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第1201号(平成23年9月20日) |

君! それは,冒涜(ぼうとく)だよ!

介護認定審査会委員を務める友人の話である.高齢者で認知症があっても主治医意見書でいつも「自立」と診断する大先輩がいらっしゃるそうである.
老齢でも矍鑠(かくしゃく)とした先輩に理由を質したところ「君達は,たどたどしく歩く老人にあえて病名を付けるのかい? 認知症も同じだろう? 年相応に記銘力等が落ちるのは当たり前だよ.だから老化による変質を疾患と捉えるのは反対だな! それは老人の尊厳を侵すことだよ」
友人は,「先生,介護保険では『困った状態』になった時,助け合いの理念から……」「君! 『困った状態』とは何だね! 僕達は望んで長寿になったのではない.今では健康のお手本と言われる和食中心の粗食も,食べたかったからではなく,それしか食べるものが無かったのだ.国が元気で長生きしろと言うから,それに従って真面目に働き,社会にも尽くしてきた.『困った状態』まで老いるつもりはなかったよ.それを最後には病名を付けて『老い』を冒涜する.介護認定のためでもまっぴらだよ」
ご老人の感傷から出た言葉と一笑に付すのは訳ないが,それではどこか気が咎(とが)める.
さて,自分が将来認知症と言われたらどうするだろうか.その歳には必ずや持っていると思われる杖に支えられながらも,矜持(きょうじ)を保つため反駁(はんばく)を試みるだろうか.それとも丸くなった背をそのままに,おとなしく受け入れるのだろうか.
まあ,今日のところは難しく考えず,誘われた飲み会に行くか,最近ご無沙汰しているプールに行くか悩むぐらいにしておこう.
(美)
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