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第1241号(平成25年5月20日) |


今号では,多くの会員の先生方から寄せられた医療問題に関するさまざまな質問の中から,以下の2つの質問に対する回答を掲載する.
Q:日医医賠責特約保険の特色について教えて下さい
A 葉梨:最初に,日本医師会医師賠償責任保険(以下,「日医医賠責保険」)について,説明します.日医医賠責保険は,医療事故をめぐる民事上の紛争を処理する制度として,昭和四十八年七月一日に発足し,以来四十年間事業の運営を継続しています.
この日医医賠責保険は,A会員一人ひとりの医療行為上の責任を担保することを基本としています.従って,病院,診療所の開設者あるいは管理者であるA会員が,A会員でない医師を雇い,その「非A会員」が医療事故を起こし,A会員が管理者責任を問われて損害賠償請求を受けても,A会員でない医師の責任についてはカバーしません.また,開設者がA会員である医療法人などの法人固有の責任についても,同様であります.
このため,紛争解決時に,A会員でない医師に責任がある場合や法人固有の責任負担額部分については,その部分を控除して保険金が支払われます.このことを「保険金のカット払い」と呼称しております.当然日医医賠責保険とは別にA会員以外の医師の責任部分や法人固有の責任をカバーする医師賠償責任保険の手当てが必要となります.
更に,近年,日医医賠責保険の一事故限度額である一億円を超える賠償請求も増加しております.
このような状況を踏まえて,平成十三年九月一日に日医医賠責保険の上乗せとして「日医医賠責特約保険」が創設され,A会員の管理者責任や法人責任に十分対応出来,高額賠償事例にも対応出来るようになりました.
特約保険の主な特色は以下のとおりです.
一,A会員を取り巻く環境に適応出来るように,特約保険を必要とするA会員のみが加入出来る任意加入制度です.
二,日医医賠責保険で控除される部分を支払うことで,「カット払い」が解消されます.
三,高額賠償事例にも対応出来るように,保険金支払い限度額は,日医医賠責保険の支払限度額と合算して,一事故二億円,保険期間中六億円となります.
四,記名法人を記入することにより,設立法人の責任部分もカバーされます.
五,権威ある審査機構の設置,争訟体制等,日医医賠責保険の特色は,特約保険についてもそのまま継承されています.
更に,日医ニュース四月五日号の折り込みチラシでご案内のように,本年七月一日保険開始分より,特約保険の掛金が下がります.未加入のA会員の先生方には,この際,ぜひ加入のご検討をお願いいたします.
ご加入の手続きは,所属の都道府県医師会(一部地域では,郡市区医師会)にご連絡をお願いいたします.
(葉梨之紀常任理事)
Q:地域産業保健センターに関する日医の見解を教えて下さい
A 道永:地域産業保健センター事業は,単年度の委託事業であることや近年の制度変更のために安定的・継続的な運営が困難な状況にあります.
昨年,地域産業保健センター事業並びに産業保健推進センター事業に関する調査を実施しました.その結果,各医師会からは地域産業保健センター事業については,郡市区医師会単位に戻し,安定的・継続的な事業の運営を希望する意見が多く寄せられました.また,産業保健推進センター事業についても三分の二余りの推進センターが連絡事務所になり,現場の混乱が報告されています.
このような調査結果を踏まえ,地域産業保健センター,産業保健推進センター並びにメンタルヘルス対策支援センター事業の一括運営について,日医の産業保健委員会で審議し,中間答申を取りまとめました.
同中間答申では,現在,これら三センターが抱える多くの課題を解決して,三事業が本来目指している機能を安定的・継続的に発揮出来るようにするために,次のような三つの提言がされました.
(1)三事業を一元化して運営すべきである.
(2)一元化する事業については,経理処理や庶務機能の効率化のために,労働者健康福祉機構を設置主体とし,都道府県医師会及び郡市区医師会が主体的に関与して事業を運営すべきである.
(3)産業保健支援事業に関する経理や庶務の業務を集約して合理的に処理するため,全国八カ所程度に産業保健支援事業経理事務所(仮称)でまとめて行う.
この中間答申の提言を踏まえ,平成二十四年十二月二十五日には,中野雅之厚生労働省労働基準局長に,三事業の一括運営について要望をしました.これに対し,予算に盛り込めるよう前向きに検討するとの回答を得たところです.
三事業を一括運営することで,次のような四つの利点が考えられます.
(1)現在,産業保健推進センターが,三十一カ所は連絡事務所になっているが,四十七都道府県に推進センターが復活することになる.
(2)労働者健康福祉機構の事業として行うことで,安定的・継続的な事業となり,単年度の委託事業のために,年度初めの運営に支障が生じたり,毎年企画競争入札に応募する必要がなくなる.
(3)三つの事業を一体的に行うことで,予算の増額が見込まれる.
(4)煩雑な経理事務を機構が行うことから,会計検査院の調査は機構が受けることになるため,医師会として本来業務に専念する形で協力出来る.
現在,産業保健委員会において,三事業の一括運営に関するQ&Aを作成中です.
また,国においても,「産業保健を支援する事業の在り方に関する検討会」を設置し,産業保健事業の一括運営について検討が開始されていますので,長年地域産業保健事業に取り組んでこられた先生方のご意見が十分反映出来るよう,行政に働き掛けて参ります.
特に,産業保健事業の質の確保のためには,都道府県医師会や郡市区医師会の協力が不可欠でありますので,医師会が主体的に関与出来る仕組みをつくっていきたいと考えています.
(道永麻里常任理事)
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