「社会政策的な配慮」から消費税が非課税となっているものの中で,保険証を提示して受ける医療のみが公定価格であることを紹介.このことのメリットを述べた上で,自由価格のように消費税分を転嫁することが出来ず,消費税を負担する問題が発生,更に,消費税の補てん分とされた診療報酬への上乗せの仕組みも不整合であることを説明.この問題を解決しないまま消費税率が一〇%に上がれば,医療機関の経営が立ち行かなくなり,医療は後退・崩壊し,ひいては医療を受ける国民・患者にとっても不幸なことになるとした.
 同常任理事は,「税の問題で医療崩壊を加速することがあってはならない」と強調し,参加者に理解を求め,「一緒に考えていただきたい」と呼び掛けた.

パネルディスカッション

 基調講演を行った三氏に,田辺功氏(医療ジャーナリスト)・船本智睦氏(税理士)・伊藤伸一氏(四病協 医業経営・税制委員会委員長)の三氏を加えた六氏により,パネルディスカッション「医療と消費税」が行われた.
 その中で,今村(聡)常任理事は,「医療を消費として課税することを良しとはしていない」とする一方,「仕入れ分を控除対象とするためには,課税対象とせざるを得ないことから,ゼロ税率が最も望ましい」と述べ,他の出席者からも賛同の意見が述べられ,セミナーは終了した.
 なお,本セミナーには,東京・埼玉・千葉・神奈川各都県医師会並びに日本歯科医師会,日本薬剤師会,日本看護協会,日本病院団体協議会,全国老人保健施設協会,東京都病院協会が後援団体として協力した.参加者は約千八百人.

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