日医ニュース
日医ニュース目次 第1228号(平成24年11月5日)

第127回日本医師会臨時代議員会
日本医師会の公益社団法人移行に伴う定款・諸規程変更案可決/来年4月1日に公益社団法人へ移行予定

 第127回日本医師会臨時代議員会が10月28日,日医会館大講堂で開催され,「公益社団法人への移行認定申請及びそれに伴う定款・諸規程変更の件」など,2議案を賛成多数で可決した.
 当日,横倉義武会長は次のようにあいさつし,「国民と共に歩む専門家集団としての医師会」を目指して,役職員一丸となって努力していく意向を示した.
(関連別記事参照,詳細は『日医雑誌』12月号の別冊参照)

会長あいさつ(要旨)

第127回日本医師会臨時代議員会/日本医師会の公益社団法人移行に伴う定款・諸規程変更案可決/来年4月1日に公益社団法人へ移行予定(写真) 大きな傷跡と深い悲しみを残した東日本大震災から,一年七カ月が経過しました.被災地域の復旧・復興が進んでおりますが,未だ道半ばと言わざるを得ません.日医では,発災直後より,各都道府県医師会の多大なるご協力の下,JMAT活動を始めとする支援を行って参りましたが,今なお大変なご努力をなされている,被災された岩手県,宮城県,福島県等の先生方に敬意を表する次第であります.
 また,先日,日医の会員であります京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授が,日本人医師として初めてノーベル医学・生理学賞を受賞されました.この度の山中教授の受賞にお祝いを申し上げますとともに,先生のこれまでの研究に対する姿勢に敬意を表します.山中教授には,平成二十二年に,「日本医師会医学賞」を贈呈し,その際には記念講演もして頂いたところでありますが,日医と致しましても,研究環境が円滑に整えられるよう,法整備面,倫理面に関しまして全面的にバックアップを行って参りたいと思います.
 基礎研究や最先端の医学研究が活発に行われている一方,その臨床医学への橋渡しの部分が必ずしも円滑に運営されているとは言えないこともあります.今期の学術推進会議では「わが国におけるトランスレーショナルリサーチの現状と課題」を諮問いたしました.更に生命倫理懇談会におきましても,「今日の医療をめぐる生命倫理─特に終末期医療と遺伝子診断・治療について─」を諮問したところであります.
 このように再生医療や遺伝子治療等の高度先進医療に注目が集まりがちですが,多くの国民が安心して生活していくため,国民の社会的共通資本として,「地域医療の再興」が喫緊の課題であります.

より良い医療提供体制の構築に向けて

 国は医療機能の分化を推進し,施設から地域へ,医療から介護へという「将来像に向けての医療・介護機能再編の方向性イメージ」を描いています.しかし,わが国ではこれまで,かかりつけ医を中心として,地域の身近な通院先,急性期から慢性期,回復期,在宅医療と「切れ目のない医療・介護」が提供され,国民の健康と安心を支えて参りました.地域医療は,それぞれの地域で必要とされる医療を適切に提供していく仕組みが重要であり,国の方針を都道府県の医療政策にいかに落とし込むかではなく,都道府県や市町村等地域の実態に基づいたものとすべきであります.それにより,国民にとっても医療提供者にとっても,望ましい医療体制の構築が行われるべきと常々考えております.
 そのためには,会員一人ひとりが,地域の中で担うべき役割を認識することが重要であります.ボトムアップ型としての地域医療提供体制の再構築に向けて,「切れ目のない医療・介護」という視点を持つべきであり,地域の実情や家族のあり方を考慮した,柔軟に活用出来る多様な仕組みを提案する必要があります.
 平成二十五年度には,医療計画が策定されますが,地域の実情が十分に反映され,地域にとって自由度の高い制度の設計をすべきであります.地域の医療・介護から福祉まで全体を見据えたニーズを見極め,急性期だけではなく,予防,亜急性期,回復期,慢性期,在宅医療まで,「切れ目のない医療・介護」の提供体制を提案出来るのは地域医師会しかありません.住民・患者が医療へのアクセスを十分に確保出来るよう,地域医師会がこれまで築き上げてきた実績を生かし,かかりつけ医機能を更に推進し,医療機能の役割分担と連携を図ることが重要です.
 高齢者人口は,首都圏を始めとする都市部を中心に急速に増加することが見込まれておりますが,地域の疾病構造も変わり,疾病予防や介護予防が重要になると考えられます.地域によって医療資源は異なっておりますので,将来の性別,年齢階級別の人口構成や有病率等,地域において予測された医療ニーズを基に,かかりつけ医機能を中心としたそれぞれの地域の医療提供体制を構築する必要があります.
 また,在宅医療も重要となってきます.在宅医療は在院日数の短縮や病床削減のためではなく,患者さんのQOL向上や医療・介護の役割分担のための在宅医療が求められます.このためには,「点」ではなく,「面」としての連携が必要であり,在宅医療・介護の提供者,急変時の受け入れ医療機関等,地方と都市部の違いや,在宅だけでなく,「施設も,在宅も」といった選択肢も含めて,地域全体の関係者が参加する在宅医療ネットワークづくりが急務です.介護施設における終末期患者の救急搬送のあり方についても,今後更なる検討が必要となってきます.
 併せて,医師,看護職員等の生涯教育や,多様な関係者・職種間の協力体制が必要です.医師会は,医療全体をリードする立場から,国民医療推進協議会や東日本大震災における被災者健康支援連絡協議会,糖尿病対策推進会議など,これまでも地域のさまざまな関係者を取りまとめ,連携を進めてきました.
 例えば糖尿病における医療連携では,日医,日本糖尿病学会,日本糖尿病協会,日本歯科医師会が中心となって日本糖尿病対策推進会議を構成し,更には健康保険組合連合会,国民健康保険中央会,日本腎臓学会,日本眼科医会,日本看護協会からも幹事として参加することにより,関係者間の連携構築が行われています.更には行政とも連携し,医療計画において各地域の糖尿病対策推進会議の活用をもって糖尿病の医療連携体制の構築を行っています.日医でも,『糖尿病治療のエッセンス』を作成・配布しています.かかりつけ医の先生方は,エッセンスに基づき,早期発見,専門医への紹介,症状改善後の受け入れや,食事療法,経口薬療法などの日常診療,重症化予防等の糖尿病治療を行っています.このように,疾病の予防,患者さんのQOL向上のためには,保健・介護・福祉関係者との協力が求められ,更には,ITを利用した地域の医療連携も重要となります.

医師の偏在解消に四つの提言

 次に医師の偏在解消についてですが,医師養成数は二〇〇八年に増加に転じました.二〇〇八年度から医学部入学定員は千三百六十六人増えており,その数は新設医学部の定員数を仮に百人とすると,約十三大学分に相当します.
 今後は医師の偏在解消策として,(一)地域医療の経験を医師のキャリアアップの要件とすること,(二)医療訴訟につながるケースを減らすこと,医療事故を刑事訴追の対象にしないこと,(三)医師が勤務しやすい就業環境の整備,特に急増している女性医師への支援,(四)初期臨床研修のマッチングの見直し─の四つを提言したいと思います.
 特に診療に関連した予期しない死亡の調査は,個人の責任追及を目的とするものであってはならず,診療に関連した予期しない死亡の死因分析と再発防止,それによる医療の質と安全の向上,及び医療の透明性・公明性・信頼性の確保を目的とすべきです.
 このように山積する課題解消のため,医療・介護の財源を十分に確保することが必要なのは言うまでもありません.一方で,国の税収は減少し,社会保障関係費は増加しております.そのような中で,社会保障・税一体改革関連法が,本年八月十日に成立しました.国が現在進めている社会保障・税一体改革につきましては,社会保障の機能強化と持続可能性確保の方向性はわれわれと同じであると考えており,消費税率の引き上げにより社会保障の安定的財源が確保されたこと,消費税収を年金,医療,介護,少子化のために充当することが明確化されたことを評価したいと思います.
 しかし,社会保険診療が非課税となっているために,医療機関で発生している控除対象外消費税は看過出来ないほどの金額になっています.現在のように診療報酬に上乗せをする対応は,国民から見ても医療機関にとっても,不透明かつ不十分であり,抜本的な控除対象外消費税の解消を求めていきたいと思います.
 なお,社会保障制度改革推進法には,公的医療保険制度について,「原則として全ての国民が加入する仕組みを維持する」とされています.この「原則として」という表現は,国民皆保険に例外をつくる可能性があり,保険給付の重点化,更には適用範囲の縮小が懸念され,世界に誇れる国民皆保険を歪める保険免責制や受診時定額負担の導入,更には混合診療の全面解禁につながる恐れがあります.国民が受けられる医療の格差拡大につながらないよう,しっかりと注視していきたいと思います.

国民皆保険の堅持が最重要課題

 環太平洋連携協定(TPP)につきましては,医療における株式会社の参入の要求や,中医協における薬価決定プロセスヘの干渉等を通じて,公的医療保険制度を揺るがすことが問題と考えています.
 米国は日本の公的医療保険に対し,これまで,一九八五年のMOSS協議,二〇〇一年の米国「年次改革要望書」,二〇一〇年の米国「外国貿易障壁報告書」,二〇一一年の「日米経済調和対話」等,内政干渉とも言えるさまざまな要求を行ってきました.
 また,日本国内におきましても,いわゆる医療ツーリズムなど,これまで米国が要求してきた公的医療保険の営利産業化を進めようとする動きが見られます.公的医療保険の営利産業化や混合診療の全面解禁は,国民皆保険の崩壊につながります.必要な規制改革は行わなければなりませんが,過度の規制改革は絶対に受け入れるわけにはいきません.
 そのような中で,本年七月三十一日に閣議決定された「日本再生戦略」には,復興特区を含めた特区の活用を推進し,新たに機関特区を創設する方針が記されています.特区の提案内容を見ると,医療への株式会社参入や混合診療の全面解禁の問題が懸念されます.
 日本の医療制度は世界に冠たる制度であり,わが国の公的医療保険制度の基本理念として,「全ての国民が,同じ医療を受けられる制度」「全ての国民が,支払能力に応じて公平な負担をする制度」「将来にわたって持続可能性のある制度」の三点が必要であり,それを守る決意で今後も臨んで参ります.
 日医は,医師を代表する唯一の団体であり,また,医療関係団体の一つではなく,医療全体をリードする唯一の団体であり,これからも,「国民と共に歩む専門家集団としての医師会」を目指して,世界に冠たる国民皆保険の堅持を主軸に,国民の視点に立った多角的な事業を展開し,真に国民に求められる医療提供体制の実現に向けて,会員と共に,役職員一丸となって努力して参ります.更に,より良い医療を目指して日本医師会の強化を図って参りますので,引き続き,代議員の先生方におかれてはご支援のほどお願い申し上げます.

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